出産前後には社会保険料の負担を軽くする制度がありますが、「産前1か月・産後3か月の4か月間は保険料が完全に0円になるのか」「一部だけ安くなるのか」が分かりにくいことがあります。
特に注意したいのが、「国民健康保険」と「国民年金」では産前産後制度の仕組みが違うことです。どちらも4か月という期間が基本ですが、国民年金は対象期間の保険料そのものが免除される一方、国民健康保険では出産する本人にかかる所得割・均等割の4か月相当分を減額する仕組みです。
そのため、国民健康保険では産前産後の制度を利用しても世帯全体の請求額が完全に0円になるとは限りません。「免除」と「減額」という言葉が自治体などによって使い分けられているため、ここを整理すると制度が理解しやすくなります。
- まず結論:国民年金と国民健康保険では意味が違う
- 国民年金の産前産後免除は4か月分を払わなくてよい
- 国民年金は免除されても将来の年金額が減らない
- 多胎妊娠なら国民年金は6か月分が免除
- 国民健康保険にも2024年から産前産後の軽減制度がある
- 国民健康保険は「4か月間の世帯保険料が全部0円」ではない
- 具体例:夫婦2人が国保ならどうなる?
- 国民健康保険料がちょうど4か月だけ請求0円になる仕組みでもない
- なぜ自治体では「免除」ではなく「減額・軽減」と書かれるのか
- 所得が少ない人だけ一部免除になる制度ではない
- 通常の国民年金「保険料免除制度」と産前産後免除は別物
- すでに国民年金が全額免除でも産前産後の届出をするメリットがある
- 国民健康保険では所得割がない人にもメリットがある
- 世帯が保険料上限に達していると請求額が変わらない場合もある
- 死産・流産・早産も対象になる場合がある
- 手続きはいつからできる?
- 会社員の健康保険・厚生年金ならまた制度が違う
- まとめ:国民年金は4か月分を免除、国民健康保険は本人の対象部分を4か月相当減額
まず結論:国民年金と国民健康保険では意味が違う
「産前産後4か月間の保険料が免除される」という話を聞いた場合、まず何の保険料についての話なのかを確認する必要があります。
| 制度 | 産前産後の扱い | 基本期間 |
|---|---|---|
| 国民年金 | 対象期間の国民年金保険料を免除 | 4か月 |
| 国民健康保険 | 出産する本人の均等割・所得割について4か月相当分を減額 | 4か月 |
国民年金なら、対象となる4か月分について国民年金保険料を支払う必要はありません。
一方、国民健康保険の場合には「4か月間、世帯の国保保険料が全部0円」という意味ではありません。出産する被保険者本人について、対象期間相当の均等割額と所得割額が差し引かれます。
国民年金の産前産後免除は4か月分を払わなくてよい
国民年金第1号被保険者の産前産後免除制度では、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間の国民年金保険料が免除されます。
例えば出産予定日が8月15日の場合、基本的には7月・8月・9月・10月の4か月分が産前産後免除の対象になります。
この4か月分については「一部だけ安くなる」のではなく、制度上の国民年金保険料が免除されます。所得が低い人向けの通常の保険料免除制度にある「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」とは別の制度です。
[参照] 日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」
国民年金は免除されても将来の年金額が減らない
産前産後免除の大きな特徴は、保険料を実際に払わなくても、その期間については保険料を納付したものとして老齢基礎年金額に反映されることです。
通常の全額免除制度では、免除期間について老齢基礎年金額への反映が満額納付時より少なくなることがあります。しかし産前産後免除は、その点でも通常の所得による免除制度とは扱いが異なります。
そのため「払わなくてよい代わりに将来の年金が4か月分減ってしまう」という制度ではありません。
多胎妊娠なら国民年金は6か月分が免除
双子などの多胎妊娠の場合には、免除期間が長く設定されています。
日本年金機構によると、多胎妊娠の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間の国民年金保険料が免除されます。
例えば8月が出産予定月なら、5月から10月までの6か月間が対象になるというイメージです。
国民健康保険にも2024年から産前産後の軽減制度がある
一方、医療保険である国民健康保険にも、2024年1月から産前産後期間の保険料負担を軽減する全国的な制度が導入されています。
厚生労働省によると、出産する国民健康保険の被保険者について、産前産後期間相当分である4か月分の均等割保険料と所得割保険料を免除する仕組みです。
自治体の案内では「産前産後免除」と書かれる場合もあれば、「産前産後軽減」「保険料の減額」と書かれる場合もあります。表現は異なりますが、基本となる全国制度は出産する本人にかかる均等割・所得割の対象期間分を軽くするものです。
国民健康保険は「4か月間の世帯保険料が全部0円」ではない
ここが最も誤解しやすいポイントです。国民健康保険では保険料が世帯単位で計算され、世帯内の加入者それぞれについて所得割や均等割などを計算して合計します。
産前産後の制度で減額されるのは、基本的に出産する本人にかかる4か月相当分の所得割・均等割です。
例えば夫婦とも国民健康保険に加入している家庭で妻が出産する場合、妻の対象部分は軽減されても、夫にかかる国民健康保険料まで同じ4か月間すべて免除されるわけではありません。
その結果、納付書が届いたり、毎月の引き落とし額が残ったりしていても、それだけで産前産後軽減が適用されていないとは判断できません。
具体例:夫婦2人が国保ならどうなる?
