75歳以上の医療保険料に金融所得が反映されるのはなぜ?75歳未満・国保が対象外の理由と総合課税の是非を解説【2026年版】

社会保険

2026年の医療保険制度改正では、後期高齢者医療制度について、上場株式の配当などの金融所得を確定申告の有無にかかわらず保険料や医療費の窓口負担割合の判定へ反映する仕組みが導入されることになりました。[参照]ここで疑問になるのが、「金融所得の多い人に負担能力に応じた負担を求めるなら、なぜ75歳以上だけなのか」という点です。実は、政府が75歳未満の金融所得を公平性の観点から無関係だと判断したわけではありません。75歳以上は原則として後期高齢者医療制度という共通制度に加入する一方、75歳未満は国民健康保険と会社員向けの健康保険など複数制度に分かれ、そもそもの保険料算定方法が違います。そのため今回の改正では、制度的に導入しやすく、確定申告するかどうかで負担が変わる問題が顕在化している後期高齢者医療制度から先行して見直す形となっています。

2026年の改正は「75歳以上の金融所得に新しい税金をかける制度」ではない

まず整理したいのは、今回の制度改正は金融所得に新たな所得税を課す話ではないということです。対象となるのは、主として後期高齢者医療制度の保険料と医療費の窓口負担割合を決めるための所得判定です。

厚生労働省は、上場株式の配当等の金融所得について、確定申告する場合は市町村が所得を把握できる一方、源泉徴収だけで課税を終了して確定申告しない場合には市町村が所得を把握できず、後期高齢者医療制度の保険料や窓口負担に反映されないという問題を示しています。[参照]

改正後は、金融機関等が提出する法定調書を活用して対象となる金融所得を把握し、確定申告したかどうかに左右されず、後期高齢者医療制度の負担判定へ反映する仕組みになります。なお、厚生労働省はNISAによる非課税所得は対象外と明記しています。

なぜ今まで確定申告する人としない人で差が生じていたのか

上場株式等の配当や譲渡益には、特定口座(源泉徴収あり)などを利用することで、金融機関による源泉徴収だけで課税関係を完結させ、確定申告をしなくてもよい仕組みがあります。

ところが医療保険の保険料などでは、市町村が持っている税情報を利用して所得を判定するため、申告された金融所得は把握できる一方、申告不要制度を利用した金融所得は従来の仕組みでは算定に入らない場合がありました。

例えば厚生労働省の資料では、夫婦とも後期高齢者で、本人に年金230万円と上場株式の配当等50万円、配偶者に基礎年金83万円があるケースを例示しています。同じ50万円の金融所得があるにもかかわらず、申告するかしないかによって窓口負担割合や保険料が異なる例が示されています。[参照]

75歳以上だけなのは「高齢者だけ金融所得を狙い撃ちした」からではない

今回の改正を見ると、「75歳以上だけ金融資産を持っているから対象にした」と受け取られがちですが、制度検討の経緯はもう少し複雑です。

厚生労働省の社会保障審議会では、金融所得を反映できる医療保険として後期高齢者医療制度だけでなく国民健康保険も候補に挙げられていました。どちらも市町村の税情報を利用して保険料を算定しているためです。[参照]

つまり「75歳未満には金融所得を反映させる必要がない」という整理ではありません。国保への適用も論点になったうえで、まず後期高齢者医療制度から導入することになったのです。

75歳以上は加入する医療保険が原則として共通している

75歳という年齢が一つの区切りになる最大の理由は、日本の公的医療保険制度そのものにあります。

原則として75歳になると、それまで会社の健康保険や国民健康保険に入っていた人も後期高齢者医療制度へ移ります。したがって75歳以上については、一つの制度の中で金融所得をどのように保険料・窓口負担へ反映させるかという制度設計ができます。

一方、75歳未満では、自営業者や無職の人などが加入する国民健康保険のほか、会社員が加入する協会けんぽ、健康保険組合、共済組合などが並存しています。厚生労働省も国民健康保険を「他の医療保険制度に加入していない全ての住民」を対象とする制度と説明しています。[参照]

75歳未満では「国保」と「会社員の健康保険」で保険料の考え方が違う

75歳未満へ金融所得を一律に反映しようとすると、難しい問題が出てきます。それが国保と被用者保険の違いです。

市町村国保では、基本的に前年の所得などをもとに所得割を計算します。そのため事業所得、不動産所得、申告した金融所得などが保険料に影響します。

これに対して会社員の健康保険では、基本的に会社から受け取る給与・賞与をもとに保険料を計算します。例えば給与500万円に加えて株式売却益1,000万円がある会社員でも、その株式売却益をそのまま標準報酬月額へ加算して健康保険料を計算する仕組みではありません。

