傷病手当金・児童扶養手当の受給中に障害厚生年金3級が決定したら?二重の併給調整と遡及支給・返還の仕組みを解説

年金

傷病手当金や児童扶養手当を受給している途中で障害厚生年金3級が決定すると、「障害年金が増えた分だけ他の給付が減るのか」「同じ障害年金を理由に2つの制度からそれぞれ減額されるのか」という疑問が生じます。特に障害年金が過去にさかのぼって認定された場合は、すでに受け取った給付の返還が必要になる可能性もあるため、家計への影響を把握しておくことが大切です。

結論から整理すると、傷病手当金と児童扶養手当は別々の法律に基づく制度であり、それぞれが独自に障害厚生年金との併給調整を行います。そのため、条件に該当すれば、同じ障害厚生年金が傷病手当金の調整にも、児童扶養手当の調整にも使われることがあります。

ただし計算方法は同じではありません。傷病手当金は原則として日額で障害厚生年金と比較し、児童扶養手当は公的年金の月額相当額などと比較します。また、障害基礎年金を伴わない「障害厚生年金3級のみ」の場合は、児童扶養手当で適用されるルールにも注意が必要です。

傷病手当金と障害厚生年金は同じ傷病なら調整される

健康保険の傷病手当金を受けている人が、同じ傷病を原因として障害厚生年金を受けられるようになった場合、傷病手当金は原則としてそのまま満額併給されません。協会けんぽは、同一の傷病による障害厚生年金を受給すると、傷病手当金の全部または一部が調整されると案内しています。[協会けんぽ参照]

具体的には、障害厚生年金の年額を360で割った日額と傷病手当金の日額を比較します。障害厚生年金の日額のほうが低ければ、その差額が傷病手当金として支給されます。障害厚生年金の日額が傷病手当金以上なら、重複する期間の傷病手当金は支給されません。

なお、同じ支給事由で障害基礎年金も支給される場合は、障害厚生年金と障害基礎年金を合算して調整します。一方、障害厚生年金3級では通常は障害基礎年金が支給されないため、3級の障害厚生年金額そのものが調整対象になるケースが中心です。

月17万円と月5万円なら単純に12万円とは限らない

例えば傷病手当金を月約17万円、障害厚生年金を月額換算で約5万円受けるとすると、「傷病手当金が毎月12万円になる」と考えたくなります。大まかな家計イメージとしては近くなることがありますが、実際の計算は月額同士の単純な引き算ではありません。

傷病手当金は支給対象日ごとの日額、障害厚生年金は年金年額を360で割った日額で比較されます。そのため31日の月と30日の月、傷病手当金の対象日数などによって実際の調整額は変わります。

「月17万円-月5万円=必ず月12万円」と断定せず、障害厚生年金の年額と傷病手当金の日額を使って健康保険側が計算すると理解しておくのが正確です。

障害厚生年金3級のみの場合は児童扶養手当も併給調整される

児童扶養手当にも公的年金との併給調整があります。厚生労働省は、「障害基礎年金等以外の公的年金等」の中に、障害厚生年金3級のみを受給している人を明確に含めています。[厚生労働省・児童扶養手当と公的年金の併給調整参照]

障害厚生年金3級のみの場合は、障害基礎年金を受けている人に適用される「子の加算額だけと児童扶養手当を比較する」ルールではありません。原則として障害厚生年金などの公的年金額と児童扶養手当額を比較し、公的年金のほうが少なければ差額分の児童扶養手当が支給されます。

例えば所得制限などを反映した児童扶養手当が月9万5,000円、公的年金の比較対象額が月5万円相当なら、単純化したイメージでは差額の約4万5,000円が児童扶養手当として残る形です。実際の算定は年金額、児童数、所得による一部支給停止などを踏まえて自治体が行います。

障害基礎年金を受ける場合とは計算方法が違う

ここは特に間違えやすいポイントです。2021年3月分以降、障害基礎年金等を受給している人については、児童扶養手当全体と障害年金本体を比較するのではなく、原則として障害基礎年金等の「子の加算部分」と児童扶養手当を比較する仕組みになっています。

しかし、厚生労働省の資料では、障害厚生年金3級だけを受給していて障害基礎年金を受けていない人は、この特例の対象ではありません。障害厚生年金3級のみの場合は「障害基礎年金等以外の公的年金等」として従来型の比較調整を受けます。

そのためインターネットで「障害年金を受けても児童扶養手当は子の加算との差額だけ調整される」という説明を見つけても、それが障害厚生年金3級だけのケースにそのまま当てはまるとは限りません。

同じ障害年金が2つの制度でそれぞれ調整に使われることはある

ここまでを合わせると、同じ傷病による障害厚生年金3級を受給する場合、傷病手当金では健康保険法上の併給調整が行われ、児童扶養手当では児童扶養手当法上の公的年金との併給調整が行われることがあります。

つまり、同じ月5万円相当の障害厚生年金を基準として、傷病手当金側で約5万円相当が調整され、さらに児童扶養手当側でも約5万円相当が調整される、という結果は制度上あり得ます。

「同じ5万円を二重に引いているのではないか」と感じやすいところですが、傷病手当金と児童扶養手当は相互に一本化された制度ではありません。それぞれが「障害年金を受けられる場合に自制度の給付をどこまで支給するか」を個別に判定しています。

3つの給付を合計した金額で見るとどうなる?

