再就職手当を受給した後、再就職先を退職したり、雇用保険の対象外となる働き方へ変更したり、その後に自営業を始めたりすることがあります。この場合に気になるのが、「再就職手当を受け取った後に働き方を変えると不正受給になるのか」という点です。
結論からいうと、再就職手当の支給決定後に退職した、雇用保険から外れた、あるいは自営業を開始したという事実だけで、直ちに不正受給になるわけではありません。厚生労働省も、再就職手当を受給した後に再就職先を退職するケースを想定した案内をしています。
ただし重要なのは、再就職手当を申請・受給した時点で支給要件を本当に満たしていたか、そして虚偽の申告や事実の隠蔽がなかったかです。最初から短期間で辞めることが決まっていたなど、申請時の事情によっては結論が変わるため、個別事情は管轄のハローワークへ確認する必要があります。
再就職手当は「安定した職業に就いた人」のための給付
再就職手当は、雇用保険の基本手当を受給できる人が早期に安定した職業へ就き、一定の要件を満たした場合に支給される制度です。厚生労働省によると、就職日の前日までの失業認定後に基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていることなど、複数の要件があります。[参照:厚生労働省 Q&A~労働者の皆様へ]
雇用による再就職では、「1年を超えて勤務することが確実であると認められること」が重要な要件です。また原則として、雇用保険の被保険者資格を取得する条件での雇用であることも要件とされています。
ここでいう1年という条件は、「受給した人は何があっても1年間退職してはいけない」という意味とは異なります。ポイントは、再就職した時点で1年を超えて勤務することが確実と認められる雇用だったかということです。
再就職手当を受け取った後に退職しても直ちに不正受給ではない
厚生労働省の公式Q&Aでは、再就職手当を受給した後に再び離職した場合についても説明されています。再就職手当を受給した後でも、基本手当の支給残日数があり、受給期間満了日前に再び失業状態となった場合には、一定の条件のもとで基本手当を再び受給できる場合があります。[参照:厚生労働省 Q44]
つまり制度そのものが「再就職手当を受けた人が、その後に退職する可能性」を想定しています。したがって、支給後に退職したという結果だけから、過去の再就職手当が自動的に不正受給になるわけではありません。
例えば、当初は長期間勤務するつもりで無期雇用として就職したものの、数か月後に家庭事情や職場環境などの理由から退職することになった場合、「1年未満で辞めた」という事実だけをもって直ちに不正受給と判断されるものではありません。
問題になるのは申請時点で虚偽や事実の隠蔽があった場合
一方で注意が必要なのは、再就職手当の申請時点です。再就職手当は複数の支給要件を確認したうえでハローワークが支給を決定します。その判断に必要な事実について虚偽申告などがあれば、不正受給の問題が生じる可能性があります。
例えば、実際には短期間で終了することが最初から決まっている雇用なのに、1年を超えて継続することが確実であるかのような虚偽の申告をするケースは、単純な「支給後の退職」とは話が違います。
また、再就職手当の支給決定前にすでに退職していた、自営業の準備を本格的に始めていたなど、審査に影響する事情が生じている場合も自己判断しないほうが安全です。支給決定前後で事情が変わった場合は、申請したハローワークへ速やかに事実関係を伝えて確認するのが確実です。
「支給決定後」と「申請中」では状況が違う
再就職手当では、申請書を提出した瞬間に受給が確定するわけではありません。ハローワークが申請内容を審査して支給の可否を判断します。厚生労働省も、再就職手当支給申請書を受理した後に審査を行うと案内しています。
そのため「申請した後、まだ審査中に退職した」というケースと、「審査が終わり支給決定を受け、その後に事情が変わった」というケースを同じものとして考えないことが重要です。
支給決定通知を受けた直後に雇用保険を外れる予定がある場合など、時系列が近いケースでは、就職時からその予定が決まっていたのか、それとも支給決定後に新たな事情が発生したのかによっても判断材料が変わります。具体的な日付を整理してハローワークへ説明すると確認しやすくなります。
パートをしながら自営業を始めること自体は禁止されていない
再就職手当を適法に受給した後、その後の働き方として雇用保険の対象外となるパート勤務をしながら自営業を始めること自体が、再就職手当制度によって一律に禁止されているわけではありません。
