配偶者が亡くなった後は、銀行口座や保険、勤務先、住宅、各種名義変更など多くの手続きが重なります。その中で特に分かりにくいのが「相続税の申告」と、亡くなった人の所得について行う「準確定申告」です。
相続税は、預貯金や不動産などの金額を単純に合計して判断するものではありません。法定相続人の数による基礎控除があり、死亡保険金や死亡退職金にも一定の非課税枠があります。さらに共有不動産では、原則として亡くなった人の持分だけを相続財産として考えます。
例えば夫と子2人の合計3人が法定相続人なら、相続税の基礎控除は4,800万円です。預貯金1,500万円、死亡保険金500万円、死亡退職金1,000万円、共有住宅があるケースでは、提示された金額だけを見る限り基礎控除を下回る可能性が高いものの、不動産の正しい評価や保険料負担者などを確認してから最終判断する必要があります。
相続税と確定申告・準確定申告は別の手続き
まず整理しておきたいのが、「相続税の申告」と「所得税の確定申告」は別物だという点です。相続によって財産を取得したことについて検討するのが相続税です。
一方、亡くなった人に確定申告が必要な所得があった場合、相続人が1月1日から死亡日までの所得と税額を計算して申告する制度が「準確定申告」です。国税庁では、原則として相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納税すると案内しています。[参照:国税庁 納税者が死亡したときの確定申告]
したがって、「遺産が少ないので相続税申告が不要」という結論になっても、それだけで準確定申告まで不要になるわけではありません。亡くなった人の給与、年金、事業、不動産所得、医療費などを別途確認します。
法定相続人が3人なら基礎控除は4,800万円
相続税では、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に原則として申告・納税が必要になります。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。[参照:国税庁 相続税がかかる場合]
配偶者と子2人が法定相続人なら3人ですから、計算は次のようになります。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
つまり、非課税財産や控除できる債務・葬式費用などを反映した正味の遺産額が4,800万円以下なら、原則として相続税はかかりません。特例を使わなくても最初から基礎控除以下なのであれば、通常は相続税申告も不要です。[参照:国税庁 相続税の計算]
死亡保険金500万円には相続税の非課税枠がある
死亡保険金は契約内容によって税金の種類が変わります。亡くなった人が保険料を負担しており、その死亡によって相続人が受け取る生命保険金であれば、相続税上のみなし相続財産となります。
相続人が受け取る場合の非課税限度額は、500万円×法定相続人の数です。法定相続人が3人なら1,500万円となります。[参照:国税庁 相続税の課税対象になる死亡保険金]
したがって、相続人が受け取った対象となる死亡保険金の合計が500万円だけであれば、1,500万円の非課税限度額内に収まります。ただし、保険料を実際に誰が負担していたか、受取人が誰かによって所得税や贈与税になるケースもあるため、保険証券で契約関係を確認する必要があります。
死亡退職金1,000万円にも別枠の非課税限度額がある
死亡によって勤務先などから支給される退職手当金等で、死亡後3年以内に支給が確定したものは、一定の条件で相続税の対象となります。ただし、こちらにも死亡保険金とは別に非課税枠があります。
相続人が受け取った死亡退職金の非課税限度額も500万円×法定相続人の数です。法定相続人3人なら1,500万円となります。[参照:国税庁 相続税の課税対象になる死亡退職金]
死亡退職金が1,000万円で、全額がこの非課税制度の対象となる相続人への死亡退職金であれば、1,500万円以内です。つまり、今回のような条件では死亡保険金500万円と死亡退職金1,000万円を単純に預貯金へ足して「3,000万円の遺産」と考えるのは正確ではありません。
夫婦共有の持ち家は「900万円全部」が妻の相続財産とは限らない
共有名義の住宅で重要なのが所有持分です。例えば土地・建物を夫2分の1、妻2分の1で所有していたなら、原則として妻の持分に対応する部分が相続対象となります。まず登記事項証明書などで土地と建物それぞれの持分を確認します。
さらに「固定資産税の納税通知書に900万円と書いてあるから、不動産の相続税評価額も900万円」とは限りません。家屋は原則として固定資産税評価額を基に評価しますが、土地は路線価方式または倍率方式で評価します。[参照:国税庁 土地家屋の評価]
