パートとして働き始めたものの、労働条件通知書や雇用契約書がなく、給与明細も発行されていないというケースでは、「このまま働いて大丈夫なのか」「年末の確定申告や扶養の確認で困らないか」と不安になりやすいものです。
特に注意したいのは、勤務先が大学や病院など大きな組織であっても、実際の雇用主や給与支払者が誰なのかは別途確認する必要があることです。医局単位で働いていても、大学法人・病院・教授個人・研究費関係など、契約関係によって税務上・労務上の扱いが変わる可能性があります。
給与として雇用されているのであれば、労働条件の明示、給与支払時の明細、年末等の源泉徴収票について、それぞれルールがあります。「通帳に振り込まれているから問題ない」と考えるのではなく、まず自分の雇用関係と給与処理がどうなっているのかを書面で確認することが重要です。
パートでも労働条件の明示は必要
労働基準法第15条では、使用者が労働者を採用するときに労働条件を明示することを定めています。厚生労働省・各労働局も、賃金や労働時間など一定の重要事項について書面等による明示が必要であると案内しています。パートだから対象外というものではありません。[参照:厚生労働省 埼玉労働局]
明示事項には、労働契約の期間、就業場所・業務内容、始業・終業時刻、休憩、休日、賃金の決定・計算・支払方法、賃金締切日・支払日、退職に関する事項などがあります。2024年4月からは就業場所・業務の変更範囲など、労働条件明示のルールも改正されています。
なお「雇用契約書」という名称の書類を必ず作成し、双方が署名押印しなければならないという話と、「使用者が必要な労働条件を明示する義務」は分けて考える必要があります。重要なのは、法令上必要な事項が適切な方法で明示されているかです。
給与明細も「なくても仕方ない」ものではない
給与明細についても重要です。国税庁は、国内で給与等を支払う者は、支払の際に給与等の金額や源泉徴収税額など必要事項を記載した支払明細書を受給者へ交付しなければならないと案内しています。これは所得税法第231条に基づくものです。[参照:国税庁 源泉徴収のしかた]
一定の要件を満たせば電子交付もできます。そのため紙の給与明細を渡されていないから直ちに「給与明細が存在しない」とは限りません。給与システムや職員用サイトなどに電子明細が用意されていないかも確認しましょう。
しかし紙でも電子でも給与明細が一切提供されていないのであれば、「毎月の給与額、控除額、源泉所得税などが分かる給与支払明細を発行してほしい」と給与支払者へ確認することをおすすめします。
源泉徴収票は給与所得者へ交付するのが原則
給与として支払われているのであれば、源泉徴収票も重要です。国税庁によると、給与所得の源泉徴収票は給与等の支払者がすべての受給者について作成し、受給者へ交付することとされています。通常は翌年1月31日まで、中途退職の場合は退職後1か月以内が交付期限です。[参照:国税庁 No.7411 給与所得の源泉徴収票]
したがって「給与明細がないから、たぶん源泉徴収票もないだろう」と今の段階で決めつける必要はありません。まず勤務先に、給与の支払者が誰なのか、給与所得として処理されているのか、年末調整を行うのか、源泉徴収票はいつ・どの方法で発行されるのかを確認します。
大学病院の医局で仕事をしているという勤務場所だけでは判断できません。振込名義、採用を決めた主体、給与計算をしている部署などを確認し、「誰に雇用され、誰から給与を受け取っているのか」を明確にすることが第一歩です。
通帳や支払いメールだけで確定申告すればよいとは限らない
給与振込のメールや銀行通帳は、実際にいくら受け取ったのかを示す重要な記録です。そのため捨てずに保存しておくべきです。しかし、「源泉徴収票はなくても通帳コピーだけあれば必ず確定申告できる」と単純化するのは適切ではありません。
銀行への入金額は通常、手取り額です。例えば額面給与が10万円でも所得税などが控除され、実際の振込額が9万9,000円だったとすれば、通帳だけでは額面給与と控除内容を正確に把握できません。
確定申告の必要性そのものも、年間の給与額、他の所得、年末調整の有無などによって変わります。そのため年末になってから通帳だけで処理しようとするより、今の段階で給与明細と源泉徴収票が適切に発行される体制なのか確認するほうが安全です。
給与なのか業務委託の報酬なのかも確認する
