責任無能力者は個人賠償責任保険の対象外?精神疾患のある成人の同居家族と約款の読み方を解説

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個人賠償責任特約や日常生活賠償特約の約款には、「記名被保険者」「同居の親族」「責任無能力者」「法定監督義務者」など、日常ではあまり使わない法律用語が並んでいます。特に家族に精神疾患や認知症などがある場合、「成人だから対象外なのか」「責任無能力者に該当すると本人は補償されなくなるのか」と混乱しやすい部分です。

重要なのは、「責任無能力者についての規定」は、成人の責任無能力者を被保険者から除外するための規定とは限らず、むしろその人を監督する親権者・法定監督義務者などを追加で被保険者に含めるための規定として置かれていることが多いという点です。

また、精神疾患の診断名があるだけで法律上の「責任無能力者」と自動的に決まるわけではありません。事故当時、その行為の意味や結果について責任を理解する能力があったかなど、具体的な状態をもとに判断されます。

まず「①から④」は通常の被保険者の範囲を示している

個人賠償責任特約でよく見られる約款では、被保険者として、①記名被保険者、②その配偶者、③記名被保険者または配偶者の同居の親族、④別居の未婚の子、という範囲が定められています。

そのため、例えば契約上の記名被保険者が父親で、その成人した息子が父親と同居している場合、息子は通常、年齢とは関係なく「③同居の親族」に該当し得ます。「成人した子だから③には入らない」という意味ではありません。

損保ジャパンや三井住友海上などの現在の個人賠償・日常生活賠償に関する公式案内でも、記名被保険者または配偶者の「同居の親族」は被保険者の範囲として案内されています。成人か未成年かだけで③から除外する構造にはなっていません。

⑤の責任無能力者の規定は「本人を除外する条文」ではない

理解しづらいのが、「①から④までのいずれかに該当する者が責任無能力者である場合は、その者の親権者、その他の法定監督義務者および監督義務者に代わって監督する者を被保険者とする」という部分です。

これは一般的には、①から④に該当していた人が責任無能力者だった場合に、その事故について法律上の賠償責任を負う可能性がある監督者まで補償対象へ広げるための規定です。

例えば同居する成人の息子が③に該当しており、事故当時に法律上の責任能力がなかったとします。その場合、「息子は成人だから保険から外す」という意味ではなく、息子に関する事故について親権者や法定監督義務者等が法律上の賠償責任を負った場合に備え、その監督者についても被保険者として扱えるようにする役割があります。損保ジャパンの個人賠償責任特約でも、②から④までの者が責任無能力者の場合、その監督者を被保険者に含める旨が明示されています。[損保ジャパン公式参照]

「第2条①または②の事故に限る」は人の範囲を限定しているわけではない

約款中の「ただし、その責任無能力者に関する第2条(保険金を支払う場合)①または②の事故に限ります」という一文は、特に誤解されやすい部分です。

この「①または②」は、通常は記名被保険者か配偶者かという人物番号を指しているのではなく、「第2条」に書かれている補償対象事故の①・②を指しています。したがって、「責任無能力者が①記名被保険者または②配偶者の場合だけ補償する」という意味には通常読みません。

例えば第2条①が「住宅の所有・使用・管理に起因する偶然な事故」、②が「日常生活に起因する偶然な事故」といった構成の約款なら、「監督者を追加で被保険者にするのは、その責任無能力者に関して発生した①または②の種類の事故に限る」という意味になります。正確な内容は契約している商品の第2条本文を確認する必要があります。

成人の同居する息子でも被保険者になり得る

例えば父親が記名被保険者で、30歳の息子が同じ家に暮らしているとします。この場合、個人賠償責任特約の被保険者が「記名被保険者またはその配偶者の同居の親族」とされていれば、成人した息子も③に該当するのが基本的な読み方です。

そして息子に精神疾患があったとしても、その事実だけで③から除外されるわけではありません。むしろ事故当時に責任能力がなかった場合に備えて、⑤のような監督者に関する規定が用意されている商品があります。

三井住友海上の日常生活賠償特約についても、記名被保険者、その配偶者、同居の親族、別居の未婚の子に加え、これらの人が責任無能力者の場合には親権者・監督義務者等を対象とする旨が案内されています。[三井住友海上公式参照]

「統合失調症=責任無能力者」ではない

保険会社から「成人の場合は調査が必要」と説明される理由は、ここにあります。民法713条は、精神上の障害がある人すべてを一律に責任無能力者としているわけではありません。

