結婚や入籍をきっかけに配偶者・婚約者の住む地域へ引っ越すため、現在の仕事を退職するケースがあります。このとき気になるのが、引っ越し先の住所がまだ決まっていない状態でも失業保険(雇用保険の基本手当)を受給できるのかという点です。
失業保険では、単に退職したという事実だけではなく、退職後に「働く意思と能力があり、実際に求職活動をしているか」が重要です。また、結婚に伴う転居が退職理由となっている場合には、通常の自己都合退職とは異なる扱いになる可能性もあります。
この記事では、結婚・入籍に伴う引っ越しを予定して退職した場合について、転居先が未確定でも受給できるのか、離職理由がどう判断されるのか、ハローワークではどのように説明すればよいのかを整理します。
失業保険は「引っ越し先が決まっているか」だけで決まるわけではない
雇用保険の基本手当は、失業中の生活を支えながら再就職を促すための制度です。厚生労働省は基本手当について、離職した人が働く意思と能力を有し、求職活動を行っているにもかかわらず就職できない場合に支給されるものと説明しています。
したがって、「数か月後に結婚して別の地域へ引っ越す予定だが、まだ賃貸物件が決まっていない」という事情だけで、直ちに基本手当を受給できなくなるわけではありません。重要なのは、現在の状況で実際に就職する意思があり、就職可能な状態にあるかどうかです。
たとえば現在A県に住み、3か月後に結婚してB県へ転居する予定だったとしても、それまでA県や転居予定地域で現実的に仕事を探し、採用されれば働く意思があるのであれば、求職活動が成立する余地があります。一方、「引っ越すまでは一切働くつもりがなく、就職活動もしない」という状態では、基本手当の前提となる失業状態に該当しない可能性があります。
基本手当の基本的な受給要件については、厚生労働省の案内を確認できます。[参照] 厚生労働省「基本手当について」
結婚に伴う転居で退職した場合は「正当な理由のある自己都合退職」になる可能性がある
結婚を理由に退職した場合、必ず通常の自己都合退職として扱われるとは限りません。ポイントになるのは、結婚に伴う住所変更によって以前の勤務先への通勤が不可能または困難になったかという点です。
厚生労働省が示している判断基準では、「結婚に伴う住所の変更」によって通勤が不可能または困難になったことを理由として退職したケースが、正当な理由のある自己都合退職として扱われる対象に含まれています。
たとえば東京の会社に勤務していた人が、結婚して配偶者と暮らすため大阪へ転居することになり、従来の勤務先への通勤が現実的に不可能になるため退職したケースが考えられます。この場合、単純に「自分の希望で仕事を辞めた」というケースとは事情が異なります。
ただし、結婚予定であるだけで自動的に有利な離職区分になるわけではありません。退職と結婚・転居との時期的な関係、転居の必要性、旧勤務先までの距離や通勤時間など、個別事情を踏まえてハローワークが判断します。
転居先の物件がまだ決まっていなくても事情はそのまま説明する
入籍日は決まっていても、新居については「希望している物件があるものの、入籍直前まで契約できるか分からない」ということは珍しくありません。この場合、存在しない住所を申告したり、転居が確定しているように説明したりする必要はありません。
ハローワークでは、現在の住所、入籍予定時期、転居予定地域、物件がまだ確定していないこと、退職に至った経緯、現在どの地域で仕事を探せるのかを事実どおり説明するのが基本です。
たとえば「○月に入籍予定で、その後は配偶者の住む○○市周辺へ転居する予定です。ただし賃貸物件の契約がまだできないため住所は未定です。現在は○○県に住んでおり、転居時期を考慮しながら再就職先を探しています」というように、時系列で整理すると事情が伝わりやすくなります。
むしろ受給資格や離職理由に影響しそうな事情を伏せてしまうと、後から説明との食い違いが生じる可能性があります。判断そのものはハローワークが行うため、事実関係を正確に伝えることが重要です。
結婚・転居を理由とする退職では証拠になる資料を残しておく
会社が作成した離職票の離職理由と本人の認識が必ず一致するとは限りません。離職理由について異議がある場合には、ハローワークが本人と事業主双方の主張や資料を確認したうえで判断します。
そのため、結婚や転居が退職と関係している場合には、事情を確認できる資料を可能な範囲で保管しておくとよいでしょう。
- 離職票
- 退職届や退職理由が分かる書類
- 勤務先との退職に関するメール・書面
- 婚姻後であれば婚姻関係を確認できる公的書類
- 転居後であれば新住所を確認できる書類
- 旧勤務先と新住所との距離・通勤経路を確認できる資料
- 転居時期や入籍予定を客観的に説明できる資料
すべての書類が必須という意味ではありません。何を提出すべきかは個別事情によって異なるため、実際の手続きでは管轄のハローワークに確認するのが確実です。
