本業で社会保険に加入しながら副業をしている人が、本業の勤務時間を減らして別の勤務先を追加する「トリプルワーク」を選ぶこと自体に、法律上の一律な不利益があるわけではありません。ただし、勤務先が3社になると、社会保険・税金・労働時間管理がダブルワークより複雑になります。
特に注意したいのは、本業を週24時間へ減らしても必ず現在の社会保険へそのまま加入し続けられるとは限らないことと、追加した勤務先でも社会保険の加入要件を満たせば、その勤務先の給与も社会保険料の計算に関係することです。
「本業の給料を減らせば社会保険料も下がり、その分を社会保険に入らない別の仕事で稼げる」と単純に考えるのではなく、3つの雇用契約を個別に確認してから働き方を変更することが重要です。
本業を週32時間から24時間へ減らしても社保を継続できる?
健康保険・厚生年金保険には、通常の労働者の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上という加入基準があります。これを満たさなくなっても、一定規模以上の事業所などでは短時間労働者として加入対象になる場合があります。
2026年時点では、短時間労働者について週の所定労働時間20時間以上、学生ではないことなどの要件があり、企業規模については厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業等が対象です。所定内賃金月額8.8万円以上という要件については2026年10月に撤廃予定です。[参照:日本年金機構 短時間労働者への適用拡大]
したがって週24時間勤務なら「20時間以上」という条件は満たしますが、それだけで社保継続が確定するわけではありません。勤務先の規模や雇用契約などを含めて確認する必要があります。勤務時間を変更する前に、本業の人事・給与担当者へ「週24時間の契約になった場合も健康保険・厚生年金の被保険者資格を継続するか」と確認するのが確実です。
3社目でも社会保険の加入対象になる可能性がある
トリプルワークで見落としやすいのが、「すでに本業で社会保険に入っているから、ほかの会社では社会保険に入らない」とは限らないことです。加入要件は勤務先ごとに判断されます。
例えば本業A社で週24時間勤務して社会保険に加入し、新しく始めたC社でもその会社における加入要件を満たした場合、A社だけでなくC社でも被保険者になるケースがあります。
複数の適用事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、日本年金機構へ「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する手続きがあります。各事業所から受ける報酬月額を合算して標準報酬月額が決まり、保険料は各事業所の報酬月額に応じて按分されます。[参照:日本年金機構 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き]
「本業の社会保険料が下がる=世帯全体で得」とは限らない
本業の勤務時間を減らして給与が下がれば、一定の条件を満たした場合には標準報酬月額が下がり、健康保険料や厚生年金保険料が低くなる可能性があります。ただし給与を下げた翌月から必ずすぐ同額だけ保険料が下がるわけではなく、標準報酬月額の決定・改定ルールがあります。
さらに追加した勤務先でも社会保険加入対象になれば、その勤務先からの報酬も合算対象となります。その場合、「本業を減らした分だけ社会保険料を節約する」という想定どおりにならない可能性があります。
逆に、新しい副業先が社会保険の加入要件を満たさない働き方なら、その給与が直ちに本業の標準報酬月額へ合算されるわけではありません。3社から給与を受け取ること自体ではなく、それぞれの勤務先で社会保険の加入要件を満たしているかがポイントです。
トリプルワークでは労働時間の通算にも注意
社会保険とは別に重要なのが労働時間です。雇用契約による副業・兼業では、事業主が異なる場合でも労働基準法上の労働時間を通算する仕組みがあります。厚生労働省は、副業・兼業時の労働時間管理についてガイドラインを公表しています。[参照:厚生労働省 副業・兼業]
2026年8月時点の現行ルールでは、原則として自社の労働時間と、労働者からの申告等によって把握した他社での労働時間を通算します。3以上の事業場で働く場合についても通算の考え方が示されています。
例えばA社24時間、B社10時間、C社10時間で週44時間勤務するようなケースでは、「どの会社も週40時間未満だから問題ない」と単純には判断できません。契約した順番や実際の労働時間などによって時間外労働・割増賃金の扱いが関係するため、各勤務先へ副業・兼業の状況を適切に伝える必要があります。
