完全停車中に追突・接触されるなど、被害車側の過失が0となる物損事故でも、修理工場が近くにあるとは限りません。特に離島で輸入車に乗っている場合、対応できるディーラーが本土にしかなく、修理そのものより「どうやって車を運ぶか」「修理後にどうやって回収するか」が大きな問題になります。
この場合、過失割合が10対0だから発生した費用が無条件ですべて支払われる、という仕組みではありません。一方で、事故による損害の回復に必要かつ相当な費用であれば、修理費以外の費用についても賠償の対象として協議できる可能性があります。
重要なのは「レッカー特約が使えるか」だけではなく、離島から本土の修理工場へ車を運ぶ必要性、その方法と費用が合理的か、修理後の引き取り費用まで事故と相当な関係のある損害と認められるかを個別に整理することです。
10対0でも「かかった費用が全部出る」とは限らない
交通事故の損害賠償では、事故によって生じた損害だからといって支出した金額がすべてそのまま認められるわけではありません。事故との因果関係や、その支出の必要性・相当性が問題になります。
例えば近隣に問題なく修理できる工場があるにもかかわらず、個人的な希望だけで遠方の工場を指定し、高額な輸送費を発生させた場合には、その全額について相手側と争いになる可能性があります。
反対に、離島では当該輸入車を適切に修理できず、本土の正規ディーラー等へ入庫させる合理的な理由があるなら事情は大きく異なります。単なる好みではなく「その工場へ運ぶ必要性」を説明できることが重要です。
JA共済の「レッカーサービス」と相手への損害賠償は分けて考える
ここで混同しやすいのがロードサービスです。JA共済のレッカー・ロード費用保障は、基本的にJA共済へ加入している契約車両が事故や故障などで走行不能になった場合の保障です。JA共済は、走行不能となった場所から修理工場等までのレッカー費用・陸送等費用などを保障すると案内しています。[参照:JA共済 お支払いする共済金の種類]
一方、事故相手の車を修理する場合に問題となるのは、加害者側が負う法律上の損害賠償責任です。JA共済の対物賠償は、契約車によって他人の自動車などを破損し、被共済者が法律上の損害賠償責任を負った場合を保障しています。[参照:JA共済 相手方への保障]
したがって、担当者から「全損ではないのでレッカー対応できるか確認する」と言われた場合でも、そこで話を終わらせず、ロードサービスとしてのレッカー可否なのか、対物賠償上の必要な車両運搬費として認めるかという話なのかを確認すると整理しやすくなります。
自走可能な車はレッカーが当然に認められるわけではない
バンパーやナンバープレート周辺の損傷だけで車が安全に自走できる場合、通常の「走行不能車を救援するレッカー」とは性質が異なります。JA共済が契約者向けに提供するレッカーサービスについても、原則として事故等によって対象車が走行不能となった場合などを利用条件としています。[参照:JA共済 ご契約者向け安心サービス]
そのため「自走できるが、離島から数時間かかる本土のディーラーまで修理のため運びたい」というケースで、通常のレッカーサービスと同じ扱いになるとは限りません。
しかし、レッカーサービスの対象外だからといって、車両を修理先へ移動させるための合理的な費用まで直ちにゼロになるとは限りません。フェリー輸送、陸送業者、回送業者など、より合理的な方法を含めて相手側担当者と協議する余地があります。
離島なら「最も合理的な修理方法」を比較すると交渉しやすい
離島から本土へ輸入車を修理に出すケースでは、「被害者本人が往復する方法」「レッカー・陸送する方法」「フェリーだけ本人が運び、本土側を回送業者へ任せる方法」などを比較すると分かりやすくなります。
| 方法 | 発生し得る費用 | ポイント |
|---|---|---|
| 本人がディーラーまで運転 | フェリー代・高速代・帰宅交通費など | 本人の時間的負担が大きい |
| 離島から陸送・レッカー | 車両運搬費・フェリー代など | 高額になりやすく事前承認が重要 |
| フェリー+本土側回送 | フェリー代・回送費など | 費用と本人負担のバランスを取りやすい場合がある |
例えばディーラーまで片道3時間半~4時間かかり、フェリー利用も必要なのであれば、本人が入庫と引き取りで何度も往復するより、回送業者へ依頼したほうが総費用を抑えられる場合もあります。
このように複数案の見積もりを出して「どの方法が最も合理的か」をJA共済の担当者と事前に決めておけば、修理後に費用の支払いをめぐって揉めるリスクを減らせます。
修理後に車を取りに行くフェリー代・交通費は請求できる?