国保だけ金融所得を全面反映すると会社員との不公平が生じる

ここで仮に75歳未満の国民健康保険だけに、申告不要の金融所得まで全面的に反映する制度を導入したとします。

例えば同じ60歳で金融所得が年間1,000万円あるAさんとBさんがいるとします。Aさんが自営業で国保、Bさんが会社員で健康保険組合に加入している場合、国保だけ金融所得を反映すれば、Aさんの保険料には1,000万円の金融所得が影響する一方、Bさんの健康保険料には基本的に影響しない、という差が生まれます。

厚生労働省はまさにこの点を公式の審議会で論点として挙げています。国保は後期高齢者医療制度と同様に市町村の税情報を利用しているものの、賃金をベースに保険料を賦課する被用者保険と年齢層が重なるため、そのバランスをどう考えるかという問題があると説明しています。[参照]

だから「75歳未満を永久に適用除外」と決まったわけではない

この点は今回の制度改正を理解するうえで非常に重要です。2026年改正は、「金融所得を反映するのは75歳以上だけでよく、74歳以下には今後も反映しない」と最終決定した制度ではありません。

社会保障審議会の資料では、対象となる医療保険制度として後期高齢者医療制度と国保の双方が挙げられています。そのうえで国保については、被用者保険とのバランスや自治体システム標準化のスケジュールなどの課題があることから、「まずは後期高齢者医療制度から」検討するという整理が行われました。[参照]

したがって、75歳未満は制度上「金融所得を考慮する必要がない層」と位置付けられたわけではなく、現時点では対象範囲を段階的に設定していると理解する方が正確です。

なぜ金融所得そのものを全部「総合課税」にしないのか

そこで出てくるのが、「そもそも株式の配当や譲渡益などを分離課税するから複雑になる。給与などと全部合算する総合課税にすればよいのではないか」という考え方です。

これは税制論として十分に考えられる一つの立場ですが、医療保険料へ金融所得を反映する問題と、金融所得を総合課税にする問題は別です。今回の後期高齢者医療制度改正がその分かりやすい例で、税制上は申告不要・分離課税の仕組みを維持しながら、法定調書を利用して医療保険上の負担能力判定には金融所得を加えることができます。

つまり「医療保険料に金融所得を反映するためには、分離課税を廃止しなければならない」という関係にはありません。

金融所得を総合課税にするメリットはある

総合課税を支持する立場からは、所得の種類によって税率が大きく違うことへの公平性が重要な論点になります。

給与や事業などの所得には累進税率が適用される一方、上場株式等の譲渡益などは原則として一定税率による申告分離課税です。そのため非常に大きな金融所得を得ている人について、勤労所得中心の人との税負担のバランスをどう考えるべきかという議論があります。

全所得を合算して累進課税するなら、「同じ年間所得なら所得の発生源にかかわらず近い税負担を求める」という垂直的公平を重視しやすくなる点は、総合課税案の大きなメリットです。

一方で金融所得の全面的な総合課税には難しい問題もある

金融所得を総合課税にすればすべて解決するわけでもありません。金融資産は不動産や給与所得と比較して国境を越えて移動しやすく、税率差による資本移動への影響を考える必要があります。

また、株式投資には利益だけでなく損失があります。利益を給与などと合算して累進課税するなら、株式で1,000万円損失が出たときに給与所得からどこまで差し引けるのか、翌年以降へどこまで繰り越せるのかという損益通算の制度もセットで設計しなければ公平になりません。

金融庁の金融税制調査会でも、金融所得は移動性が高く、総合課税化すると申告負担や損益通算などの問題が生じるとの議論が行われています。金融所得については、分離課税を基本としながら金融商品間の損益通算を拡大する「金融所得課税の一体化」という方向も長年検討されています。[参照]

「金融所得課税の一体化」と「総合課税化」は違う

言葉が似ていますが、この2つは同じではありません。

考え方 概要
総合課税 給与・事業・不動産・金融所得などを合算し、累進税率などで課税する考え方
金融所得課税の一体化 金融所得を給与等とは分けつつ、株式・債券など金融商品間の税率や損益通算をできるだけ統一する考え方
医療保険への金融所得反映 税制上の課税方式とは別に、保険料や窓口負担を決める所得として金融所得を考慮する仕組み

政府の税制調査会は以前から、金融所得について分離課税を基本としながら金融商品間の課税方式を均衡させ、損益通算を拡大する方向を議論してきました。[参照]

したがって、医療保険の応能負担を強化する方法は「金融所得をすべて総合課税にする」一択ではありません。

年齢に関係なく金融所得を反映する考え方には合理性もある

負担能力だけを基準に考えれば、「74歳で金融所得2,000万円の人」と「75歳で金融所得2,000万円の人」で医療保険料への扱いが大きく異なることについて疑問が生じるのは自然です。

