SBIグループの銀行事業を長く見ていると、「なぜ新生銀行を買収した一方で、成長していた住信SBIネット銀行を手放したのか」という疑問が生まれます。しかも住信SBIネット銀行はSBI証券との連携が強く、SBIを代表するネット銀行という印象を持つ利用者も多かった銀行です。
この一連の動きを理解する鍵は、SBI新生銀行と旧・住信SBIネット銀行では、SBIグループにとっての資本関係と戦略上の役割がもともと異なっていたことです。SBIは新生銀行をグループの中核銀行として取り込み、地域金融機関との連携などを担わせる一方、住信SBIネット銀行についてはNTTドコモという新たな大規模顧客基盤を持つパートナーへの移行に経済合理性があると判断しました。
さらに重要なのは、SBIが住信SBIネット銀行の株式を手放したからといって、SBI証券とのサービス連携まで直ちにすべて切ったわけではない点です。資本関係と業務提携を分けて考えると、この再編の狙いが見えやすくなります。
そもそも住信SBIネット銀行はSBIだけの銀行ではなかった
住信SBIネット銀行は、SBIグループと三井住友信託銀行が共同で育ててきたネット銀行です。SBIの名称が入っていたためSBIの完全子会社という印象を持ちやすいものの、2025年の売却直前にSBIホールディングスが保有していた議決権割合は34.19%で、住信SBIネット銀行はSBIホールディングスの持分法適用関連会社でした。
つまり、SBI新生銀行のような連結子会社とは資本関係が異なります。住信SBIネット銀行は2023年に東京証券取引所へ上場しており、SBIが単独で自由に経営できる銀行ではありませんでした。
一方、SBI新生銀行は2021年12月にSBIグループの連結子会社となりました。その後SBIは新生銀行への支配を強め、グループの銀行事業における中核として位置付けています。[参照:SBIホールディングス 地方創生戦略]
SBIが新生銀行を傘下に入れた理由は機能の補完性にある
SBIが新生銀行を傘下に入れた背景には、単純に「もう一つネット銀行が欲しかった」という事情だけがあったわけではありません。SBIは2021年のTOB時、新生銀行とSBIグループの事業ポートフォリオには高い補完性があると説明していました。
新生銀行グループには銀行機能だけでなく、法人金融、ストラクチャードファイナンス、個人向け金融、ノンバンクなど幅広い金融機能がありました。これをSBIが持つ証券、保険、資産運用、FinTech、地域金融機関とのネットワークと組み合わせる狙いがありました。[参照:SBIホールディングス 新生銀行TOBに関する説明]
特にSBIが以前から掲げてきたのが、地域金融機関と共同で金融サービスやシステム、商品などを提供する「第4のメガバンク構想」です。現在、SBIはSBI新生銀行をこの構想の中核として位置付けています。
SBI新生銀行と住信SBIネット銀行は役割が重なっているようで違った
個人利用者から見ると、どちらも預金、振込、住宅ローンなどを提供する銀行なので「SBIグループに銀行が2つある」状態に見えます。しかし経営戦略の観点では役割に違いがありました。
| 項目 | SBI新生銀行 | 旧・住信SBIネット銀行 |
|---|---|---|
| SBIとの関係 | SBIグループの連結子会社・中核銀行 | 売却前は持分法適用関連会社 |
| 特徴 | 銀行・法人金融・ノンバンクなど幅広い機能 | ネット銀行・住宅ローン・NEOBANKなどに強み |
| SBI戦略上の位置付け | 第4のメガバンク構想などの中核 | ネット金融・銀行サービスでSBIと連携 |
SBI新生銀行を取得したから住信SBIネット銀行が不要になった、と単純化するのは正確ではありません。実際、SBIは新生銀行を傘下に入れた後もしばらく住信SBIネット銀行への出資を続け、2023年には住信SBIネット銀行を上場させています。
したがって「銀行が二つになったので片方を整理した」というより、後にNTTグループとの大型資本業務提携という別の戦略的選択肢が現れたことが、住信SBIネット銀行売却の大きな転機でした。
なぜ住信SBIネット銀行をNTTドコモ側へ譲ったのか
2025年5月、NTTドコモによる住信SBIネット銀行の非公開化と、SBIによる全保有株式の譲渡が発表されました。SBIの公式説明によれば、住信SBIネット銀行のさらなる企業価値向上を目指すうえで、大規模な顧客基盤を持つ新たなパートナーとの提携が有力な選択肢になると考えていました。
協議の結果、SBIはNTTドコモが持つさまざまなアセットを活用することで、住信SBIネット銀行の銀行事業の強化・差別化と事業規模拡大が見込めるとして、ドコモを最適なパートナーと判断したと説明しています。さらにSBIにとっても十分な経済合理性のある提案だったとしています。[参照:SBIホールディングス 住信SBIネット銀行株式譲渡に関する発表]
