昼と夜など2か所でアルバイトを掛け持ちしている場合、「雇用保険は収入の多い勤務先、健康保険・厚生年金は別の勤務先」という加入方法ができるのか分かりにくいものです。結論からいうと、雇用保険と健康保険・厚生年金は別の制度なので、雇用保険をA社、健康保険・厚生年金をB社で適用する状態は制度上あり得ます。雇用保険は原則として複数の勤務先へ同時に通常加入するものではなく、複数社で加入要件を満たす場合は「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係」にある勤務先で加入します。一方、健康保険・厚生年金は、それぞれの勤務先ごとに加入要件を判定します。したがって「昼の勤務先で社会保険に入るなら、雇用保険も必ず昼の勤務先へ移さなければならない」という仕組みではありません。[参照][参照]
- まず「社会保険」と「雇用保険」は別制度と考える
- 雇用保険は原則として1つの勤務先で加入する
- 「収入が高い会社で雇用保険」と考えるのはおおむね分かりやすいが、厳密には主たる雇用関係で判断する
- 雇用保険を夜の勤務先に残し、健康保険・厚生年金だけ昼の勤務先に入ることはあり得る
- 昼のアルバイトが週20時間以上なら必ず健康保険・厚生年金に入る、とは限らない
- 2026年9月時点の短時間労働者の社会保険加入条件
- 「試用期間2か月が終わったら社会保険」は必ずしも正しいとは限らない
- 昼の勤務先でも雇用保険の条件を満たしたらどうなる?
- 昼の会社に「雇用保険も社会保険も全部入れてください」と頼む必要はない
- 雇用保険と健康保険・厚生年金では「主たる勤務先」の意味が違う
- 夜の勤務先の月収が30万円でも社会保険の加入義務が生じないケースはある
- 夜の勤務先が社会保険対象外でも、その給料を昼の社会保険料に合算するわけではない
- 両方の勤務先が社会保険の加入対象なら「二以上事業所勤務」になる
- 二以上事業所勤務では両方の給与を合算して社会保険料を計算する
- 65歳以上には雇用保険の特例制度がある
- 具体例:夜30万円・昼12万円のダブルワークならどう考える?
- 昼の勤務先には掛け持ちと雇用保険加入済みであることを伝える
- 「社会保険だけ入りたい」は本人の希望だけで選ぶものではない
- 週20時間は「実際にたまたま超えた時間」ではなく所定労働時間が基本
- 試用期間終了後に週20時間以上へ変更するなら契約変更日を確認する
- 実際の手続きは昼の会社・ハローワーク・年金事務所で確認すると確実
- まとめ:雇用保険は夜、健康保険・厚生年金は昼という加入は可能
まず「社会保険」と「雇用保険」は別制度と考える
日常会話では雇用保険までまとめて「社会保険」と呼ばれることがありますが、勤務先での手続きを考えるときは分けて考えた方が分かりやすくなります。
| 制度 | 主な内容 | 加入判定 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 病気・ケガ、傷病手当金など | 勤務先ごとに適用条件を判定 |
| 厚生年金保険 | 老齢・障害・遺族年金など | 勤務先ごとに適用条件を判定 |
| 雇用保険 | 失業等給付、育児休業給付など | 原則として主たる雇用関係の1社で加入 |
そのため、「雇用保険は夜の勤務先、健康保険・厚生年金は昼の勤務先」という組み合わせそのものが禁止されているわけではありません。それぞれ別の加入要件に照らして決まります。
雇用保険は原則として1つの勤務先で加入する
通常の雇用保険では、1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上引き続き雇用される見込みがあることなどが基本的な加入要件です。
掛け持ちで複数の勤務先があり、それぞれで雇用保険の加入要件を満たす場合でも、一般的には2社で二重加入することはありません。
厚生労働省は、同時に複数の会社で雇用され、それぞれで雇用保険の加入要件を満たす場合について、「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社」でのみ加入すると説明しています。[参照]
