会社を月の途中で退職するとき、最後の給与から健康保険料や厚生年金保険料が引かれるのかは分かりにくいものです。特に「月末締め・翌月10日払い」で、前月分の社会保険料を翌月給与から控除している会社では、退職日と資格喪失日の関係を理解すると判断しやすくなります。
健康保険・厚生年金保険では、原則として退職日の翌日が被保険者資格の喪失日です。そして保険料は、資格喪失日の属する月の前月分まで発生します。
そのため、例えば8月29日に退職する場合は8月30日が資格喪失日となり、会社の健康保険・厚生年金保険について必要になるのは原則として7月分までです。8月分の健康保険料・厚生年金保険料は発生しないのが基本です。
ただし「社会保険」という言葉には健康保険・厚生年金だけでなく雇用保険まで含めて使われることがあります。雇用保険料は健康保険・厚生年金とは計算方法が異なるため、最終給与から控除される可能性があります。この記事では、7月1日入社・8月29日退職・末締め翌月10日払いのケースを使って詳しく解説します。
- 健康保険・厚生年金の資格喪失日は退職日の翌日
- 社会保険料は資格喪失月の前月分まで発生する
- 7月1日入社・8月29日退職なら7月分だけ会社の社会保険料が必要
- 8月10日給与で7月分を控除済みなら9月10日給与では原則控除なし
- 給与の締日・支給日と保険料が発生する月は別に考える
- 日本年金機構も「月途中退職なら退職月の前月分を控除」と案内している
- 8月31日退職だった場合は結果が大きく変わる
- 月末退職では最後の給与から2か月分控除されることもある
- 社会保険料は日割りされない
- 7月1日に入社した場合は7月分が丸々1か月必要
- 今回のケースを給与日ベースで整理
- ただし給与計算が「当月徴収」の会社なら見え方が異なる
- 9月10日の給与から雇用保険料は控除される可能性がある
- 40歳以上なら介護保険料も健康保険と連動する
- 8月30日以降は別の健康保険への加入が必要
- 任意継続は8月から保険料が必要になる可能性がある
- 国民健康保険へ加入する場合も別途保険料を確認する
- 厚生年金が8月分不要でも国民年金が必要になることがある
- 最終給与では住民税など別の控除にも注意
- 給与担当者が確認するときの実務上のポイント
- 誤って8月分を控除した場合は確認・精算が必要
- 退職日の翌日が資格喪失日であることを覚えると判断しやすい
- まとめ|8月29日退職なら9月10日給与から8月分の健康保険・厚生年金は原則控除しない
健康保険・厚生年金の資格喪失日は退職日の翌日
会社員が退職すると、その会社で加入していた健康保険と厚生年金保険の資格は、原則として退職日の翌日に喪失します。
例えば8月29日を退職日とした場合、8月29日までは会社の社会保険の被保険者で、8月30日が資格喪失日です。
協会けんぽも、退職後に在職中の資格確認書等を使用できなくなる日は「退職日の翌日」と案内しています。8月29日に退職したなら、8月30日からは退職した会社の健康保険資格では受診できません。
[参照] 協会けんぽ「退職後の資格確認書の取り扱いについて」
社会保険料は資格喪失月の前月分まで発生する
退職時の保険料を理解するうえで最も重要なのが、「資格喪失日の属する月の前月分まで」というルールです。
日本年金機構は、月の途中で退職した場合について、退職日の翌日に厚生年金保険の資格を喪失し、資格喪失日が属する月の前月分まで保険料を納めると説明しています。
8月29日退職なら資格喪失日は8月30日です。資格喪失日の属する月は8月なので、その前月である7月分までが会社の健康保険・厚生年金保険の保険料負担期間となります。
[参照] 日本年金機構「月の途中で入社したときや、退職したときの厚生年金保険料」
7月1日入社・8月29日退職なら7月分だけ会社の社会保険料が必要
具体的に、7月1日に入社し、8月29日に退職するケースを整理してみましょう。
| 日付 | 社会保険上の扱い |
|---|---|
| 7月1日 | 健康保険・厚生年金の資格取得 |
| 7月31日 | 資格あり |
| 8月29日 | 退職日・この日までは資格あり |
| 8月30日 | 資格喪失日 |
| 会社で必要な保険料 | 原則7月分まで |
7月については月の初日に加入しているため、健康保険料・厚生年金保険料が1か月分発生します。
一方、8月は30日に資格を喪失しています。資格喪失月である8月分については、会社の健康保険料・厚生年金保険料は原則として発生しません。