SBIが保有していた51,552,600株、議決権割合34.19%分の譲渡価額は、発表時点の参考値で約1,863億円でした。2025年10月に譲渡が完了し、SBIは連結決算で1,416億円の関連会社株式売却益を計上すると発表しています。[参照:SBIホールディングス 株式譲渡完了]
実は住信SBIネット銀行の売却はNTTとの大型提携の一部分
住信SBIネット銀行だけを見ると「SBIが自社ブランドの銀行をドコモへ売却した」ように見えます。しかし同じ2025年5月29日、SBIホールディングスはNTTとの資本業務提携も発表しています。
この提携では、デジタル技術と金融サービスを組み合わせ、両グループの幅広い事業領域で協業する方針が示されました。つまり住信SBIネット銀行の取引は、より大きなSBIグループとNTTグループの戦略的提携の中で見る必要があります。[参照:SBIホールディングス NTTとの資本業務提携]
言い換えると、SBIは住信SBIネット銀行の株式を持ち続けることだけにこだわらず、価値が高まった持分を売却しながら、NTTという巨大な顧客・通信基盤を持つ企業とのより広範な提携へ進む道を選択したと整理できます。
SBI証券との連携は株式売却後も維持する方針だった
ここは利用者にとって特に重要なポイントです。SBIが株主でなくなれば「SBI証券と住信SBIネット銀行の連携も終わる」と考えがちですが、2025年の取引発表ではそうなっていません。
SBIは、SBI証券、NTTドコモ、住信SBIネット銀行との業務提携契約を締結し、SBI証券と住信SBIネット銀行との業務提携や、従来行われてきたSBIグループとの連携を維持していく方針を明記しました。
これは「所有しなければ提携できないわけではない」ということです。銀行の株式を保有して経営へ参加する資本関係と、口座連携などの商品・サービスを共同提供する業務提携は別物です。
なぜSBIの銀行は最終的にSBI新生銀行が中心になったのか
SBI新生銀行についてSBIホールディングスは、現在も「当社グループの中核銀行」と明確に位置付けています。SBI証券との口座連携、SBIマネープラザとの共同店舗などに加え、第4のメガバンク構想の中核として地域金融機関との連携を進めています。[参照:SBIホールディングス SBI新生銀行の位置付け]
一方、旧・住信SBIネット銀行はドコモの連結子会社となり、三井住友信託銀行との共同経営体制へ移りました。そして2026年8月3日から商号を「ドコモSMTBネット銀行」へ変更しています。
ドコモは、新名称についてドコモと三井住友信託銀行が共同で成長させていく意思を示すものと説明しています。ドコモの会員基盤や店舗などのチャネルと、三井住友信託銀行の銀行経営・金融サービスのノウハウを組み合わせる戦略です。[参照:NTTドコモ ドコモSMTBネット銀行への商号変更]
「住信SBIを持ち続けると問題があった」というより戦略的な選択
以上を踏まえると、「SBI新生銀行を買ったため、住信SBIネット銀行を所有し続けられなくなった」と理解するのは適切ではありません。少なくともSBIの公式説明では、住信SBIネット銀行を持ち続けること自体に重大な問題があったから売却した、という説明にはなっていません。
むしろ、住信SBIネット銀行をさらに成長させるには大規模な顧客基盤を持つパートナーとの提携が有力であり、NTTドコモから企業価値向上とSBI自身の経済合理性を両立できる提案を受けたため売却した、というのが公式資料から読み取れる直接的な理由です。
そしてSBI自身にはすでにSBI新生銀行という連結子会社の中核銀行があります。SBI新生銀行へグループの銀行戦略を集約しながら、旧・住信SBIネット銀行とは株主ではなく提携先として関係を残すことが可能だったため、売却を選択しやすい環境も整っていたと考えられます。この部分は公表された事実を踏まえた戦略上の解釈であり、SBIが「二つの銀行が重複するから売った」と公式に説明したわけではない点には注意が必要です。
まとめ:新生銀行の買収と住信SBIネット銀行の売却は矛盾した行動ではない
SBIの一連の動きを整理すると、SBI新生銀行は自社グループの中核銀行として育成し、旧・住信SBIネット銀行はNTTドコモと三井住友信託銀行のもとでさらなる成長を目指しつつ、SBIとは業務提携を残すという役割分担になったと理解すると分かりやすくなります。
2021年の新生銀行買収では、法人金融やノンバンク機能、地域金融機関との連携などSBIグループとの補完性が重視されました。一方、2025年の住信SBIネット銀行売却では、ドコモの巨大な顧客基盤を活用した成長余地とSBI側の経済合理性が判断材料となり、同時にNTTグループとのより大きな資本業務提携へ発展しました。
そのため「成功した住信SBIネット銀行を捨てて新生銀行へ乗り換えた」というより、銀行を所有することと金融サービスで連携することを切り分け、SBI新生銀行は中核子会社、旧・住信SBIネット銀行は外部パートナーという形へ金融事業の配置を組み替えたと捉えるのが、公開資料に照らして実態に近い理解です。


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