「収入が高い会社で雇用保険」と考えるのはおおむね分かりやすいが、厳密には主たる雇用関係で判断する
掛け持ちの場合、「給料が多い方で雇用保険へ入る」と説明されることがあります。実務上の理解としては分かりやすいのですが、法律上の表現は単純に月収だけを比較するものではありません。
厚生労働省の説明は「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係」です。そのため、どちらが主たる勤務先なのかについて、賃金額や雇用実態などから判断されます。[参照]
例えば夜の勤務先で月30万円、昼の勤務先で月10万円程度という状態で、夜の勤務が生活の中心となっているなら、通常は夜の勤務先が主たる雇用関係と判断される可能性が高いでしょう。ただし最終的な資格判断はハローワークが行うため、勤務先だけで自己判断しないことが重要です。
雇用保険を夜の勤務先に残し、健康保険・厚生年金だけ昼の勤務先に入ることはあり得る
ここが掛け持ち勤務で最も誤解されやすいところです。
夜の勤務先で雇用保険の被保険者となっており、昼の勤務先では健康保険・厚生年金の加入条件を満たす場合、雇用保険は夜の勤務先、健康保険・厚生年金は昼の勤務先という状態になることは制度上可能です。
昼の勤務先が健康保険・厚生年金の資格取得届を提出するからといって、自動的に昼の会社で雇用保険へも加入しなければならないわけではありません。それぞれ別の法律・加入要件で判断されます。
昼のアルバイトが週20時間以上なら必ず健康保険・厚生年金に入る、とは限らない
「アルバイトで週20時間以上なら社会保険加入必須」という説明も、少し省略されています。
健康保険・厚生年金では、まず同じ事業所の通常の労働者と比較して、週の所定労働時間と月の所定労働日数がそれぞれ4分の3以上であれば、原則として被保険者になります。日本年金機構も、パート・アルバイトであっても4分の3基準を満たす場合は厚生年金へ加入すると案内しています。[参照]
4分の3未満の場合には、短時間労働者向けの加入要件を確認します。
2026年9月時点の短時間労働者の社会保険加入条件
2026年9月時点では、厚生年金の被保険者数が常時51人以上の企業等で働く短時間労働者について、一定の条件を満たすと健康保険・厚生年金への加入対象になります。
主な条件は次のとおりです。[参照]
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上
- 2か月を超えて雇用される見込みがある
- 原則として学生ではない
- 勤務先が短時間労働者への社会保険適用対象となる企業等である
なお制度改正により、短時間労働者に関する賃金要件や企業規模要件は今後段階的に見直される予定です。加入時点の最新条件を日本年金機構で確認することが大切です。
「試用期間2か月が終わったら社会保険」は必ずしも正しいとは限らない
会社から「最初の2か月は試用期間だから社会保険なし、試用期間終了後に加入」と説明されるケースがありますが、試用期間であること自体は社会保険を外す理由にはなりません。
採用時点から健康保険・厚生年金の加入要件を満たし、2か月を超えて使用される見込みがあるのであれば、試用期間中でも原則として資格取得の対象となる場合があります。
したがって「2か月の試用期間終了後から週20時間契約へ変更する」という意味なら、その変更日から資格要件を確認することになりますが、最初から週20時間以上で長期雇用予定なのであれば、加入開始日について会社の担当者や年金事務所へ確認した方がよいでしょう。
昼の勤務先でも雇用保険の条件を満たしたらどうなる?
例えば夜の勤務先で週25時間、昼の勤務先でも週20時間以上働くとします。どちらも雇用保険の通常の加入要件を満たす可能性があります。
しかし65歳未満の通常の雇用保険制度では、2社で同時に一般被保険者になるのではなく、主たる賃金を受ける雇用関係にある勤務先で加入するのが基本です。[参照]
そのため夜の勤務先が主たる勤務先と判断されるのであれば、昼の勤務先では健康保険・厚生年金へ加入しつつ、雇用保険については資格取得しないという処理になることがあります。
昼の会社に「雇用保険も社会保険も全部入れてください」と頼む必要はない