例えば900万円という数字が土地と建物を含む固定資産税評価額だったとしても、そのまま相続税評価額として使えるとは限りません。土地の所在地、面積、路線価または倍率、所有持分などを確認して計算する必要があります。
住宅ローン600万円はそのまま600万円控除できるとは限らない
相続税では、被相続人が残した一定の債務を遺産総額から控除できます。しかし夫婦共有住宅のローン残高が600万円だからといって、必ず600万円全額を妻の相続財産から差し引けるわけではありません。
誰が債務者だったのか、妻が死亡時点で実際に負担していた債務はいくらだったのか、団体信用生命保険によってどの部分が返済されたのかを確認する必要があります。団信で消滅した債務については、死亡後も相続人が負担する債務として単純に控除する考え方にはなりません。
住宅ローンについては、銀行から死亡日時点の残高や団信による返済状況が分かる資料を取得し、妻に帰属する債務が実際に残っていたかを整理するのが確実です。
提示された財産だけなら相続税申告が不要になる可能性は高い
仮に法定相続人が夫と子2人の3人で、死亡保険金500万円と死亡退職金1,000万円がそれぞれ非課税枠の要件を満たすとします。すると、この2つはいずれも各1,500万円の非課税限度額以内です。
残る主な財産として預貯金1,500万円があります。さらに共有住宅について、仮に相続税評価額が900万円だったとしても妻の持分が2分の1なら、単純化した例では妻の持分相当額は450万円です。この仮定なら1,500万円+450万円=1,950万円程度となり、基礎控除4,800万円にはかなり余裕があります。
そのため、記載されている財産がほぼすべてで、保険・退職金の非課税要件や不動産持分などにも問題がなければ、相続税の基礎控除を超えず、相続税申告が不要となる可能性は高いと考えられます。ただし、これはあくまで提示された情報からの概算です。
見落としやすい相続財産も確認しておく
相続税の要否を判断するときは、預貯金と自宅だけではなく、亡くなった人が所有していた財産を一度一覧にすることが大切です。基礎控除まで十分な余裕があれば細かな財産によって結論が変わらないこともありますが、最初から除外してよいわけではありません。
- 銀行・ゆうちょなどの預貯金
- 株式、投資信託、国債など
- 土地・建物・マンション
- 自動車
- 解約返戻金のある保険契約など
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 勤務先からの未収給与など
- 貸付金などの債権
- 一定期間内の生前贈与や相続時精算課税の対象財産
一方、一定の債務や葬式費用は課税価格の計算上控除できる場合があります。国税庁も、正味の遺産額について遺産総額などから非課税財産、葬式費用、債務を控除して計算する仕組みを示しています。[参照:国税庁 相続税がかかる場合]
相続税が不要でも準確定申告は別に確認する
最後に忘れやすいのが、亡くなった妻本人の所得税です。相続税申告が不要でも、妻に確定申告すべき所得があれば相続人による準確定申告が必要になる場合があります。
例えば勤務先の年末調整だけで税務関係が完結するケースと、事業所得・不動産所得などがあるケースでは扱いが異なります。また多額の医療費を負担していた場合には、準確定申告によって所得税が還付される可能性もあるため、「税金を払う手続き」とだけ考えないほうがよいでしょう。
準確定申告の期限は原則として相続開始を知った日の翌日から4か月、相続税の申告・納税期限は原則として死亡を知った日の翌日から10か月です。相続税が基礎控除以下と思われる場合でも、準確定申告の要否は早めに確認しておくと安心です。
まとめ:法定相続人3人なら基礎控除4,800万円。今回の条件では申告不要の可能性が高いが確認事項がある
夫と子2人が法定相続人となる相続では、相続税の基礎控除は4,800万円です。また相続人が受け取る対象となる死亡保険金には最大1,500万円、死亡退職金にも別枠で最大1,500万円の非課税限度額があります。
預貯金1,500万円、死亡保険金500万円、死亡退職金1,000万円、夫婦共有の持ち家という条件だけを見ると、相続税の課税価格が4,800万円を超えず、相続税申告そのものが不要となる可能性はかなり高いケースです。ただし、持ち家の900万円という数字をそのまま使わず、土地・建物の相続税評価額と妻の所有持分を確認する必要があります。
加えて、死亡保険金の契約関係、死亡退職金の内容、団信適用後に妻の債務が残っていたか、記載されていない金融資産や生前贈与がないかを確認します。そして相続税とは別に、亡くなった妻について準確定申告が必要かも確認しておきましょう。財産一覧を作ったうえで判断に迷う項目だけを税務署の相談窓口で確認すれば、必ずしも最初から税理士へ全面的に依頼しなくても申告要否を整理できるケースがあります。


コメント