在宅テレアポなどを業務委託で始める際、発注会社から「自分で納税するか会社に任せるか」「インボイス未登録なら報酬から一定割合を控除する」と説明され、何の税金が差し引かれているのか分からなくなるケースがあります。
特に注意したいのは、インボイス制度による発注側の仕入税額控除と、受注者本人が納める所得税・消費税、さらに会社独自の業務手数料は、それぞれ別の話だという点です。「インボイス未登録だから国に納める税金として報酬の○%が自動的に差し引かれる」という単純な制度ではありません。
この記事では、個人が業務委託で働く場合を前提に、インボイス未登録者への報酬、仕入税額控除、源泉徴収、会社独自の手数料の違いを整理します。なお、税制や契約条件は変更されることがあるため、実際の契約では最新の国税庁資料と契約書・取引条件通知書を確認してください。
インボイス未登録だから報酬から一定割合が自動控除される制度ではない
最初に押さえておきたいのは、インボイス制度は基本的に「発注者側が消費税の仕入税額控除をどこまで受けられるか」という問題だということです。インボイスに登録していない個人事業主へ報酬を支払う際、国が発注会社に対して「受注者の報酬から一律○%を天引きしなさい」と定めているわけではありません。
したがって、「インボイス未登録なので5%控除」「来月から10%控除」と説明された場合には、その数字をそのまま税法上の天引きだと考えず、何を根拠として、何に対する何%を差し引くのかを確認する必要があります。
例えば報酬が税込11万円だったとして、会社から「インボイス未登録なので5%を引きます」と言われても、それだけでは計算根拠が分かりません。インボイス制度における仕入税額控除の割合と「報酬総額の5%を差し引く」という契約条件は同じ意味ではないためです。
インボイス制度の「仕入税額控除」は発注会社側の問題
インボイス制度では、原則として適格請求書発行事業者から受け取った適格請求書などを保存することで、発注会社は一定の要件の下で仕入税額控除を行います。一方、免税事業者などインボイスを発行できない事業者との取引については経過措置が設けられています。
2026年8月時点では、2023年10月1日から2026年9月30日までの取引について、一定の要件を満たせば仕入税額相当額の80%を控除できる経過措置があります。また、2026年度税制改正によって、その後の控除可能割合についても見直しが行われています。つまり「控除できない割合」と「受注者の報酬から差し引いてよい割合」は別物です。
例えば税込11万円、税率10%の取引なら、その金額に含まれる消費税相当額は単純計算で1万円です。仮にその税額相当額の80%を発注者が仕入税額控除できるなら、控除対象は8,000円という考え方になります。報酬11万円そのものの80%を控除するという意味ではありません。
さらに2026年度税制改正では、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れに関する経過措置の控除可能割合について、2026年10月以降70%とするなどの見直しが示されています。制度変更の時期に契約する場合は、古い資料ではなく最新情報を確認することが重要です。
「自分で納税」と「会社が代理で納税」も内容を確認する
業務委託は一般的な会社員の給与とは異なり、原則として受注者自身が収入や必要経費を記録し、必要に応じて確定申告を行います。そのため「会社が代理で納税する」という説明を受けた場合には、具体的に何という税金を、どの制度に基づいて、誰の名義で納付するのかを確認しておくべきです。
所得税には「源泉徴収」という制度がありますが、業務委託ならどの仕事でも一律に源泉徴収されるわけではありません。報酬・料金の種類によって源泉徴収の対象になるかが決まるため、「業務委託だから必ず○%天引き」という理解も正確ではありません。
また、「納税代行の手数料3%」という費用についても税金そのものではありません。会社独自のサービス手数料なのであれば、何を代行するサービスなのか、3%は何に対して計算するのか、利用しなければ本当に発生しないのかなどを契約前に書面で確認することが大切です。
インボイス未登録者は必ず消費税を納めるわけではない
インボイス登録をしていない個人事業主だからといって、それだけを理由に本人へ消費税の納税義務が生じるわけではありません。消費税の課税事業者になるかどうかは、基準期間の課税売上高など複数の条件によって判断されます。
一方、インボイス発行事業者として登録すると、原則として消費税の申告・納税が必要になります。そのため、仕事を始める際に発注会社から「インボイスに登録してください」と言われても、登録によるメリットだけでなく税負担や事務負担も確認したうえで判断する必要があります。
特に仕事を始めたばかりの個人事業主の場合、「インボイス登録」「確定申告」「所得税」「消費税」「源泉徴収」が混同されがちです。それぞれ別の制度として整理すると、契約書に書かれた控除の意味も判断しやすくなります。