会社によっては入社手続きの際に「週20時間以上なので雇用保険と社会保険を両方手続きします」と案内することがあります。
しかし既に別の会社で雇用保険へ加入している場合は、その事実を昼の勤務先へ伝える必要があります。
「現在、別の勤務先で雇用保険に加入しており、そちらの方が主たる勤務先です」と伝え、雇用保険についてはハローワークで資格関係を確認してもらうのが安全です。
雇用保険と健康保険・厚生年金では「主たる勤務先」の意味が違う
ここも混乱しやすい部分です。雇用保険で主たる勤務先が夜の会社だからといって、健康保険・厚生年金も必ず夜の会社から加入しなければならないわけではありません。
健康保険・厚生年金は、勤務先ごとにその事業所が適用事業所なのか、自分の勤務条件が資格取得要件を満たしているのかを判断します。
夜の勤務先が健康保険・厚生年金の適用対象にならず、昼の勤務先だけで資格要件を満たすなら、昼の勤務先で健康保険・厚生年金に加入することになります。
夜の勤務先の月収が30万円でも社会保険の加入義務が生じないケースはある
健康保険・厚生年金の加入は「月給が高い方の会社」という基準で決まるものではありません。
例えば個人事業の小規模事業所では、業種や常時使用する従業員数などによって健康保険・厚生年金の強制適用事業所に該当しないケースがあります。
そのため夜の勤務先で月30万円を受け取っていても、その勤務先が健康保険・厚生年金の適用事業所ではなく、一方の昼の会社が適用事業所で本人も加入要件を満たすなら、健康保険・厚生年金だけ昼の会社から加入するという状態は不自然ではありません。
夜の勤務先が社会保険対象外でも、その給料を昼の社会保険料に合算するわけではない
健康保険・厚生年金へ昼の勤務先だけで加入する場合、夜の勤務先が社会保険上の適用事業所ではなく、そこで被保険者になっていないのであれば、通常は夜の給与を昼の会社の標準報酬月額へ単純に合算するわけではありません。
例えば夜30万円、昼12万円を受け取っていて、健康保険・厚生年金の被保険者になるのが昼の会社だけなら、基本的には昼の会社から受け取る報酬を基礎に社会保険料が決まります。
ただし、両方の勤務先で健康保険・厚生年金の加入要件を満たす場合には話が変わります。
両方の勤務先が社会保険の加入対象なら「二以上事業所勤務」になる
もし将来、夜の勤務先についても健康保険・厚生年金の適用条件を満たすようになり、昼夜両方の勤務先で被保険者資格を取得する場合は、一方だけを自由に選んで加入する仕組みではありません。
日本年金機構では、同時に2か所以上の適用事業所に勤務して被保険者になる場合、本人が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届」を提出し、主たる事業所を選択する制度を設けています。[参照]
この場合、単に一方の会社だけで社会保険へ入り、もう一方を無視することはできません。
二以上事業所勤務では両方の給与を合算して社会保険料を計算する
両方の事業所で健康保険・厚生年金の被保険者になる場合には、それぞれの会社から受け取る報酬を合算して標準報酬月額を決定します。
そのうえで社会保険料をそれぞれの事業所から受ける報酬額に応じて按分し、各勤務先がそれぞれ負担・徴収します。日本年金機構も、複数の事業所で社会保険へ加入する場合は各事業所の報酬を合算して標準報酬月額を決め、報酬額をもとに按分すると説明しています。[参照]
今回のように片方の事業所ではそもそも健康保険・厚生年金の被保険者にならないケースとは区別して考える必要があります。
65歳以上には雇用保険の特例制度がある
雇用保険の「原則1社」という説明には例外があります。
65歳以上の労働者については「雇用保険マルチジョブホルダー制度」があり、1つの勤務先では週20時間未満でも、2つの事業所の労働時間を合計して週20時間以上となるなど一定の条件を満たす場合、本人の申出により特例的に雇用保険へ加入できる制度があります。[参照]
ただし一般的な65歳未満の掛け持ちアルバイトとは異なる制度なので、通常のケースでは「2社の労働時間を足して雇用保険へ加入する」とは考えません。
具体例:夜30万円・昼12万円のダブルワークならどう考える?