税金は勤務先が3社になるほど手続きが複雑になりやすい
勤務先が増えても、給与所得そのものが別種類の所得になるわけではありません。しかし年末調整は基本的に主たる勤務先で行われ、ほかの勤務先から受け取る給与については最終的に確定申告が必要になる場合があります。
国税庁によると、2か所以上から給与を受け、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合、年末調整されなかった給与収入と給与所得・退職所得以外の所得との合計額が20万円を超える人などは、原則として確定申告が必要です。例外もあるため個別条件で判断します。[参照:国税庁 給与収入がある方]
例えばA社で年末調整を行い、B社とC社からも継続して給与を受け取る場合には、3社すべての源泉徴収票を保管しておくことが重要です。所得税だけでなく住民税にも最終的な所得が反映されるため、「副業先で所得税を引かれているから税金の手続きはすべて完了」とは限りません。
収入を同じにしても手取りが完全に同じになるとは限らない
例えば現在が「本業32時間+副業」で年間総収入400万円だった人が、「本業24時間+副業+3社目」で同じ400万円を稼いだとしても、手取りまで完全に同じになるとは限りません。
社会保険の加入状況、標準報酬月額、各社での源泉徴収、交通費、仕事を増やすための移動費などが変化するからです。また勤務先を増やすほど、通勤時間という無給の時間が増える可能性があります。
そのため比較するときは額面年収だけではなく、「年間手取り-通勤費などの自己負担」と「年間の拘束時間」を比較するのがおすすめです。時給が同じでも、3社を移動しながら働くほうが実質的な時間効率では悪くなる場合があります。
トリプルワークならではの現実的なデメリット
制度面以外では、スケジュール管理と体調管理の負担が大きくなります。勤務先が3つになると、それぞれのシフト変更、繁忙期、有給休暇、通勤時間などを調整しなければなりません。
また会社ごとに副業・兼業に関する就業規則があります。厚生労働省は副業・兼業を促進する方向のガイドラインを示していますが、労務提供上の支障、秘密保持、競業など合理的な事情が問題になることもあります。勤務先を増やす前に各社の就業規則や届出制度を確認しておきましょう。
一方、収入源を3社へ分散することにはメリットもあります。一つの勤務先でシフト削減や契約終了が起きた際、ほかの収入源が残るためです。仕事内容や勤務時間を自分に合うよう組み合わせられることも、複数就業の利点といえます。
変更前に3社分の条件を表にすると判断しやすい
トリプルワークへ移行する前には、勤務先ごとの条件を一度一覧にすると判断しやすくなります。
| 確認項目 | 本業A社 | 副業B社 | 追加C社 |
|---|---|---|---|
| 週所定労働時間 | 24時間 | ○時間 | ○時間 |
| 月額給与 | ○円 | ○円 | ○円 |
| 社会保険加入 | 要確認 | 要確認 | 要確認 |
| 副業届出 | 要確認 | 要確認 | 要確認 |
| 通勤時間・費用 | ○分・○円 | ○分・○円 | ○分・○円 |
特に最優先で確認したいのは、A社で週24時間になった場合の社会保険資格と、B社・C社それぞれで社会保険の加入要件を満たすかです。この部分が分からなければ、変更後の手取りを正確に比較できません。
社会保険については勤務先の担当部署や年金事務所、所得税については税務署や税理士などへ具体的な給与・契約条件を示して確認すると確実です。
まとめ:トリプルワーク自体より「各勤務先で何の加入要件を満たすか」が重要
本業を週32時間から24時間へ減らし、その減収分を3つ目の勤務先で補う働き方そのものに、一律の大きなデメリットがあるわけではありません。ただし本業の社会保険資格、追加勤務先での社会保険加入、複数事業所勤務の手続き、労働時間の通算、確定申告という5点は事前確認が必要です。
特に「本業の勤務時間を減らしても社保はそのまま」という前提は、会社の規模や契約条件によって変わります。また3社目でも加入要件を満たせば、複数事業所の報酬を合算して社会保険料を計算する場合があるため、本業の給与だけを見て保険料の増減を予測することはできません。
働き方を変更する前に、3社それぞれの週所定労働時間・月額給与・社会保険加入条件を確認し、年間手取りと総労働時間まで試算して比較することが、トリプルワークで後悔しないためのポイントです。


コメント