もう一つ非常に重要なのが、勤務先が支払いを「給与」として扱っているのか、「業務委託などの報酬」として扱っているのかという点です。税務上、両者は同じではありません。
例えば雇用契約に基づく給与所得であれば給与所得の源泉徴収票が問題になります。一方、独立して業務を請け負う契約なら、所得区分や必要経費など確定申告の考え方が変わる場合があります。また「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は給与所得の源泉徴収票とは別の制度です。[参照:国税庁 No.7431]
ただし、勤務先が「業務委託」と呼んでいるだけで労働者性が自動的に否定されるわけではありません。実態として誰の指揮命令を受けているのか、勤務時間・場所がどのように決められているのかなどによって判断される問題です。不明な場合は労働基準監督署や税務署など、それぞれの制度を担当する窓口へ具体的な状況を伝えて確認するのが確実です。
扶養内で働くなら毎月の記録を自分でも残しておく
扶養内で働くことを予定している場合、給与関係の記録がない状態を放置することはおすすめできません。「扶養」には税制上の配偶者控除等と健康保険の被扶養者制度があり、それぞれ判定方法が異なるためです。
そのため、毎月の勤務日、勤務時間、時給、計算上の額面給与、実際の振込額、交通費などを自分でも記録しておくと安心です。メールで届いた支払情報や振込画面なども保存します。
例えば「時給1,300円×80時間=10万4,000円」というように、自分でも毎月の給与計算を記録しておけば、実際の振込額と比較できます。扶養の範囲を管理する際にも、手取り額だけを見るより収入の内容を正確に把握しやすくなります。
まず勤務先へ確認したい項目
仕事そのものを続けたい場合、いきなり退職を考える必要はありません。まず事務担当者や上司へ、給与・雇用処理について事実確認を行う方法があります。
- 雇用主は大学法人・病院・医局などのうち誰なのか
- 雇用契約なのか業務委託なのか
- 労働条件通知書はいつ交付されるのか
- 給与明細は紙か電子か、どこで確認できるのか
- 毎月の支給額・控除額・源泉所得税はどう処理されているか
- 年末調整を行うのか
- 源泉徴収票は翌年いつ交付されるのか
口頭だけでは後から確認しにくいため、可能ならメールなど記録が残る方法で問い合わせ、回答も保存しておくとよいでしょう。仕事内容に不満がなく今後も勤務したい場合ほど、早い段階で事務処理を正常化しておくメリットがあります。
勤務先で解決しない場合の相談先
労働条件の明示については、労働基準監督署や労働局の相談窓口が候補になります。厚生労働省ではモデル労働条件通知書も公開しているため、どのような項目が必要なのか確認できます。[参照:厚生労働省 労働条件通知書]
一方、源泉徴収票や確定申告など税務上の問題については税務署が相談先になります。労働契約の問題と税金の問題は担当機関が異なるため、「契約書について相談したから税金の問題も解決している」とは考えず、それぞれ必要に応じて確認しましょう。
給与所得として働いているにもかかわらず、期限を過ぎても源泉徴収票が交付されない場合には、税務署への相談も選択肢になります。重要なのは、年末まで放置せず、現在の支払いがどのような扱いになっているか早めに把握することです。
まとめ:通帳だけに頼らず、労働条件・給与明細・源泉徴収票を確認しよう
パート勤務であっても、労働者として採用されているのであれば、使用者には賃金・労働時間など一定の労働条件を明示する義務があります。また給与の支払者には給与支払明細書の交付に関するルールがあり、給与所得の源泉徴収票についても受給者への交付が必要です。
給与振込メールや通帳は大切な証拠として保存すべきですが、それだけを前提に年末の確定申告を乗り切ろうとするより、今の段階で給与処理を確認するほうが確実です。
まず「雇用主は誰か」「給与扱いなのか」「労働条件通知書と給与明細はどこでもらえるのか」「源泉徴収票は発行されるのか」を勤務先へ書面やメールで確認しましょう。扶養内で働く予定なら勤務時間・額面給与・振込額も毎月自分で記録し、勤務先で解決できない労働条件の問題は労働基準監督署等へ、税務上の問題は税務署へ相談するのが整理しやすい方法です。

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