民法713条では、精神上の障害により「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」にある間に他人へ損害を与えた場合、原則として本人は損害賠償責任を負わないと定めています。つまり、診断名ではなく、事故当時にその行為について責任を理解・判断する能力があったかが重要になります。

統合失調症と診断されている人でも、症状や状態は人によって大きく異なります。日常生活や社会生活を問題なく送れる時期もあれば、症状が重く判断能力が著しく低下する時期もあります。そのため「統合失調症だから責任無能力」「成人だから責任能力あり」のどちらにも機械的には決められません。

なぜ小さな子どもと成人では保険会社の確認方法が違うのか

幼い子どもの事故では、年齢や発達段階から責任能力がないことが比較的判断しやすいケースがあります。一方、成人については精神疾患があるという情報だけでは、事故当時の責任能力を判断できません。

そのため保険会社が、診断内容、事故当時の症状、日常生活の状況、事故の内容などについて調査したうえで判断すると説明すること自体は不自然ではありません。

ここで調査されるのは、単純に「精神疾患があるから保険対象から外す」ということではなく、本人が法律上の損害賠償責任を負うケースなのか、本人が責任無能力で監督者の責任を検討するケースなのかなどを整理するためです。

民法714条では責任無能力者の監督者の責任が問題になる

民法714条では、民法712条・713条により責任無能力者本人が責任を負わない場合、その人を監督する法定の義務を負う者について、一定の場合に損害賠償責任が定められています。

個人賠償責任特約で「責任無能力者の親権者、その他の法定監督義務者」などを被保険者に含めているのは、このような民法上の損害賠償責任に対応する意味があります。

ただし、成人した精神障害者の親だからという理由だけで、親が常に民法714条の法定監督義務者になるわけでもありません。最高裁判所も、精神障害者と家族との関係、同居の状況、日常的な接触、介護・監護の実態などを考慮して監督義務者等に当たるかを判断する考え方を示しています。[最高裁判所判決参照]

「被保険者の範囲」と「保険金が出るか」は分けて考える

保険約款を読むときは、「その人が被保険者に含まれるか」と「今回の事故について実際に保険金が支払われるか」を分けることが重要です。

例えば成人の同居する息子が③の「同居の親族」に該当していたとしても、それだけで今回の事故について保険金が支払われることが確定するわけではありません。事故が第2条の補償対象事故に該当するか、免責条項に該当しないか、誰が法律上の損害賠償責任を負うかなども確認されます。

逆に、保険会社から責任能力について調査すると言われたからといって、「成人の息子はそもそも被保険者ではない」と結論付ける必要もありません。被保険者該当性と責任能力の判断は別の論点です。

保険会社には何を確認すればよい?

約款だけで分かりにくい場合は、保険会社へ「保険が出ますか」とだけ尋ねるより、論点を分けて質問すると回答が明確になります。

まず「同居している成人の子は、被保険者の範囲の③に該当しますか」と確認します。そのうえで「⑤は③の責任無能力者を除外する規定ではなく、その監督者を追加する規定という理解でよいですか」と尋ねるとよいでしょう。

さらに「第2条①または②とは具体的にどの事故を意味するのか」「今回の事故はそのどちらに該当する可能性があるのか」「責任能力について何を調査して判断するのか」を確認します。可能であれば回答をメールや書面など記録に残る方法でもらうと、約款との照合がしやすくなります。

まとめ|精神疾患のある成人の同居の子が一律に補償対象外になるわけではない

「①から④の者が責任無能力者の場合」という約款は、成人の責任無能力者を補償対象から除外する意味ではなく、その人に関する事故について親権者や法定監督義務者などを追加で被保険者に含める趣旨で置かれていることが一般的です。

したがって、記名被保険者と同居している成人の息子であれば、「同居の親族」という被保険者の範囲に該当し得ます。また「第2条①または②の事故に限る」という表現も、通常は責任無能力者が記名被保険者または配偶者でなければならないという意味ではなく、第2条に列挙された補償対象となる事故の種類を限定しています。

一方、統合失調症などの診断があるからといって自動的に責任無能力者になるわけではありません。事故当時の責任を弁識する能力を具体的に確認する必要があるため、成人の場合に保険会社が調査を行うことはあり得ます。最終的な補償可否は、契約している商品の第2条・免責条項、事故状況、本人の事故当時の状態、監督者の法律上の責任などを総合して判断されます。まずは「成人の同居の子が③に該当するか」と「⑤の追加規定がどう適用されるか」を分けて保険会社へ確認することが、約款を正確に理解する近道です。

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