8月10日給与で7月分を控除済みなら9月10日給与では原則控除なし
会社が「翌月徴収」を採用しているケースを考えます。これは当月に支払う給与から前月分の健康保険料・厚生年金保険料を控除する方法です。
7月1日に入社し、7月勤務分を8月10日に支給する会社で、その8月10日給与から7月分社会保険料をすでに控除しているのであれば、7月分の本人負担は精算済みです。
そして8月29日退職の場合、会社での8月分健康保険料・厚生年金保険料は原則発生しません。
したがって、9月10日に支払われる8月分給与からは、健康保険料・厚生年金保険料を原則として控除しないという流れになります。
給与の締日・支給日と保険料が発生する月は別に考える
「8月に働いた給料が9月10日に支払われるのだから、9月10日に8月分社会保険料を引くのでは?」と思いやすいところですが、社会保険料が発生するかどうかは給与の支給日だけで決まりません。
健康保険・厚生年金保険は、その月の被保険者資格の状態をもとに月単位で保険料が決まります。
例えば8月29日に退職して8月30日に資格喪失した人については、8月に29日間勤務していたとしても、会社の健康保険・厚生年金保険の8月分保険料は原則発生しません。
社会保険料は日割り計算ではなく、資格取得月・資格喪失月を基準に月単位で扱われるためです。
日本年金機構も「月途中退職なら退職月の前月分を控除」と案内している
日本年金機構は退職した従業員の保険料について、「被保険者資格を取得した日の属する月から、喪失した日の属する月の前月まで発生する」と説明しています。
さらに、月の途中で退職した場合は「退職月の前月分の保険料を退職月の給与から控除」できるとしています。
翌月徴収の会社なら、8月途中退職の場合に本来最後に控除すべきなのは7月分です。すでに8月10日の給与で7月分を控除しているなら、健康保険・厚生年金についてさらに1か月分控除する理由は通常ありません。
8月31日退職だった場合は結果が大きく変わる
退職日がわずか2日違うだけでも、社会保険料の扱いは変わります。
例えば8月31日に退職した場合、資格喪失日は翌日の9月1日です。資格喪失日の属する月が9月になるため、その前月である8月分まで健康保険料・厚生年金保険料が必要になります。
つまり8月29日退職なら7月分まで、8月31日退職なら8月分までという違いが生じます。
| 退職日 | 資格喪失日 | 会社の社会保険料が必要な最終月 |
|---|---|---|
| 8月29日 | 8月30日 | 7月分 |
| 8月30日 | 8月31日 | 7月分 |
| 8月31日 | 9月1日 | 8月分 |
この「月末退職か、それより前の退職か」が実務上非常に重要です。
月末退職では最後の給与から2か月分控除されることもある
翌月徴収の会社で月末退職すると、最後の給与から社会保険料が2か月分控除される場合があります。
例えば7月分をまだ控除しておらず、8月31日に退職して8月分まで保険料が必要になるケースでは、最終給与から7月分と8月分の2か月分をまとめて控除することがあります。
日本年金機構も、月末に退職した場合には退職月の前月分と退職月分の2か月分を退職時給与から控除する場合があると案内しています。
一方、8月29日退職なら8月分は発生しないため、この「月末退職の2か月控除」とは状況が異なります。
社会保険料は日割りされない
健康保険料・厚生年金保険料は、基本的に「8月は29日間加入していたので29日分払う」といった日割り計算をしません。
資格喪失日が8月中なら8月分は徴収されず、資格喪失日が9月1日なら8月分が丸々1か月分発生する仕組みです。
日本年金機構も、月の途中で退職した場合は資格喪失月の保険料を徴収しないと明確に案内しています。
このため8月29日退職と8月31日退職では勤務日数は2日しか違いませんが、会社の健康保険・厚生年金については1か月分の保険料差が生じることがあります。
7月1日に入社した場合は7月分が丸々1か月必要
月途中の退職では資格喪失月の保険料が不要になる一方、入社時には逆の考え方になります。
社会保険料は資格を取得した月から発生するため、7月1日に資格取得していれば当然7月分が必要です。
仮に7月20日の入社だったとしても、原則として7月分を日割りせず1か月分負担します。
日本年金機構は「月の途中から入社した場合も、資格取得した月の保険料から支払う必要がある」と説明しています。
今回のケースを給与日ベースで整理
末締め翌月10日払いで、社会保険料を翌月徴収している会社なら、次のように整理できます。
