60歳前後でパートやアルバイトをしていると、勤務時間を増やしたい一方で、税金や健康保険料が増えて手取りがかえって減らないか気になるものです。特に夫が退職して夫婦ともに国民健康保険へ加入した場合、会社員の配偶者として健康保険の扶養に入っていた頃とは考え方が大きく変わります。
さらに、夫の年金に配偶者分の加算が付いている場合は、いわゆる「加給年金」が関係している可能性があります。税金の配偶者控除、健康保険の扶養、加給年金はそれぞれ別の制度なので、ひとまとめに「扶養の年収はいくらまで」と考えると混乱しやすい点に注意が必要です。
この記事では、60歳前後の主婦がパートやダブルワークをするときに確認したい年収の考え方を、2026年時点の制度をもとに整理します。制度は改正されることがあるため、最終的には年金事務所、市区町村、勤務先などにも確認してください。
夫婦とも国民健康保険なら「130万円まで扶養」という考え方は基本的にない
最初に押さえておきたいのが、国民健康保険には、会社の健康保険のような「被扶養者」という仕組みが基本的にないということです。
会社員などが加入する健康保険では、一定の条件を満たす配偶者が被扶養者となり、自分で健康保険料を負担しないケースがあります。この仕組みとの関係でよく知られているのが「130万円の壁」などです。
一方、夫が会社を退職し、夫婦それぞれが国民健康保険の加入者となっている場合は、「夫の健康保険上の扶養から外れないよう年収130万円以内にする」という発想をそのまま当てはめることはできません。国民健康保険料は世帯や前年所得などをもとに自治体ごとのルールで計算されるため、パート収入が増えれば翌年度の保険料に影響する可能性があります。
税金の「扶養」と健康保険の「扶養」は別物
次に整理したいのが税金です。税制には配偶者控除・配偶者特別控除がありますが、これは健康保険の扶養とはまったく別の制度です。
2025年分以降、配偶者の所得要件は改正されています。給与収入だけの場合、年間給与収入が123万円以下であれば、一定の条件のもとで配偶者控除の対象になり得ます。ただし、控除を受ける本人の所得にも要件があります。
また、123万円を少し超えた瞬間に配偶者側の控除がすべてゼロになるわけではありません。一定の範囲では配偶者特別控除が用意されています。そのため「1円でも壁を超えたら世帯全体で大損する」と単純に考えるのは適切ではありません。
税制については改正が続いているため、その年の最新条件を国税庁で確認することが重要です。[参照] 国税庁
夫の年金に付いている「月4万円ほど」は加給年金の可能性を確認
夫の年金に配偶者がいることで金額が加算されている場合、加給年金が関係している可能性があります。加給年金は、一定期間以上厚生年金に加入していた人が原則65歳になった際、生計を維持している65歳未満の配偶者などがいる場合に加算される制度です。
2026年度(令和8年度)は、対象となる配偶者についての加給年金額が年243,800円で、年金受給者本人の生年月日に応じた特別加算が付く場合があります。昭和18年4月2日以後生まれの受給者の場合、特別加算を含む合計額は年423,700円です。実際の受給額は個人の条件によって異なります。
重要なのは、配偶者が65歳になることなどにより加給年金の対象から外れる場合があることです。また、配偶者が一定の老齢厚生年金を受ける権利を持つ場合などには、65歳になる前でも加給年金が支給停止となることがあります。
したがって「自分の年金を受給し始めたら夫の加算が必ずなくなる」と一律には判断できません。本人と配偶者それぞれの年齢、厚生年金加入期間、受給権などによって結論が変わります。夫婦それぞれの基礎年金番号を準備したうえで年金事務所に確認すると確実です。[参照] 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
60歳でダブルワークするときは「年収」だけでなく週の勤務時間も重要
パートを2つ掛け持ちするときに注意したいのが社会保険です。社会保険の加入条件は「年間○万円まで」という金額だけでは決まりません。勤務先の規模、週の所定労働時間、雇用条件なども関係します。
2026年8月時点では、一定規模以上の企業で働く短時間労働者について、週20時間以上、所定内賃金月額8.8万円以上、学生ではないことなどの条件を満たすと、健康保険・厚生年金の加入対象となります。また、制度改正により、いわゆる「106万円の壁」の原因となっていた月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月に撤廃予定で、企業規模要件についても今後段階的に縮小・撤廃されます。
つまり、これから働き方を増やす場合は、昔のように「年収103万円、106万円、130万円のどれかだけを守ればよい」と考えるより、勤務先ごとの週の労働時間と社会保険の適用条件を確認することが重要になっています。[参照] 厚生労働省「年収の壁への対応」
国民健康保険料は収入が増えるとどうなる?