修理後の車両を回収するために必要となる交通費についても、事故との関係や必要性が認められるかがポイントになります。離島に居住し、本土の修理工場へ車を預けた以上、何らかの方法で車を離島へ戻さなければ事故前の状態へ戻せません。
したがって、修理完了後の車両返送費や、本人が回収する場合の合理的な交通費について、相手側へ負担を求めて協議すること自体は不自然ではありません。ただし、フェリー代・タクシー代・高速代・帰路の車両航送代などが必ず全額認められるとは断定できません。
公共交通機関で十分移動できるのに高額なタクシーを長距離利用した場合などは、その必要性を問われる可能性があります。タクシーが必要なら、港からディーラーまで公共交通機関がない、運行時間が合わないといった事情を説明できるようにしておくとよいでしょう。
輸入車だから正規ディーラーで修理したい場合のポイント
輸入車だから必ず正規ディーラーでなければならないという一般的なルールがあるわけではありません。そのため、遠方の正規ディーラーへ運ぶ必要性について相手側から確認される可能性があります。
この場合は「輸入車だから」という抽象的な説明より、島内に当該メーカーを扱える工場がない、事故箇所のセンサーや安全装備について診断が必要、メーカー指定の作業や部品調達が必要など、ディーラー側から具体的に説明してもらえると有効です。
今回のようにディーラー自身が相手側担当者と連絡を取っているのであれば、修理内容だけでなく「なぜこの店舗への入庫が必要なのか」「どの輸送方法が現実的なのか」まで説明してもらうと交渉を進めやすくなります。JA共済も対物事故では相手車の入庫・損傷状況を確認し、修理工場と修理費用を協議すると案内しています。[参照:JA共済 事故解決までの流れ]
費用を立て替える前に必ず承認を取る
最も避けたいのは、自己判断で高額なレッカーや回送業者を手配し、後から請求して「その金額は認められない」と言われることです。離島から本土への車両輸送は高額になる可能性があるため、事前承認が非常に重要です。
担当者には「①離島からディーラーまでの車両運搬費」「②フェリーの車両航送費」「③本土側の回送費」「④修理完了後に車を戻す費用」「⑤本人が回収する場合の船・公共交通・タクシー等」の各項目について、どこまで認めるのか確認しましょう。
できれば電話だけで終わらせず、メールや書面などで回答を残してもらうと安心です。またフェリー会社、回送業者、ディーラーから見積書を取得し、実際に支払った場合は領収書を保管します。
「こちらは0対10だから」という主張だけではなく必要性を説明する
完全停車中などで被害者側の過失が0なら、事故を起こしていないのに時間や費用を負担することへ納得できないのは自然です。ただ、実際の損害賠償交渉では「0対10だから全部払ってほしい」だけでなく、各費用がなぜ必要なのかを具体的に説明するほうが効果的です。
例えば「島内に対応可能な正規ディーラーがない」「最寄りの対応店舗が本土にある」「片道約4時間必要」「フェリーを利用しなければ車を本土へ移動できない」「回送業者利用のほうが本人往復より合理的」と整理します。
もし必要性の高い費用について相手側と折り合えない場合には、自分の自動車保険に弁護士費用特約が付いていないか確認する方法もあります。0対10事故では、自分側の保険会社が相手方との示談交渉を代行できない場合があるためです。
まとめ:離島から本土への修理では「必要かつ合理的な費用」を事前に協議する
10対0の事故で輸入車を離島から本土のディーラーへ修理に出す場合、フェリー代、車両運搬・回送費、修理後に車を戻すための費用などは、事故によって必要となった合理的な費用として相手側と賠償の対象を協議できる可能性があります。ただし、過失が0だから発生した交通費が無条件ですべて全額支払われるわけではありません。
また「自走可能なのでレッカーサービスの対象にならない」という問題と、「事故車を適切な修理工場へ運ぶための費用を法律上の損害としてどう扱うか」は分けて確認することが重要です。レッカーが認められなくても、フェリー+回送業者など別の合理的な輸送方法が認められる可能性があります。
実際に手配する前に、ディーラーから輸送・修理の必要性を説明してもらい、複数の輸送方法と費用をJA共済の担当者へ提示したうえで、往路だけでなく修理後の復路まで「誰が手配し、どの費用を負担するのか」を明確にしておくことが大切です。

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