69歳を迎えると、「これから何年くらい生活することになるのか」「貯金はいくらあれば安心なのか」と老後のお金が気になりやすくなります。しかし、老後に必要な金額は「○○万円あれば大丈夫」と一律には決められません。現在の収入だけでなく、年金額、住居費、毎月の生活費、貯蓄、働く期間、医療・介護費などによって大きく変わるからです。
特に重要なのは、平均寿命までの生活費を丸ごと貯金で用意するのではなく、「毎月の支出-年金などの継続収入」で生じる不足額を計算することです。パート収入が月8万円ある場合でも、それとは別に公的年金を受給しているかどうかで必要な老後資金は大きく変わります。
ここでは69歳女性を例に、平均余命の考え方、老後の平均的な生活費、月々の不足額から必要資金を計算する方法を、具体例を交えて整理します。
69歳なら「平均寿命」ではなく「69歳時点の平均余命」を見る
老後資金を考える際によく使われるのが「平均寿命」です。ただし、すでに69歳まで生きている人の場合、出生時点の平均寿命から69歳を単純に引く方法は適切ではありません。見るべきなのは、69歳の人が平均してあと何年生きるかを表す「平均余命」です。
厚生労働省は毎年「簡易生命表」を公表しており、年齢ごとの平均余命を確認できます。老後資金を計画するときは、この生命表を一つの基準として利用できます。[参照:厚生労働省 令和7年簡易生命表]
ただし、平均余命はあくまで統計上の平均です。平均より長く生きる人も当然います。そのため資金計画では、平均余命までギリギリのお金を用意するのではなく、90歳や95歳、場合によっては100歳まで生活する可能性も想定しておくと資金不足のリスクを抑えやすくなります。
老後に必要なのは「生活費の総額」ではなく毎月の不足額
たとえば毎月15万円で生活すると仮定すると、年間では180万円です。これだけを見ると「20年間なら3,600万円必要」と考えてしまいがちですが、通常はその全額を貯蓄から支払うわけではありません。
公的年金が月10万円あり、さらにパート収入が月8万円あるなら、単純計算では月18万円の収入があります。生活費が月15万円なら、働いている期間については日常生活費を収入の範囲内で賄える計算です。
反対に、仕事を辞めた後の収入が年金10万円だけになり、生活費が15万円なら、毎月5万円不足します。この場合の老後資金を考える基本式は、「毎月の不足額×12か月×想定する年数+臨時支出への備え」となります。
高齢単身世帯はいくら使っている?公的統計を目安にする
自分の生活費が分からない場合は、総務省統計局の家計調査が一つの参考になります。2024年の家計調査では、65歳以上の単身無職世帯の平均的な消費支出は月14万9,286円でした。税金や社会保険料などの非消費支出は月1万2,647円で、実収入は月13万4,116円でした。[参照:総務省統計局 家計調査2024年]
ただし、この数字をそのまま自分の必要生活費に当てはめるのはおすすめできません。家賃が必要な人と持ち家の人、自動車を所有する人としない人では支出がかなり違います。また、統計上の住居費には住宅購入費などがそのまま含まれるわけではないため、賃貸住宅で毎月まとまった家賃を払っている人は特に注意が必要です。
統計はあくまで比較材料として使い、最終的には自分の銀行口座やクレジットカードの明細を確認して、実際に毎月いくら使っているかを把握する方が正確です。
月8万円のパート収入がある69歳女性を例に計算
具体例として、一人暮らしで毎月の生活費が15万円、パート収入が8万円、公的年金が月8万円あるケースを考えてみます。この場合、働いている間の収入は合計16万円なので、通常の生活費については月1万円の余裕があります。
しかし75歳で仕事を辞め、以降は年金8万円だけになると仮定すると、生活費15万円に対して毎月7万円不足します。75歳から95歳まで20年間生活すると仮定した場合、単純計算では7万円×12か月×20年=1,680万円の不足になります。
一方、年金が月12万円なら不足は月3万円なので、同じ20年間でも3万円×12か月×20年=720万円です。このように、年金額が月4万円違うだけでも20年間では960万円もの差になります。したがって「パート収入が8万円」という情報だけでは必要な老後資金を確定できず、年金額の確認が非常に重要になります。
年金額・生活費別に不足額を試算してみる
仕事を辞めた後の生活費を月15万円と仮定し、年金だけで生活する場合を簡単に比較すると次のようになります。物価上昇や年金額の改定、運用益などを考慮しない単純計算です。
| 毎月の年金 | 生活費15万円との差 | 20年間の単純な不足額 | 25年間の単純な不足額 |
|---|---|---|---|
| 月7万円 | 月8万円不足 | 1,920万円 | 2,400万円 |
| 月8万円 | 月7万円不足 | 1,680万円 | 2,100万円 |