国民健康保険料は、所得割・均等割などを組み合わせて計算されますが、具体的な計算方法や料率は自治体によって異なります。そのため「年収○万円なら国保はいくら」と全国共通の金額を示すことはできません。
一般的には所得が増えると所得割部分も増えるため、パート収入を増やした翌年度に国民健康保険料が上昇する可能性があります。ただし、収入が増えた分がそのまま全額保険料として取られるわけではありません。
例えばパート収入を年間30万円増やしたからといって、国保や税金が30万円増えるという仕組みではありません。手取りの増加額は額面収入より小さくなることがありますが、単に「保険料が上がるから働かない方が得」とは限りません。実際の国保負担については、お住まいの市区町村の国民健康保険窓口で年収見込みを伝え、試算してもらう方法が確実です。
「いくらまで働けば損しない?」は1本の年収ラインでは決められない
ここまでの内容を整理すると、夫婦とも国民健康保険になった世帯では、単純に「年収130万円以内なら得」という基準は使えません。確認すべきなのは、本人の所得税・住民税、夫の配偶者控除等、国民健康保険料、勤務先での社会保険加入、夫の加給年金です。
特にダブルワークを始める場合、「年間収入はいくらになるか」だけでなく、「それぞれの勤務先で週何時間働くのか」「勤務先の社会保険の適用対象になるのか」を確認しましょう。
例えば現在の勤務先で週15時間、新しい勤務先でも週10時間という働き方と、1社で週25時間働く場合とでは、年間給与が同程度でも社会保険上の扱いが同じとは限りません。ダブルワークだから単純に2社の勤務時間を足して加入条件を判定する、というわけでもないため、勤務先ごとの確認が必要です。
60歳から働くなら「壁の直前で止める」以外の選択肢もある
年収の壁を意識すると、どうしても「超えないように勤務時間を減らす」という発想になりがちです。しかし、60歳以降も数年間働く予定なら、社会保険に加入して厚生年金の加入期間を増やすことにも意味があります。
社会保険に加入すれば給与から保険料が差し引かれるため、その時点の手取り額は減ります。一方で厚生年金の加入実績が増えれば、将来受け取る老齢厚生年金額に反映されます。また、健康保険にも国民健康保険とは異なる給付があります。
そのため「今年の手取りだけを最大化する」のか、「65歳以降の年金も含めて考える」のかによって、適した働き方は変わります。短期間だけ働く場合と、65歳や70歳まで継続して働く場合でも判断は異なります。
働き方を決める前に確認しておきたい3つの窓口
60歳前後では税金・健康保険・年金が同時に関係するため、一つの窓口だけですべてを確認するのは難しい場合があります。まず年金事務所では、夫に加給年金が付いているのか、自分が年金を受給した場合にどう変わるのかを確認します。
次に市区町村の国民健康保険担当窓口で、例えば「パート年収100万円・150万円・200万円の場合」など複数パターンの国保負担を確認すると、働き方を比較しやすくなります。
さらに勤務先または新しいアルバイト先には、週の勤務時間を伝えたうえで健康保険・厚生年金の加入対象になるかを確認します。この3点が分かれば、「何万円以内に抑えるべきか」ではなく、「年収を増やした場合に世帯の手取りがどう変化するか」という実用的な比較ができます。
まとめ
夫が退職して夫婦とも国民健康保険に加入している場合、会社員世帯でよくいわれる「130万円以内なら健康保険の扶養」という考え方は基本的に当てはまりません。税制上の配偶者控除、国民健康保険、勤務先での社会保険、年金はそれぞれ別制度として考える必要があります。
また、夫の年金が配偶者分として増えているのであれば、加給年金に該当するかを確認することが重要です。加給年金は配偶者が65歳になった場合などに終了し、配偶者自身の厚生年金の受給権によって支給停止になるケースもあるため、単純な年収だけでは判断できません。
「年収はいくらまでなら損をしないか」には、すべての家庭に共通する一つの答えはありません。まず年金事務所で加給年金、市区町村で国民健康保険料、勤務先で社会保険の加入条件を確認し、年収を複数パターンに分けて世帯全体の手取りを比較するのが現実的です。制度改正も続いているため、働き方を変更する時点の最新情報を公的機関で確認してから勤務時間を決めると安心です。


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