| 給与支給日 | 対象給与 | 健康保険・厚生年金の控除 |
|---|---|---|
| 8月10日 | 7月勤務分 | 7月分を控除 |
| 9月10日 | 8月1日~29日等の最終給与 | 8月分は原則なし |
7月分を8月10日に正しく控除済みであれば、健康保険・厚生年金についてはそこで会社在籍中に必要な本人負担分を支払ったことになります。
9月10日支給の最終給与では、ほかの控除はあり得ますが、8月分の健康保険料・厚生年金保険料については原則不要です。
ただし給与計算が「当月徴収」の会社なら見え方が異なる
会社によっては、社会保険料を翌月ではなく当月の給与から控除している場合があります。
例えば7月給与から7月分を控除する方式です。この場合、退職時の給与計算の見え方は翌月徴収とは異なります。
今回のように「8月10日支給の7月給与から7月分社会保険料を控除している」のであれば、実務上は翌月支給給与から当該月分を控除する処理になっていると考えやすいでしょう。
ただし給与明細上の対象月や会社独自の締め処理によって例外もあるため、「何月分保険料として控除したのか」を給与台帳や明細で確認することが重要です。
9月10日の給与から雇用保険料は控除される可能性がある
健康保険・厚生年金保険と混同しやすいのが雇用保険です。
雇用保険料は健康保険・厚生年金のように「資格喪失月の前月まで」という月単位の仕組みで控除するものではなく、原則として支払われる賃金を基礎に計算されます。
そのため8月1日から8月29日まで働いた賃金が9月10日に支給される場合、その給与から雇用保険料が控除されることはあります。
給与明細に「社会保険」という大きなくくりだけを見るのではなく、「健康保険」「介護保険」「厚生年金」「雇用保険」を分けて確認することが大切です。
40歳以上なら介護保険料も健康保険と連動する
40歳以上65歳未満の介護保険第2号被保険者で、協会けんぽなどの健康保険に加入している場合は、健康保険料とあわせて介護保険料を負担します。
この介護保険料についても会社の健康保険資格に連動するため、8月29日退職・8月30日資格喪失であれば、会社での8月分健康保険料が発生しない場合は通常、会社給与からの8月分介護保険料も発生しません。
ただし退職後に加入する健康保険制度によっては、退職後の期間について別途保険料負担が生じます。
「会社給与から引かれない=8月30日以降は保険料が一切不要」という意味ではない点に注意しましょう。
8月30日以降は別の健康保険への加入が必要
8月29日に退職した場合、会社の健康保険資格は8月30日に喪失します。
その後すぐ別会社へ就職して新しい健康保険へ加入するのでなければ、国民健康保険、家族の健康保険の扶養、または一定の条件を満たす場合には任意継続などから選択することになります。
つまり会社の8月分健康保険料が不要でも、8月30日以降の健康保険について別制度の保険料が発生する可能性があります。
退職日の設定だけを見て「保険料が1か月分まるごと節約できた」と単純には考えられません。
任意継続は8月から保険料が必要になる可能性がある
例えば8月30日から協会けんぽの任意継続へ加入する場合を考えます。
協会けんぽは、任意継続の保険料について加入が月初めでも月末でも同じ1か月分が必要になると案内しています。
そのため会社では8月分健康保険料が発生しなくても、8月30日から任意継続資格を取得すれば任意継続側で8月分保険料が必要になります。
しかも任意継続では原則として事業主負担がなくなるため、在職中と比べて本人負担が大きくなる場合があります。
国民健康保険へ加入する場合も別途保険料を確認する
退職後に国民健康保険へ加入する場合は、市区町村で加入手続きを行います。
国民健康保険料・国民健康保険税は自治体や前年所得、世帯構成などによって計算方法が異なります。
会社の健康保険料が8月分ゼロでも、8月30日から国民健康保険へ加入することで8月分相当の保険料負担が生じる場合があります。
退職後の健康保険については、任意継続・国民健康保険・家族の扶養の条件と負担額を比較するとよいでしょう。
厚生年金が8月分不要でも国民年金が必要になることがある
年金についても同様の注意があります。
8月29日に退職して8月30日に厚生年金資格を喪失すると、会社の厚生年金保険料は7月分までです。
しかし8月30日時点で次の会社の厚生年金に加入しない場合、年齢などの条件を満たせば国民年金第1号被保険者への切替えが必要となります。