報酬から5%・10%を引くと言われたときに確認する項目
発注会社から「インボイス未登録者は○%控除」と言われた場合、口頭説明だけで判断せず、具体的な計算方法を確認しましょう。フリーランスとの業務委託では、一定の場合に取引条件の明示や報酬の減額に関するルールも関係します。
確認したいポイントは次のとおりです。
- 報酬単価はいくらなのか
- 提示された報酬は税込なのか税抜なのか
- 5%・10%は何に対して掛ける数字なのか
- その控除は税金なのか、報酬単価の調整なのか、会社の手数料なのか
- インボイス制度上のどの規定を根拠としているのか
- 3%の業務手数料は具体的に何のサービスへの対価なのか
- 自分で納税を選択した場合に差し引かれる項目は何か
- 源泉徴収がある場合、その税率と根拠は何か
- 最終的な振込額はいくらになるのか
例えば「報酬10万円、インボイス未登録控除5%、業務手数料3%」と言われたのであれば、「10万円から5,000円と3,000円を差し引いて9万2,000円になるという意味ですか。それぞれの控除の法的・契約上の根拠を文書で教えてください」と確認すれば話が具体的になります。
フリーランス法上の「報酬の減額」にも注意
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、発注事業者に取引条件を明示する義務などが設けられています。また一定の継続的な業務委託では、フリーランス側に責任がないにもかかわらず、発注時に定めた報酬を後から減額する行為などが禁止されています。
そのため、「最初からインボイス未登録者の報酬はこの金額」という条件で双方が契約するケースと、仕事を発注した後になって「やはりインボイス未登録だから5%引きます」と一方的に減額するケースは分けて考える必要があります。
また、名目を「税金」「控除」「事務手数料」などに変更すれば自由に差し引けるとは限りません。公正取引委員会もフリーランス法について、フリーランスに責任がないのに発注時に定めた報酬を後から減らすことなどを禁止行為として案内しています。
契約前に「手取り額」を書面で確認しておく
税金の専門知識がなくても、契約前に最低限確認できる方法があります。それは、具体的な報酬額を例にして最終的に銀行口座へいくら振り込まれるのかを会社に計算してもらうことです。
例えば月額報酬が20万円になる想定なら、「インボイス未登録・納税代行を利用しない場合、20万円から何がいくら引かれて、振込額はいくらになりますか」とメールなど記録の残る方法で問い合わせます。これなら「控除」という言葉の解釈違いを防げます。
さらに、契約書、業務委託条件、報酬表、会社から届いたメールやチャットは保存しておきましょう。説明された条件と実際の振込額が違った場合にも重要な資料になります。
不明な控除がある場合の相談先
消費税やインボイス制度そのものについて分からない場合は、国税庁のインボイス制度に関する案内や税務署、税理士などに確認する方法があります。特に「自分に消費税の納税義務があるか」「インボイス登録をした方がよいか」は収入やほかの事業の状況によって結論が変わります。
一方、「契約した報酬を発注会社から一方的に減額された」「契約時に聞いていない手数料を差し引かれた」といった取引上の問題については、公正取引委員会などが案内するフリーランス法の相談窓口や、フリーランス・トラブル110番などへの相談を検討できます。
税務上正しい計算なのかという問題と、発注会社との契約上その控除が許されるのかという問題は別です。疑問がある場合は「税金だから仕方ない」と考えず、まず控除項目の正式名称と根拠を確認することが重要です。
まとめ:インボイス未登録による控除と自分の納税は分けて考える
業務委託で働く場合、インボイス未登録だから報酬から一定割合が税金として自動的に差し引かれる、という仕組みではありません。インボイス制度の仕入税額控除は基本的に発注会社側の消費税計算に関する制度であり、受注者自身の所得税・消費税の納税とは切り分けて考える必要があります。
また、2026年はインボイス制度の経過措置の割合が変更される時期でもあるため、「9月は5%、10月は10%」などと説明された場合には、その数字が何を根拠に算出されているのかを必ず確認したいところです。仕入税額控除の割合と報酬総額から差し引く割合をそのまま同一視することはできません。
契約前には「インボイス未登録・納税代行なしの場合の報酬総額、各控除項目、控除額、最終振込額」を書面で提示してもらうのが確実です。説明に納得できない場合は契約書に同意する前に国税庁・税務署や税理士へ税務面を確認し、報酬の減額など取引条件について疑問があればフリーランス法の相談窓口へ相談するとよいでしょう。


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