例えば夫と妻の2人が国民健康保険へ加入していて、妻が8月に出産するとします。単胎妊娠なら、基本的には7月から10月までの4か月が産前産後軽減の対象です。
この場合、妻について計算される所得割と均等割のうち4か月相当分が減額されます。
しかし夫の所得割・均等割などは通常どおり計算されます。そのため世帯全体としては国民健康保険料を支払うことになります。
「4か月免除と聞いたのに請求が来た」という場合には、世帯全体の保険料と出産する本人の軽減分を分けて考える必要があります。
国民健康保険料がちょうど4か月だけ請求0円になる仕組みでもない
国民健康保険料は自治体ごとに年間保険料を計算し、それを複数回の納期へ分けて請求する方式が一般的です。
そのため「7月から10月まで対象だから、7月・8月・9月・10月の引き落としがそのまま0円になる」とは限りません。
年間保険料の計算上、対象となる4か月相当額を差し引いてから残額を各納期に振り分ける自治体もあります。すでに支払った後で手続きをした場合には、その後の保険料へ充当されたり還付されたりすることもあります。
実際の納付額の変化については、住んでいる市区町村から送られる保険料決定・変更通知書を確認するのが確実です。
なぜ自治体では「免除」ではなく「減額・軽減」と書かれるのか
厚生労働省は制度について「均等割保険料及び所得割保険料を免除する措置」と説明しています。一方、横浜市などの自治体では「出産被保険者の保険料の減額」「産前産後軽減」と案内しています。
これは実際の国民健康保険料が世帯単位で計算されるためです。出産する本人の対象部分は免除されても、世帯全体で見れば他の加入者の保険料などが残る可能性があります。
そのため利用者の立場では、「本人の4か月分相当の対象項目が免除され、その結果として世帯全体の年間国保保険料が減額される」と理解すると分かりやすいでしょう。
[参照] 横浜市「出産被保険者の保険料の減額(産前産後軽減)」
所得が少ない人だけ一部免除になる制度ではない
「人によって全額免除だったり、減免だけだったりするのか」という疑問もありますが、産前産後制度そのものは、所得の低さによって免除割合を4分の1や半額に変える制度ではありません。
国民年金の産前産後免除は、対象者であれば対象4か月分の国民年金保険料が免除されます。前年所得によって「半分だけ免除」という仕組みではありません。
国民健康保険についても、産前産後制度では対象となる本人の4か月相当分の均等割・所得割を免除します。ただし、それ以外の部分が残るため、結果として請求額が0円にならないケースがあるということです。
通常の国民年金「保険料免除制度」と産前産後免除は別物
国民年金には、収入が少ない場合などに利用できる通常の保険料免除制度もあります。こちらには全額免除だけでなく、4分の3免除、半額免除、4分の1免除があります。
この制度と産前産後免除を混同すると、「出産しても所得によって半額免除になるのでは」と考えてしまいます。
| 制度 | 免除の種類 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 産前産後免除 | 対象期間の保険料を免除 | 国民年金第1号被保険者の出産 |
| 通常の申請免除 | 全額・4分の3・半額・4分の1 | 本人・配偶者・世帯主の所得など |
産前産後免除は、通常の所得審査による免除とは別枠の制度です。
[参照] 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
すでに国民年金が全額免除でも産前産後の届出をするメリットがある
出産前から所得などを理由に国民年金保険料の全額免除や納付猶予を受けている場合、「もともと払っていないから産前産後の手続きをする意味はない」と思うかもしれません。
しかし日本年金機構は、すでに全額免除、納付猶予、学生納付特例などを利用している人でも産前産後免除の届出をするよう案内しています。
理由は、産前産後免除期間については保険料を納付した期間として将来の老齢基礎年金額へ反映されるためです。通常の全額免除などより有利な取り扱いになります。
国民健康保険では所得割がない人にもメリットがある
前年所得が少なく、もともと国民健康保険の所得割が0円という人もいます。その場合でも、出産する本人について均等割が課されていれば、その4か月相当分の軽減を受けられます。
また低所得世帯では均等割について7割・5割・2割などの軽減を受けていることがあります。その場合の具体的な計算方法については、自治体の保険料計算に基づいて処理されます。