数字を単純化して考えてみます。障害年金決定前に傷病手当金17万円と児童扶養手当9万5,000円を受けていれば、合計は26万5,000円です。

その後、障害厚生年金5万円が決定し、仮に傷病手当金が12万円相当、児童扶養手当が4万5,000円相当になったとすると、3制度の合計は「傷病手当金12万円+障害厚生年金5万円+児童扶養手当4万5,000円=21万5,000円」です。

この例では、2制度の減額を合計すると10万円なのに、新たに受け取る障害年金は5万円なので、最終的な総受給額は5万円減ります。これは計算ミスとは限らず、2つの独立した併給調整が同時に働いた結果として生じ得るものです。なお実際の金額は日額計算や児童数、所得制限などで異なります。

合計減額額を障害年金額までに制限する共通上限はある?

傷病手当金と児童扶養手当を横断して、「両制度で減額する合計額は障害年金額を超えてはいけない」という一般的な上限を設ける仕組みは、現在の公的な制度説明にはありません。

傷病手当金は健康保険法のルールに従って障害厚生年金と調整し、児童扶養手当は児童扶養手当法のルールに従って公的年金と調整します。片方で既に障害年金相当額を差し引いたから、もう片方では差し引かないという相互調整の仕組みにはなっていません。

したがって、2制度を合わせた減額額が障害厚生年金の受給額を上回ること自体はあり得ます。ただし個別ケースでは児童扶養手当の支給額や障害年金額、傷病手当金の対象期間が異なるため、実際の返還額についてはそれぞれの窓口から計算書を取得して確認する必要があります。

障害年金が遡及認定された場合は傷病手当金の返還が起こり得る

障害厚生年金が過去にさかのぼって支給され、その期間に同じ傷病について傷病手当金をすでに受け取っている場合、協会けんぽは重複期間の傷病手当金について全部または一部の返納が必要になると案内しています。[協会けんぽ・障害年金の遡及支給と返納参照]

例えば障害年金が1年前に遡って認められ、その1年間が傷病手当金の受給期間と重なっていれば、その重複期間を対象に再計算されます。障害年金の遡及支給額を丸ごと返すのではなく、傷病手当金について本来支給されるべき差額を計算し、過払いとなった部分が返納対象になります。

重要なのは「同じ傷病等」であることです。協会けんぽでも、別の傷病に対する傷病手当金まで誤って調整した事例を公表しており、調整対象となる傷病の同一性は確認すべきポイントです。

児童扶養手当も遡及した年金と重複すれば再計算される可能性がある

児童扶養手当についても、障害厚生年金の受給権が過去に遡り、公的年金との調整対象となる月にすでに児童扶養手当が支給されていれば、本来の支給額を自治体が再計算することになります。

再計算した結果、実際に受け取った児童扶養手当が本来の額を上回っていれば、過払い分の返還を求められる可能性があります。傷病手当金の返還とは別に、市区町村側で児童扶養手当の精算が行われる点に注意が必要です。

そのため、障害年金の遡及分がまとまって振り込まれても、すぐに全額を生活費などへ使わないほうが安全です。傷病手当金と児童扶養手当の双方について返還見込み額を確認し、精算が終わるまで一定額を確保しておくと安心です。

決定通知が届いたら3つの窓口へ早めに連絡する

障害厚生年金の年金証書・年金決定通知書が届いたら、まず傷病手当金を支給している協会けんぽまたは健康保険組合へ連絡します。「同一傷病による障害厚生年金3級が決定したこと」「年金の支給開始年月」「年金年額」「遡及の有無」を伝えると、その後の調整方法を案内してもらえます。

同時に、児童扶養手当を担当している市区町村の窓口にも年金決定を届け出ます。障害厚生年金3級のみであること、年金の受給権発生年月、遡及支給の有無を伝え、児童扶養手当が何月分からいくらになるのか確認しましょう。

さらに年金事務所では、障害厚生年金の年額・支給開始年月・初回振込額の内訳を確認できます。「傷病手当金の返還見込み額」と「児童扶養手当の返還見込み額」を別々に書面で確認し、その合計額を把握すると家計の見通しを立てやすくなります。

まとめ|障害厚生年金3級は傷病手当金と児童扶養手当の両方で調整され得る

同じ傷病による障害厚生年金3級が決定した場合、その年金は傷病手当金との併給調整に使われ、さらに児童扶養手当でも公的年金との併給調整に使われることがあります。障害厚生年金3級のみを受給するケースは、児童扶養手当では「障害基礎年金等を受けている人」の特例ではなく、原則として公的年金額と児童扶養手当額を比較する側に分類されます。

また、傷病手当金と児童扶養手当を横断して「合計減額額は障害年金額まで」という共通の上限が設けられているわけではないため、両制度の減額額を合計すると障害年金額を上回る結果もあり得ます。

障害年金が遡及決定された場合は、重複期間について傷病手当金と児童扶養手当の双方で再計算・返還が生じる可能性があります。年金の初回振込を使い切る前に、健康保険と市区町村の児童扶養手当担当窓口へ決定通知を提示し、「何月から調整されるのか」「返還対象期間はいくつか」「返還予定額はいくらか」をそれぞれ確認することが最も重要です。

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