さらに「給与300万円+金融所得2,000万円」の人と「給与2,300万円」の人が同じ負担能力なのか、健康保険料を給与だけで決めることが適切なのかという、より根本的な論点もあります。

実際、政府の政策文書でも「年齢に関わらず負担能力に応じた負担」を目指す方向性が示され、医療・介護保険の負担へ金融所得を反映する制度設計が課題として挙げられています。[参照]

ただし75歳未満まで広げるなら会社員の健康保険も議論が必要

本当に「年齢に関係なく金融所得に応じて医療保険料を負担する」制度を目指すのであれば、国保だけを変えるのでは不十分です。

例えば40歳の自営業者と40歳の会社員がそれぞれ株式で年間1,000万円の利益を得た場合、自営業者の国保だけに金融所得を反映し、会社員の健康保険には反映しないなら、加入制度によって負担が違うという新たな不公平が生じます。

したがって将来的に75歳未満へ本格的に拡大する場合は、国保だけでなく協会けんぽ・健康保険組合・共済組合などの被用者保険について、給与以外の所得を保険料算定に取り込むのかという大きな制度改正を議論する必要があります。

資産額そのものと金融所得も区別する必要がある

もう一つ注意したいのが、「金融資産」と「金融所得」は別だという点です。

例えば預金を5,000万円持っていても、それ自体が5,000万円の所得になるわけではありません。今回問題となっているのは、基本的には配当や株式等の譲渡によって実現した利益などの金融所得です。

またNISAで生じた非課税所得については、今回の後期高齢者医療制度の金融所得反映では対象外とされています。[参照]「金融資産を多く持つ高齢者の資産残高そのものに保険料を課す制度」と理解すると正確ではありません。

今回の改正の本質は「申告した人だけ負担が増える」問題の是正

2026年改正のポイントを一言で表すなら、「75歳以上の富裕層へ新しい負担を課す」というより、同じ金融所得があるのに確定申告した人としなかった人で医療保険上の負担が変わる状態を是正することです。

厚生労働省は、後期高齢者医療制度について、確定申告の有無にかかわらず金融所得を含めて保険料・窓口負担を判定し、金融機関等から提出される法定調書を利用して所得を把握すると説明しています。個人が医療保険のために新たな申告をする仕組みではありません。[参照]

つまり、税金について合法的に申告不要制度を利用していること自体を問題視する制度ではなく、税制上の申告方法の選択が医療保険の負担額まで左右していたことを問題としているわけです。

まとめ:75歳未満が「公平だから除外」なのではなく、まず後期高齢者医療から始めた制度改正

2026年の金融所得反映が75歳以上を中心とするのは、「75歳未満の高所得投資家には負担を求めなくてよい」と政府が判断したからではありません。75歳以上は原則として後期高齢者医療制度という共通制度に加入しており、金融所得を保険料・窓口負担へ反映する制度を統一的に導入しやすいという事情があります。

一方、75歳未満は国保と被用者保険に分かれています。国保は所得をベースに保険料を計算するのに対し、会社員の健康保険は基本的に給与・賞与をベースにします。そのため国保だけに申告不要の金融所得を反映すると、同じ金融所得を得ている会社員との間に別の不公平が生じます。厚生労働省も、国保について被用者保険とのバランスを正式な検討課題として挙げています。[参照]

したがって「75歳未満も金融所得を反映すべきだ」という考え方には、負担能力に応じた負担という観点から一定の合理性があります。ただし実現するなら、国保だけでなく会社員の健康保険を含めた制度横断的な設計が必要です。

また、そのために株式・配当などの分離課税をすべて廃止して総合課税にする必要があるわけではありません。今回の後期高齢者医療制度のように、税制では分離課税・申告不要制度を維持しながら、法定調書を使って医療保険の負担判定だけに金融所得を反映する方法もあります。

全面的な総合課税には、高所得者の税負担の公平性を高めやすいという利点がある一方、投資への影響、国際的な資本移動、損益通算、申告事務、法人段階との課税調整など多くの論点があります。そのため「医療保険へ金融所得を公平に反映すべきか」と「金融所得をすべて総合課税にすべきか」は分けて議論する必要があります。

2026年の改正はゴールというより、金融所得を医療保険の負担能力へ反映する制度の第一段階と見るのが適切です。今後75歳未満へ広げるのであれば、年齢だけでなく、国保・会社員の健康保険という加入制度の違いを越えて、同程度の負担能力には同程度の負担を求められる仕組みにできるかが大きな論点になります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました