精神の障害によって障害年金を受給するようになると、経済的な不安が少し軽くなる一方で、思いがけず強い罪悪感に悩まされることがあります。街で仕事へ向かう人を見たり、家族や知人が働いている姿を見たりするたびに、「自分だけお金を受け取っていていいのだろうか」「社会に申し訳ない」と自分を責めてしまう人もいます。
しかし、障害年金は誰かの好意によって特別に与えられるお金ではありません。法律に基づく公的年金制度の一つであり、一定の要件を満たした人の生活を支えるための社会保障です。罪悪感が生まれる仕組みを知り、自分の状態と制度を切り分けて考えることは、心の負担を軽くする第一歩になります。
障害年金を受け取ることは「働いている人に申し訳ないこと」ではない
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などに一定の制限が生じている人を支える公的な年金制度です。精神障害についても、診断名だけではなく日常生活能力や就労状況などを踏まえ、所定の認定基準に基づいて受給の可否が判断されます。
つまり、受給が認められたという事実を「楽をしてお金をもらっている」と置き換えて考える必要はありません。制度上の要件について審査を受け、その結果として給付の対象になっているから受給している、と考えるほうが制度の実態に近いでしょう。
病気で働けない人が医療を受けることや、失業した人が一定の要件のもとで給付を受けることと同じように、必要なときに社会保障を利用すること自体は制度が予定している使い方です。
なぜ障害年金を受け取ると罪悪感が強くなることがあるのか
罪悪感の背景には、「働いていること=社会に貢献していること」「収入は自分で稼がなければならない」といった価値観が影響していることがあります。これまで真面目に仕事や学校生活を続けてきた人ほど、以前と同じことができなくなった自分を厳しく評価してしまう場合があります。
また、精神的につらい状態では、自分自身に対する評価が必要以上に否定的になることがあります。「周囲は頑張っているのに自分だけ何もしていない」「自分は迷惑をかけている」といった考えが頭の中を占めるようになると、それが客観的な事実なのか、その時の心身の状態によって強く感じている考えなのかを区別することが難しくなります。
例えば、外出した日に通勤中の人を見て落ち込んだとしても、見えているのはその人の生活のほんの一部分です。その人にも病気になる時期や休職する時期があるかもしれません。社会保障は、人生のさまざまな局面で支え合うための仕組みでもあります。
罪悪感を少し軽くするためにできること
罪悪感を完全になくそうとすると、かえって「まだ罪悪感を感じている自分は駄目だ」と二重に苦しくなることがあります。まずは、罪悪感が出てきたときに、その感情と事実を分けてみる方法があります。
例えば「働いている人を見ると申し訳ない」という気持ちが浮かんだら、「私は申し訳ない人間だ」と結論づける代わりに、「今、申し訳ないという感情が強くなっている」と言葉にしてみます。感情が存在することと、その感情が示す内容が事実であることは同じではありません。
さらに、紙やスマートフォンのメモに「今日できたこと」を小さく記録する方法もあります。「起きて食事をした」「薬を飲んだ」「診察へ行った」「洗濯した」「外へ5分出た」といったことで構いません。回復期には、生活を維持すること自体が重要な取り組みになることがあります。
「早く働いて恩返ししなければ」と焦る必要はない
罪悪感が強いと、「少しでも働かなければ」「早く普通の生活に戻らなければ」と焦ってしまうことがあります。しかし、無理をして状態を悪化させれば、結果として回復に時間がかかることもあります。
就労を考えられる状態になった場合も、いきなり以前と同じ働き方へ戻る必要はありません。主治医などと相談しながら、生活リズムを整える段階、外出に慣れる段階、就労支援を利用する段階など、その人に合ったペースを検討できます。
反対に、現時点では働くことを考えられないほどつらいのであれば、仕事をどうするかよりも治療と生活の安定を優先する時期と考えることもできます。「将来働けるか」という大きな問題を、今日中に決める必要はありません。
「死にたい」という気持ちが出るほど苦しいときは一人で処理しない
罪悪感から「死にたい」と思うほど苦しくなっている場合は、単なるお金の悩みとして抱え込まず、主治医や精神科・心療内科などの医療者にそのまま伝えることが重要です。「死にたい気持ちがある」と伝えることは大げさなことではなく、今の状態を医療者が判断するために重要な情報です。
診察ではうまく話せなくなることもあります。その場合は、「障害年金を受給してから罪悪感が強くなった」「働いている人を見ると申し訳なくなる」「死にたいと思うことがある」など、普段考えていることをメモにして医師へ見せる方法もあります。
もし今まさに自分を傷つけてしまいそう、具体的な自殺の行動に移りそうという状態であれば、一人で安全を確保しようとせず、近くにいる信頼できる人、医療機関、地域の緊急支援につながることを優先してください。危険につながり得る物から距離を取り、一人にならないことも大切です。
障害年金について「受給し続けていいのか」と不安になったとき
障害年金を受給していると、「少し外出できたから受け取ってはいけないのでは」「調子の良い日があるから不正なのでは」と心配する人もいます。しかし、精神障害の状態には波があることもあり、ある日に買い物や外出ができたという一場面だけで受給資格のすべてが決まるわけではありません。
一方で、障害年金には更新が必要となる場合があり、障害状態が変化すれば支給内容が変わる可能性もあります。受給について疑問がある場合は、自分だけで「受け取ってはいけない」と判断するのではなく、年金事務所などの公的な窓口で制度上の扱いを確認することが適切です。
制度上受給できるかどうかという問題と、「自分には受け取る価値がない」と感じる心理的な問題は分けて考えることが重要です。前者は制度の基準によって判断され、後者については医療者などの支援を受けながら扱っていくことができます。
生活を支えてもらう期間も人生の一部
社会との関わり方は、仕事だけではありません。治療を続けること、生活を立て直すこと、人との関係を維持することも、その人の生活を構成する大切な要素です。
また、人生には支える側になる時期と支えられる側になる時期があります。障害年金を利用している期間について、「何もしていない時間」ではなく「制度を利用しながら生活や治療を維持している時間」と捉えることもできます。
罪悪感が強いときほど、一生分の人生について答えを出そうとせず、「今日は食事をする」「今日は診察に行く」といった短い単位で考えることが役立つ場合があります。
まとめ
障害年金は、一定の要件を満たした人を支えるために法律に基づいて設けられた社会保障制度です。受給していることと、他の人に迷惑をかけていることは同じではありません。
それでも強い罪悪感が続く場合、その苦しさそのものを主治医などに相談する価値があります。特に「死にたい」という気持ちが現れるほど追い詰められている場合は、我慢して一人で解決しようとするより、医療者や身近な人などにつながり、安全を確保することを最優先にしてください。
罪悪感を一度に消す必要はありません。「制度上必要な支援を受けている」という事実と、「申し訳ないと感じている」という感情を少しずつ分けて考えることが、心の負担を和らげる一つの出発点になります。


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