| 月10万円 | 月5万円不足 | 1,200万円 | 1,500万円 |
| 月12万円 | 月3万円不足 | 720万円 | 900万円 |
| 月15万円 | 不足なし | 0円 | 0円 |
この表からも、必要な老後資金を考えるときに最も知りたい数字は「現在の年齢」だけではなく、仕事を辞めた後に受け取れる年金額と、そのとき必要になる生活費だと分かります。
まず「ねんきんネット」などで実際の年金額を確認する
老後資金を計算する前に、公的年金を毎月いくら受け取れるのか確認しておきましょう。すでに受給している場合は年金振込通知書などから確認できます。
日本年金機構の「ねんきんネット」では、自分の年金記録や年金見込額などを確認できます。[参照:日本年金機構 ねんきんネット]
年金について不明点がある場合は、年金事務所などで相談する方法もあります。特に働きながら年金を受け取っている場合は、自分の加入状況や受給状況を確認したうえで資金計画を立てることが大切です。
パートを何歳まで続けるかで必要な貯蓄額は大きく変わる
月8万円のパート収入は年間では96万円です。仮に同程度の収入であと5年間働けば、単純な収入総額は480万円、あと10年間なら960万円になります。もちろん税金や社会保険、勤務日数の変化などがあるため、その全額を貯蓄できるという意味ではありません。
それでも、生活費をパート収入と年金で賄えている期間は、貯蓄を取り崩す時期を後ろへ延ばせます。この「取り崩し開始年齢を遅らせる」という効果は老後資金にとって非常に大きな意味があります。
一方で、老後資金を増やすために無理をして働き続ける必要があるとは限りません。体調や仕事内容、通勤負担なども考慮し、「70歳まで」「75歳まで」のように複数のケースを作って計算すると現実的な判断がしやすくなります。
生活費とは別に医療・介護・住宅などの臨時支出も考える
毎月の収支が黒字でも、老後にはまとまった出費が発生することがあります。代表的なのが医療費、介護費、住宅設備の修理・交換、家電の買い替えなどです。
持ち家なら給湯器、エアコン、屋根や外壁、水回りなどの修繕が必要になることがあります。賃貸住宅なら大規模修繕費は基本的に大家側の負担となる一方、毎月の家賃を長期間払い続ける必要があります。
そのため、毎月の赤字を補う資金とは別に、突然の支出に対応する予備資金を確保しておく考え方が重要です。具体的な金額は住宅状況、保険、家族からの支援の有無などによって異なります。
「平均寿命まで」ではなく90歳・95歳までの3パターンを作る
老後資金には寿命という予測できない要素があります。そのため一つの年齢だけをゴールにするより、例えば「85歳まで」「90歳まで」「95歳まで」のように複数のシナリオを作る方法が実用的です。
例えば毎月5万円不足するなら、10年間で600万円、20年間で1,200万円、25年間なら1,500万円です。毎月3万円なら10年間360万円、20年間720万円、25年間900万円となります。
こうして計算すると、「あと何年生きるか」という答えの出ない問題を考え続けるよりも、どの程度の長生きまで現在の資産で対応できるのかを具体的に把握できます。
自分の必要老後資金を計算する5つの数字
実際の必要額を出すには、次の数字を紙に書き出すと整理しやすくなります。
- ①毎月の生活費:食費、家賃、光熱費、通信費、保険、交通費など
- ②毎月の年金手取り額:実際に生活に使える金額
- ③パート収入:現在の手取りと何歳まで働く予定か
- ④現在の金融資産:預貯金など老後に利用できる資産
- ⑤臨時支出:医療・介護、住宅修繕、家電、自動車など
基本的には「年間生活費-年間の年金等収入」で年間不足額を計算し、それに想定年数を掛けます。そのうえで臨時支出への予備費を加えれば、自分専用の老後資金の目安が見えてきます。
逆に、年金とパート収入が生活費を上回っているなら、現時点では貯蓄を大きく取り崩さずに済む可能性があります。その場合は「いくら必要か」だけではなく、仕事を辞めた後の収支がどう変化するかを重点的に確認するとよいでしょう。
まとめ|69歳から必要なお金は「年金+生活費+働く期間」で考える
69歳から先に必要となるお金は、平均寿命だけから決めることはできません。平均余命は資金計画の参考になりますが、実際には平均より長生きする可能性もあるため、90歳や95歳までのケースも試算しておくと安心です。
そして最も重要なのは、「老後の生活費総額」ではなく、「生活費から年金などの継続収入を引いた不足額」を求めることです。月8万円のパート収入があっても、年金が月5万円なのか12万円なのかによって必要な貯蓄額は大幅に変わります。
まずは毎月の実際の生活費、年金の手取り額、現在の貯蓄額、何歳まで働きたいかを書き出してみましょう。その4つが分かれば、「現在の貯蓄で何歳ごろまで対応できそうか」「毎月いくら残しておけばよいか」をかなり具体的に計算できるようになります。


コメント