そのため「自分は所得が少ないから産前産後軽減は関係ない」と決めつけず、市区町村へ届出の必要性を確認するとよいでしょう。
世帯が保険料上限に達していると請求額が変わらない場合もある
国民健康保険には年間保険料の賦課限度額があります。所得が高い世帯などでは、計算上の保険料が限度額に達している場合があります。
横浜市では、出産する被保険者の産前産後保険料を減額しても、なお世帯の年間保険料額が最高限度額に達する場合には、世帯の実際の保険料額が変わらないことがあると案内しています。
つまり制度上の産前産後軽減が適用されていても、家庭の状況によっては納付額に目に見える変化が出ないケースもあります。
死産・流産・早産も対象になる場合がある
産前産後免除制度における「出産」は、生児を出産した場合だけを意味するものではありません。
国民年金では、妊娠85日、つまり4か月以上の出産が対象とされており、死産、流産、早産も含まれます。
国民健康保険の産前産後軽減についても、妊娠85日以上の分娩が対象とされ、死産、流産、早産、人工妊娠中絶などを含むと自治体が案内しています。
手続きはいつからできる?
国民年金の産前産後免除は、出産予定日の6か月前から届出できます。出産後に手続きすることも可能です。
届出先は、原則として住民登録をしている市区町村の国民年金担当窓口です。マイナポータルを利用した電子申請に対応している手続きもあります。
国民健康保険の産前産後軽減についても、市区町村の国民健康保険担当窓口へ届け出るのが基本です。必要書類やオンライン・郵送対応については自治体によって案内が異なるため、住んでいる市区町村の公式サイトを確認しましょう。
会社員の健康保険・厚生年金ならまた制度が違う
会社員など厚生年金・勤務先の健康保険へ加入している人の場合は、国民年金第1号被保険者や国民健康保険の産前産後制度とは別の仕組みがあります。
産前産後休業を取得している期間について、事業主が所定の申し出をすると健康保険料と厚生年金保険料の本人負担・事業主負担がともに免除されます。
その期間は将来の厚生年金額を計算するうえでも保険料を納めた期間として扱われます。自営業・無職などで国民年金と国民健康保険へ加入している人とは手続き方法が異なるため、自分が現在何の社会保険へ加入しているかを最初に確認することが大切です。
[参照] 日本年金機構「厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)」
まとめ:国民年金は4か月分を免除、国民健康保険は本人の対象部分を4か月相当減額
産前産後の「4か月免除」を理解するときは、国民年金と国民健康保険を分けることがポイントです。
国民年金第1号被保険者の場合、単胎妊娠なら出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月分の国民年金保険料が免除されます。所得に応じて半額だけ免除になる制度ではなく、対象期間の保険料を支払う必要はありません。しかも、その4か月間は保険料を納めたものとして将来の老齢基礎年金額に反映されます。
一方、国民健康保険では、2024年1月から出産する被保険者について産前産後4か月相当分の所得割・均等割を免除する制度が始まっています。自治体では「減額」「軽減」と表現されることもあります。
国民健康保険の場合は世帯全体の保険料が4か月間すべて0円になるわけではありません。夫など他の国保加入者がいればその人の保険料は残りますし、年間保険料を分割して納付するため、対象月の請求だけがそのまま0円になるとも限りません。
したがって、「4か月間まったく保険料を払わなくていいのか」という疑問に対しては、国民年金なら対象4か月分は免除、国民健康保険なら出産する本人の対象となる所得割・均等割について4か月相当分が減額されると整理すると分かりやすいでしょう。
なお双子などの多胎妊娠では、国民年金・国民健康保険とも基本的に6か月相当が対象になります。具体的な国民健康保険料は自治体や世帯状況によって異なるため、届出後に届く保険料変更通知書を確認し、不明な場合は市区町村の国民健康保険窓口へ問い合わせるのが確実です。
[参照] 日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」


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