退職後すぐ働けない場合は基本手当との関係に注意
失業保険で見落としやすいのが、「退職して収入がない状態」と「雇用保険上の失業状態」は必ずしも同じではないという点です。
基本手当を受給するには、就職したいという積極的な意思だけでなく、いつでも就職できる能力・環境があり、実際に求職活動をしていることが必要です。単に無職であることを理由として支給される制度ではありません。
たとえば「3か月後に引っ越すので、それまでは仕事をする予定がない」という場合と、「3か月後に引っ越す可能性はあるが、それまででも条件に合う仕事があれば働きたい」という場合では状況が異なります。前者の場合には、すぐに就職できる状態なのかという点が問題になります。
また、病気・けが・妊娠・出産・育児など一定の事情により30日以上働けない場合には、基本手当をすぐ受け取るのではなく「受給期間延長」の対象になる場合があります。受給期間は原則として離職日の翌日から1年間ですが、一定の理由があれば延長できる制度があります。[参照] 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)」
引っ越した後は管轄するハローワークが変わることがある
雇用保険の手続きは原則として住居所を管轄するハローワークで行います。そのため、受給手続きを開始した後に別の地域へ引っ越した場合には、住所変更に伴う手続きが必要になることがあります。
「もうすぐ引っ越すから、今は何も手続きをしないほうがよい」と自己判断するのではなく、まず現在の住居所を管轄するハローワークに相談し、転居予定日や転居先が未確定であることを伝えて、どのタイミングでどの手続きを行うべきか確認すると安心です。
特に入籍と転居の時期が近い場合は、退職日・入籍日・転居日・求職開始日をメモしておくと説明しやすくなります。離職理由の判断にも関係する可能性があるため、日付を曖昧にせず整理しておくことが大切です。
自己都合退職なら必ず同じ給付制限になるとは限らない
自己都合による退職では、受給資格決定後の待期期間に加え、離職理由によって給付制限が問題になります。しかし、自己都合退職であっても「正当な理由」が認められるケースがあるため、すべてを一括して考えることはできません。
結婚に伴う住所変更によって通勤が困難になったことが退職理由であれば、その事情をハローワークに伝える意味があります。最終的な離職理由の判定は、本人が「結婚退職だから特定理由離職者です」と決めるものではなく、提出された資料や具体的事情をもとにハローワークが行います。
また制度改正によって給付制限期間などが変更されることもあります。インターネット上には古い制度を前提にした解説も多いため、実際の退職日時点で適用される制度を確認してください。[参照] ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
ハローワークの職業相談では将来の転居予定も正直に伝える
職業相談では、結婚予定や転居予定を隠すより、「○月ごろに○○地域へ転居する予定だが、現時点では住所が確定していない」とそのまま伝えるほうが適切です。
転居予定を伝えることで、「それなら現在地で短期間の仕事を探す」「転居予定地域の求人も含めて探す」「転居後に管轄変更の手続きをする」といった現実的な求職方法を相談できます。
重要なのは、失業保険を受けるためだけに形式上の求職活動をするのではなく、現在の家庭環境や転居予定を踏まえたうえで実際に働ける仕事を探すことです。転居先が未定だからといって、事実を曖昧にする必要はありません。
まとめ:結婚・転居予定で退職した場合は「住所未定」より求職できる状態かが重要
結婚を予定して配偶者・婚約者の地元へ引っ越すため退職した場合でも、転居先の物件がまだ決まっていないという理由だけで失業保険を受給できないとは限りません。基本手当では、働く意思と能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず就職できない状態であることが重要です。
また、結婚に伴う住所変更によって以前の勤務先への通勤が不可能・困難になったことを理由として退職した場合には、正当な理由のある自己都合退職として扱われる可能性があります。ただし、結婚予定というだけで自動的に認定されるものではなく、退職・結婚・転居の関係などを踏まえてハローワークが個別に判断します。
入籍予定日や転居予定地域は決まっているものの物件が未確定という場合には、その事情をそのままハローワークへ説明しましょう。離職理由や受給資格は個別事情によって結論が変わるため、離職票や退職理由を確認できる資料を持参し、「結婚に伴う転居を理由に退職したが、転居先住所はまだ確定していない」と相談するのが最も確実です。


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