2026年8月、さいたま市の踏切で、前を走っていた車が踏切通過後に停車し、後続車が踏切内に残った状態で列車と衝突する事件が報じられました。前方車両を運転していたJAF職員が殺人未遂容疑で逮捕され、後続車の運転者は列車との衝突前に車外へ出て無事だったと報じられています。[参照:FNNプライムオンライン]
このような事件を見ると、「壊れた後続車は誰が弁償するのか」「前の車の自動車保険から支払われるのか」「自分の車両保険を使うことになるのか」という疑問が生じます。
実際の補償は、警察の捜査結果、民事上の責任、各車両の保険契約、事故と損害の因果関係などによって決まります。逮捕されたという報道だけから、特定の保険会社がいくら支払うと断定することはできません。
JAF職員の踏切事件では何が起きたのか
報道によると、事件は2026年8月18日にさいたま市岩槻区の東武アーバンパークラインの踏切で発生しました。前方車両が踏切を渡ったところで停車し、後続車が踏切内に残ったとされています。
後続車にはその後列車が衝突しましたが、運転していた男性は車外へ出ており無事でした。前方車両の運転者は殺人未遂容疑で逮捕されましたが、殺意については否認していると報じられています。[参照:テレビ朝日]
したがって、以下はこの事件について保険会社の最終判断を予測するものではなく、同様の状況で自動車保険がどのように問題になるかを一般論として整理したものです。
後続車の修理代は自賠責保険からは出ない
まず重要なのは、自賠責保険と任意の自動車保険を区別することです。自賠責保険は交通事故によって他人を死傷させた場合の人身損害を対象とする制度であり、壊れた自動車そのものの修理費は対象ではありません。
国土交通省も、自賠責保険・共済について物損事故は補償対象ではなく、人身事故による対人損害賠償のみと明記しています。[参照:国土交通省 自賠責保険・共済]
したがって、列車との衝突によって後続車が大破した場合、その車両損害を「前の車の自賠責で直してもらう」という処理にはなりません。物損については任意保険や加害者本人への損害賠償請求などが問題になります。
前方車の対物賠償保険が必ず使えるとは限らない
通常の交通事故で、運転者の過失によって他人の車を壊し法律上の損害賠償責任を負った場合には、任意自動車保険の対物賠償責任保険が利用されるのが一般的です。
しかし今回のように故意による行為だったのかが問題となる事件では事情が複雑です。日本損害保険協会は、対物賠償責任保険について、契約者や記名被保険者などの故意によって事故が起きた場合の損害を、保険金が支払われない主なケースとして説明しています。[参照:日本損害保険協会]
つまり「前の車に任意保険が付いているから、その対物保険で後続車が当然に全額補償される」とは限りません。故意免責に該当するかは、事実関係や契約約款などを踏まえて保険会社が判断することになります。
保険が出ないことと損害賠償責任がなくなることは別
ここは非常に重要です。仮に故意免責などによって加害者側の任意保険から保険金が支払われないとしても、それだけで行為者本人の民事上の損害賠償責任まで消えるわけではありません。
保険は、一定の条件を満たした事故について保険会社が損害を補償する仕組みです。一方、損害賠償責任は「誰が発生した損害を法律上負担するのか」という別の問題です。
例えば裁判や示談によって、ある人物の行為と車両損害との間に因果関係が認められ、その人物に賠償責任が認められれば、保険会社が支払わない場合でも本人に対する損害賠償請求が問題になります。ただし、実際にどこまで回収できるかは相手の資力などにも左右されます。
後続車自身の車両保険を使える可能性もある
後続車の所有者が車両保険へ加入している場合には、自分の保険を利用できる可能性があります。ただし「車両保険に加入している」というだけでは判断できず、契約している車両保険の補償範囲と事故状況を確認する必要があります。
車両保険には商品や契約によって補償範囲の違いがあります。列車との衝突という事故がどのように扱われるのか、第三者の故意行為が関係したケースでどう処理されるのかなど、保険会社へ事故状況を正確に伝えて確認することになります。