なお、雇用保険の失業給付を受給している途中で自営業を始める場合には別の注意があります。ハローワークでは、事業を開始することが決まった場合、原則として事業開始の前日、準備期間がある場合にはその準備を開始する前に申告するよう案内しています。自営の準備に専念する段階で「失業」の状態ではなくなったと判断されることがあるためです。[参照:ハローワーク福岡中央 よくあるご質問]
再就職手当を受け取った後に再び基本手当を受給しようとする場合には、この「失業状態かどうか」が重要になります。パート勤務や自営業をしているからといって過去の再就職手当が直ちに問題になるわけではありませんが、新たに基本手当を受ける場合には現在の就労・事業状況を正確に申告する必要があります。
自営業そのものが再就職手当の対象になる場合もある
そもそも再就職手当は会社員だけを対象にした制度ではありません。ハローワークインターネットサービスでは、安定した職業に就いた場合として、雇用保険の被保険者となるケースだけでなく、一定の条件を満たして事業主となる場合についても案内されています。[参照:ハローワークインターネットサービス 就職促進給付]
ハローワークの案内では、自営の場合について「1年を超えて事業を安定的に継続して行うことができる客観的条件」を備えていることなどが確認されます。このことからも、自営業を開始すること自体を「再就職手当を受けた人がしてはいけない行為」と考えるのは適切ではありません。
ただし、最初の再就職手当を会社への就職を理由として申請したのであれば、その申請時の雇用条件と事実関係が審査の基礎になります。後から自営業を始めることと、最初から自営へ移る予定を隠して形式的に就職した場合とでは意味が異なります。
ハローワークへ相談するときは時系列を整理する
この問題は「支給決定後なら何をしても問題ない」「1年以内に辞めたら全額返還」といった単純なルールで判断するのではなく、実際の経緯を確認する必要があります。特に支給決定直後に雇用形態が変わる場合は、管轄ハローワークへ確認するのが安全です。
相談するときは、次の情報を時系列にしておくと説明しやすくなります。
- 再就職した日
- 再就職手当を申請した日
- 再就職手当の支給決定日
- 実際の振込日
- 雇用保険の資格を喪失する日
- パート勤務へ変更・転職する日
- 自営業を始めることを決めた日
- 開業準備を実際に始めた日
- 開業日
例えば「就職時には長期勤務する予定だったが、支給決定後に事情が変わって退職し、その後にパートと自営業を始めることにした」という場合と、「再就職手当を申請する前からすぐ辞めて開業する予定だった」という場合では、確認すべきポイントが異なります。
再び基本手当を受ける場合は特に申告を正確に
厚生労働省によると、再就職手当を受給した後に再び失業した場合でも、支給残日数や受給期間などの条件を満たせば基本手当を受けられることがあります。その際は退職後できるだけ速やかにハローワークで求職申込みを行うよう案内されています。
ただしパートで働いている日や、自営業を開始・準備している事実を申告せず、「完全に失業している」として基本手当を受給することは別問題です。厚生労働省は、基本手当受給中のアルバイト・パートについて申告が必要であり、申告せず受給すると不正受給となる場合があると明記しています。[参照:厚生労働省 雇用保険Q&A]
つまり「過去にもらった再就職手当」と「退職後に受ける可能性のある基本手当」は分けて考える必要があります。後者を申請するなら、パート勤務と自営業の準備・活動について正確に伝えることが非常に重要です。
まとめ:支給決定後に雇用保険を外れて開業しても、それだけで不正受給にはならない
再就職手当の支給決定後に再就職先を退職したり、雇用保険の対象外となるパート勤務へ変わったり、自営業を開始したりしたという事実だけで、直ちに再就職手当の不正受給になるわけではありません。厚生労働省も、再就職手当を受給した後に再び離職するケースを制度上想定しています。
一方、再就職手当の申請時に「1年を超えて勤務することが確実」という要件を実際には満たしていなかった、短期間で退職する予定を隠していた、その他の重要事項について虚偽申告をしていたといった事情があれば話は別です。また退職後に基本手当を再び受給する場合、パート勤務や自営業の準備を隠すことも避けなければなりません。
支給決定と退職・開業の時期が近い場合には自己判断せず、「就職日→申請日→支給決定日→退職または資格喪失日→開業を決めた日→開業準備開始日」の順に整理し、再就職手当を申請したハローワークへ確認するのが最も確実です。


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