例えば夜のスナックで週25時間、月収30万円、昼の会社で週22時間、月収12万円とします。夜の勤務先ではすでに雇用保険へ加入していて、健康保険・厚生年金には加入対象ではないとします。
一方、昼の勤務先が健康保険・厚生年金の適用事業所で、本人が短時間労働者として加入要件を満たしているのであれば、昼の勤務先で健康保険・厚生年金へ加入します。
雇用保険については、夜の勤務が主たる賃金を受ける雇用関係と判断されるなら、夜の勤務先で加入を継続し、昼の勤務先では雇用保険へ重複加入しない、という形が考えられます。
昼の勤務先には掛け持ちと雇用保険加入済みであることを伝える
昼の勤務先には、既に夜の勤務先で雇用保険へ加入していることを必ず伝えておいた方がよいでしょう。
雇用保険の資格取得手続きには雇用保険被保険者番号が使われるため、勤務先が二重資格取得をしようとすると、ハローワークで既存の加入状況が確認されることがあります。
最初から「別の勤務先で雇用保険加入中」「そちらが主たる勤務先」「こちらでは健康保険・厚生年金の加入を希望している」と説明しておけば、人事・給与担当者も手続きを整理しやすくなります。
「社会保険だけ入りたい」は本人の希望だけで選ぶものではない
健康保険・厚生年金は、本人が希望するから加入する、希望しないから加入しないという任意制度ではありません。
昼の勤務先で加入要件を満たしていれば原則として加入する必要があり、満たしていなければ本人が「入りたい」と希望するだけでは通常加入できません。
同様に雇用保険についても、主たる勤務先の判定を本人と会社の相談だけで自由に決めるものではありません。条件が微妙な場合はハローワークへ確認するのが確実です。
週20時間は「実際にたまたま超えた時間」ではなく所定労働時間が基本
社会保険や雇用保険の週20時間要件を見る際には、ある週だけ残業して20時間を超えたというだけではなく、雇用契約上の「所定労働時間」が重要になります。
例えば契約では週18時間なのに、繁忙期だけ毎週22時間働いたという場合と、契約上最初から週22時間と定められている場合では扱いが異なる可能性があります。
そのため新しい勤務先との労働条件通知書や雇用契約書に「週何時間」と記載されているか確認しておきましょう。
試用期間終了後に週20時間以上へ変更するなら契約変更日を確認する
最初の2か月は週20時間未満で働き、試用期間終了後から正式に週20時間以上へ変更するのであれば、契約変更によって社会保険の加入要件を満たす日が重要になります。
例えば11月1日入社で、12月31日までは週15時間、翌年1月1日から週25時間という労働契約に変更されるなら、1月1日時点の条件で健康保険・厚生年金の資格取得を判断することになります。
逆に最初から週25時間で勤務する契約なのに、単に「試用期間だから2か月間は加入させない」という扱いであれば、資格取得日が適切か年金事務所へ確認する余地があります。
実際の手続きは昼の会社・ハローワーク・年金事務所で確認すると確実
掛け持ちは一人ひとり勤務時間、企業規模、年齢、雇用期間などが異なるため、最終的な資格判断は個別に確認するのが安全です。
雇用保険についてはハローワークへ、「夜の勤務先で加入済みで、昼の勤務先でも週20時間以上働く予定だが、どちらを被保険者とするか」と相談すると明確になります。
健康保険・厚生年金については年金事務所へ、昼の会社名、週の所定労働時間、雇用期間、企業規模などを伝えれば、加入要件を確認できます。
まとめ:雇用保険は夜、健康保険・厚生年金は昼という加入は可能
掛け持ちアルバイトでは、雇用保険の加入先と健康保険・厚生年金の加入先が別々になることは制度上可能です。「社会保険に入る会社と雇用保険に入る会社は必ず同じでなければならない」というルールはありません。
通常の雇用保険では、複数の勤務先で加入要件を満たした場合、「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係」にある会社で加入します。厚生労働省もそのように案内しているため、夜の勤務先が主たる雇用関係と判断されるなら、雇用保険を夜の勤務先で継続することが考えられます。[参照]
一方、健康保険・厚生年金は勤務先ごとに資格を判定します。夜の勤務先では加入対象にならず、昼の勤務先で4分の3基準または短時間労働者の加入要件を満たすのであれば、昼の勤務先だけで健康保険・厚生年金へ加入することができます。[参照]
したがって、例えば夜のスナック=雇用保険、昼のアルバイト=健康保険・厚生年金という形はあり得ます。昼の勤務先で健康保険・厚生年金へ加入するからといって、雇用保険も必ず昼へ移す必要があるわけではありません。
ただし「昼の会社でも週20時間以上だから雇用保険に加入する」と会社側が手続きを進める可能性があるため、入社時に現在ほかの勤務先で雇用保険へ加入していること、そちらの収入・勤務が主であることを必ず伝えましょう。どちらを雇用保険の加入先とするべきか最終判断に迷う場合は、ハローワークへ確認するのが確実です。
また、健康保険・厚生年金については「週20時間以上」という条件だけで必ず加入になるわけではありません。正社員等の4分の3基準、企業規模、雇用期間なども関係します。昼の勤務先が加入対象だと確認できているのであれば、雇用保険とは切り離して健康保険・厚生年金の資格取得手続きを進めてもらう、という整理が最も分かりやすいでしょう。


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