自分の車両保険から先に保険金が支払われ、その後、保険会社が損害賠償請求権を取得して責任を負う相手へ請求するという処理が行われる場合もあります。そのため被害車両の所有者は、相手側との話し合いだけでなく、まず自分が加入している保険会社にも事故を届けることが重要です。
全損なら新車購入価格がそのまま支払われるとは限らない
列車との衝突で車が大破すると、修理不能または修理費が車両価値を上回る「全損」と判断される可能性があります。しかし、相手への損害賠償請求では、壊れた車と同じ新車を買うための金額が必ず全額支払われるわけではありません。
一般的な物損事故では、事故直前の車両の時価額などが重要になります。また自分の車両保険を使用する場合は、契約している車両保険金額や約款に基づいて支払額が決まります。
例えば数年前に300万円で購入した車でも、事故時点の市場価値が大きく下がっていれば、購入時の300万円がそのまま賠償されるとは限りません。逆に車両新価特約など一定の特約を付けている場合には別の扱いになる可能性があります。
列車や鉄道設備の損害も別の問題になる
このような踏切事故では、後続車だけでなく列車や線路、踏切設備などにも損害が生じる可能性があります。また列車の運休などによる損害が問題になることもあります。
今回の事件についても、報道では列車の運休など大きな影響が生じたとされています。しかし、それらの損害について最終的に誰がどこまで賠償責任を負うのかは、事件の事実認定や因果関係などを踏まえて個別に判断される問題です。
「車が列車にぶつかったのだから後続車の運転者が全部負担する」「前方車が原因だから前方車の運転者が無条件ですべて負担する」とニュース映像だけから結論づけることはできません。
人が負傷していた場合は自賠責も関係する
今回報じられた事件では後続車の男性にけがはなかったとされていますが、仮に運転者や同乗者が負傷していた場合には、物損とは別に人身損害について自賠責保険などが問題になります。
自賠責保険には被害者が加害車両の自賠責保険会社へ直接請求する「被害者請求」の制度があります。損害保険料率算出機構も、被害者が加害者の自賠責保険へ直接損害賠償額を請求できる仕組みを案内しています。[参照:損害保険料率算出機構]
ただし、自賠責はあくまで人身損害を対象とする制度です。治療費や休業損害などと、大破した自動車の修理・買い替え費用は分けて考える必要があります。
同様の被害に遭った場合にすぐ行うこと
第三者の故意が疑われる交通トラブルによって自分の車が損傷した場合には、通常の物損事故以上に証拠の保存が重要です。警察への届け出に加え、自分の自動車保険会社へ速やかに事故を連絡します。
ドライブレコーダー映像、現場写真、相手車両の情報、目撃者、警察への届出情報などは保存しておきます。故意か過失かによって保険の扱いが変わる可能性があるため、自分だけで判断して相手と示談を成立させないことも重要です。
また高額な車両損害や故意行為を伴う事件では、保険会社だけではなく弁護士への相談が必要になることがあります。自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合は、その利用可否も保険会社へ確認するとよいでしょう。
まとめ:後続車の補償は「前方車の保険が全部払う」と単純には決まらない
JAF職員が逮捕された踏切事件で列車と衝突した後続車については、前方車の任意保険から当然に全額支払われる、と現時点で断定することはできません。故意による事故と認定される場合には、任意保険の故意免責が問題になるためです。
一方で、任意保険が支払わないことと、行為者本人の損害賠償責任がなくなることは別問題です。また後続車側が車両保険に加入していれば、自分の車両保険から補償を受けられる可能性もあります。
さらに、自賠責保険は車の修理代などの物損には使えず、人身損害を対象とする制度です。この事件の最終的な賠償関係については、今後の捜査・事実認定や各保険契約の内容などによって決まるため、報道段階で特定の人物・保険会社の負担額を決めつけずに見る必要があります。


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