老齢年金の通知を見て、「支給額が思っていたより少ないうえに、所得税や介護保険料まで引かれている」と驚くことがあります。現役時代に長年保険料や税金を払ってきたため、「年金生活になってからもなぜ負担するのか」と疑問を感じるのは自然なところです。
公的年金は、原則として額面がそのまま銀行口座へ振り込まれるわけではありません。条件に該当すると、所得税・復興特別所得税、住民税、介護保険料、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料などが年金から差し引かれることがあります。
ただし、すべての年金受給者から同じ金額が引かれるわけではありません。年齢、年金額、その他の所得、各種所得控除、居住する自治体、加入している医療保険などによって手取り額は変わります。「年金が少ないのに引かれている」と感じたときは、まず何がいくら控除されているのかを分けて確認することが大切です。
公的年金にも所得税がかかる場合がある
老齢基礎年金や老齢厚生年金などは、税法上「公的年金等に係る雑所得」として扱われます。そのため、一定以上の年金を受け取っている場合には所得税の課税対象になります。給与を受け取っていた現役時代とは収入の種類が変わっても、老齢年金が一律非課税になるわけではありません。
一方で、受け取った年金額の全額にそのまま所得税率を掛けるわけではありません。公的年金等控除をはじめ、基礎控除や配偶者・扶養親族等に関する控除など、該当する所得控除を考慮して税額が計算されます。
2026年分について国税庁は、一般的な公的年金等について、その年中に支払を受けるべき金額が65歳未満では155万円、65歳以上では205万円未満の場合、原則として源泉徴収の必要はないと案内しています。ただし年金の種類などによって扱いが異なる場合があります。[参照:国税庁 令和8年版 源泉徴収のあらまし]
介護保険料は65歳以上でも負担する
「高齢者になったのだから介護保険料を払わなくてよいのでは」と考えやすいのですが、介護保険制度では65歳以上の人も第1号被保険者として保険料を負担します。むしろ介護サービスを利用する年代になってからも、制度を支える仕組みになっています。
65歳以上の介護保険料は全国一律ではありません。市区町村ごとに基準額が設定され、本人の所得や世帯の住民税課税状況などに応じた段階によって実際の保険料が決まります。そのため、同じ年金額の人でも住んでいる自治体や所得状況によって負担額が異なることがあります。
一定の条件に該当すると、介護保険料は年金から直接差し引く「特別徴収」という方法で納付します。日本年金機構でも、介護保険料等の特別徴収額が変更されることによって年金の振込額が変わる場合があると案内しています。[参照:日本年金機構]
健康保険関係の保険料が引かれることもある
年金生活になっても医療保険への加入は続きます。75歳未満で国民健康保険に加入している場合には国民健康保険料(税)、原則75歳以上では後期高齢者医療制度の保険料を負担します。
条件を満たす場合には、これらも年金から特別徴収されます。そのため年金振込通知書を見ると、「介護保険料だけでも負担なのに、さらに医療保険まで引かれている」と感じることがあります。
ここで注意したいのは、「年金保険料をもう一度払っている」わけではないという点です。老齢年金から控除される介護保険料や医療保険料は、老後の年金を積み立てるための国民年金保険料とは別の社会保険制度に対する負担です。
額面の年金額と実際の振込額は分けて考える
例えば年金の額面が月15万円相当だからといって、毎月自由に使えるお金も15万円になるとは限りません。年金から税金や社会保険料が特別徴収されれば、実際に口座へ入る金額はそれより少なくなります。
また公的年金は通常、偶数月に前2カ月分がまとめて支払われます。そのため家計を考える際には、1回の振込額だけを見るのではなく、年間の年金支給額と年間の税・社会保険料を確認したほうが実態を把握しやすくなります。
| 年金から差し引かれる可能性があるもの | 概要 |
|---|---|
| 所得税・復興特別所得税 | 課税対象となる公的年金等について条件を満たす場合 |
| 個人住民税 | 前年所得などを基に課税され、条件により年金から特別徴収 |
| 介護保険料 | 65歳以上の第1号被保険者が負担し、条件により特別徴収 |
| 国民健康保険料(税) | 国民健康保険加入者で条件を満たす場合に特別徴収されることがある |
| 後期高齢者医療保険料 | 原則75歳以上の加入者が負担し、条件により特別徴収 |
したがって老後の生活費を考える際には、「年金は年間180万円あるから月15万円使える」という計算ではなく、税金・社会保険料を差し引いた後の手取り額を確認することが重要です。
年金が少ない人には負担軽減の仕組みもある
税金や社会保険料は、年金額に関係なく全員が一律の金額を負担する制度ではありません。所得が低ければ所得税が発生しないケースがありますし、住民税についても所得や自治体の基準などによって非課税となる場合があります。
介護保険料についても所得段階によって負担額が設定されています。国民健康保険や後期高齢者医療制度にも、所得など一定の条件を満たした場合の保険料軽減制度があります。
さらに、所得が一定基準以下の年金受給者には「年金生活者支援給付金」の対象となる可能性があります。これは年金とは別に給付金を支給し、所得の低い年金生活者を支援する制度です。対象になるか分からない場合は、日本年金機構の案内を確認するとよいでしょう。[参照:日本年金機構 年金生活者支援給付金]
「引かれすぎでは?」と思ったら年金振込通知書を確認する
年金の振込額が予想以上に少ない場合は、まず日本年金機構から届く「年金振込通知書」などを確認します。そこには年金支払額だけでなく、介護保険料、所得税額および復興特別所得税額、個人住民税額など、年金から特別徴収される金額が記載されます。
「年金から数万円も引かれている」とひとまとめに考えるのではなく、所得税はいくら、介護保険料はいくら、医療保険料はいくら、と内訳を見るのがポイントです。原因が分かれば、問い合わせる窓口も判断できます。
年金そのものや源泉徴収票については年金事務所等、所得税については税務署、住民税・介護保険料・国民健康保険料については市区町村、後期高齢者医療保険料については自治体や広域連合などが確認先になります。
所得税が引かれていても確定申告で戻る場合がある
年金から所得税が源泉徴収されているからといって、その金額が必ず最終的な税額になるとは限りません。医療費控除など源泉徴収段階では十分に反映されていない控除がある場合、確定申告によって税金が還付されることがあります。
国税庁も、公的年金等から所得税が源泉徴収される仕組みを案内しています。2025年分の税制改正に伴う精算では、一定の人について確定申告により還付を受けられる場合があることも案内されています。[参照:国税庁 公的年金等の源泉徴収事務]
そのため「年金から税金が引かれているから仕方がない」とそのままにせず、源泉徴収票を確認し、利用できる所得控除がないか確認することも大切です。
まとめ:年金から引かれる税金・保険料にはそれぞれ理由がある
老齢年金は、条件によって所得税・復興特別所得税、住民税、介護保険料、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料などが差し引かれます。年金生活になったから税金や社会保険料がすべて免除される制度ではないため、額面の年金額と実際の手取り額には差が生じます。
一方、所得が低い人には税金が非課税になる仕組みや社会保険料の軽減、年金生活者支援給付金などもあります。負担額は全員一律ではありません。
年金の手取りが想像以上に少ない場合には、まず年金振込通知書と公的年金等の源泉徴収票を確認し、「何が・いくら・なぜ引かれているのか」を整理することが第一歩です。そのうえで不明な控除があれば年金事務所、市区町村、税務署など該当する窓口へ確認すると、負担額が正しいか、利用できる軽減制度や還付の可能性がないかを判断しやすくなります。


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