そのため「8月分厚生年金保険料が給与から引かれない=8月分の年金保険料を何も払わなくてよい」とは限りません。
最終給与では住民税など別の控除にも注意
9月10日の最終給与で健康保険料・厚生年金保険料が引かれなくても、手取り額が予想より少なくなることがあります。
理由として、雇用保険料、所得税、住民税、会社への立替金、社宅費など別の控除があるためです。
特に住民税を給与天引きしている場合は、退職時期や会社の処理方法によって普通徴収への切替えや一括徴収が行われる場合があります。
したがって「健康保険と厚生年金がゼロだから控除自体がほぼない」とは考えず、最終給与明細を項目別に確認しましょう。
給与担当者が確認するときの実務上のポイント
給与計算を担当する側では、まず資格喪失日を確定させることが重要です。
| 確認項目 | 今回の例 |
|---|---|
| 入社日 | 7月1日 |
| 資格取得日 | 7月1日 |
| 退職日 | 8月29日 |
| 資格喪失日 | 8月30日 |
| 会社で発生する最終保険料月 | 7月分 |
| 7月分控除 | 8月10日給与で控除済み |
| 9月10日給与の健康保険・厚生年金 | 原則控除なし |
そのうえで資格喪失届を提出し、給与計算システムが自動的に8月分社会保険料を控除してしまわないか確認するとよいでしょう。
退職日を8月31日として登録してしまうと資格喪失日が9月1日となり、8月分保険料が発生する扱いになってしまうため、日付入力は特に重要です。
誤って8月分を控除した場合は確認・精算が必要
8月29日退職なのに9月10日給与から健康保険料・厚生年金保険料として8月分が控除されていた場合は、給与担当者へ内容を確認しましょう。
単なる給与システム上の設定ミスで、本来不要な本人負担分を控除しているのであれば、会社側で精算・返金が必要になる可能性があります。
一方、明細に表示された控除が実は7月分だった、過去月の調整だった、別の保険料だったというケースも考えられます。
そのため「社会保険が引かれている」というだけで誤りと断定せず、「これは何月分の健康保険料・厚生年金保険料ですか」と確認するのが確実です。
退職日の翌日が資格喪失日であることを覚えると判断しやすい
退職時の社会保険料は複雑に見えますが、基本ルールはシンプルです。
まず「退職日の翌日=資格喪失日」を出します。次に、その資格喪失日が何月なのかを確認します。
そして資格喪失日の属する月の前月分までが健康保険・厚生年金保険料の対象です。
例えば8月29日退職→8月30日喪失→7月分まで、8月31日退職→9月1日喪失→8月分まで、というように判断できます。
まとめ|8月29日退職なら9月10日給与から8月分の健康保険・厚生年金は原則控除しない
7月1日に入社し、8月29日に退職する場合、健康保険・厚生年金保険の資格喪失日は原則として8月30日です。
日本年金機構のルールでは、社会保険料は資格を取得した月から、資格喪失日の属する月の前月分まで発生します。そのためこのケースでは会社で負担する健康保険料・厚生年金保険料は7月分までとなります。
末締め翌月10日払いで、8月10日に支給した7月給与から7月分の健康保険料・厚生年金保険料をすでに徴収しているのであれば、9月10日支給の最終給与から8月分の健康保険料・厚生年金保険料を徴収する必要は原則ありません。
一方、退職日が8月31日なら翌9月1日が資格喪失日となるため8月分まで社会保険料が必要です。8月29日退職と8月31日退職では、この点が大きく異なります。
また、健康保険・厚生年金が控除されなくても、9月10日の最終給与から雇用保険料、所得税、住民税などが控除される可能性はあります。「社会保険」という言葉で一括りにせず、給与明細では各項目を分けて確認することが重要です。
さらに8月30日以降は会社の健康保険・厚生年金資格を失うため、国民健康保険、任意継続、家族の扶養、新しい勤務先の健康保険などへの切替えが必要です。年金についても、新しい厚生年金資格を取得しない場合は国民年金への切替えが必要になることがあります。
給与担当者側で処理する場合は、「8月29日退職・8月30日資格喪失」「7月分社会保険料は8月10日に控除済み」という2点を確認したうえで、9月10日の給与計算で健康保険・厚生年金が自動控除されないよう確認すると分かりやすいでしょう。
[参照] 日本年金機構「月の途中で入社したときや、退職したときの厚生年金保険料」

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