住宅を買い替える際、住宅ローンの返済能力と並んで問題になりやすいのが団体信用生命保険(団信)の加入審査です。特に過去に大きな病気があり、現在も定期的な治療・手術や入院が続いている場合、「収入は十分なのに団信へ加入できず、住宅ローンを組めない」という可能性があります。
団信の加入可否は職業や年収だけで決まるものではありません。現在の健康状態、病歴、治療内容、投薬、手術・入院歴などを告知し、引受保険会社が個別に判断します。そのため勤務医など安定した職業で現在問題なく働いていても、それだけで団信への加入が保証されるわけではありません。
特に現在も月1回程度の処置・手術を受けている、直近に救急搬送された、近く入院やステント調整を予定しているといった状況では、一般団信について慎重な審査になることを想定して住宅購入計画を立てることが重要です。
団信の審査と住宅ローンの審査は別に考える
団信は、住宅ローンの債務者が死亡または所定の高度障害状態になった場合などに、保険金によって住宅ローン残高を返済する仕組みです。多くの民間金融機関では住宅ローンを借りる条件として団信への加入を求めています。
住宅ローンそのものの審査では、年収、勤務先、勤続年数、年齢、借入額、既存の借入、物件の担保評価などが確認されます。一方、団信については引受保険会社が健康状態などを審査します。つまり「医師で高収入だから住宅ローン審査は問題なさそう」ということと「団信へ加入できる」ということは別問題です。
三井住友銀行も、健康状態に不安がある場合でも住宅ローンへの申し込み自体は可能としつつ、現在の健康状態や健康診断で指摘された内容などを告知し、団信への加入可否は保険会社が個別に診査すると案内しています。[参照:三井住友銀行]
過去の肺結核だけでなく「現在の治療状況」が重要になる
10年前に肺結核を発症して現在は治癒している場合、「10年前の病気だから問題ない」と考えたくなります。しかし、団信では告知書で質問されている事項について正確に回答する必要があります。
さらに、肺結核そのものが治癒していても、後遺症に対する定期的な気管支鏡による処置、最近の救急搬送、短期入院、気管支ステントの調整などが現在進行形で行われているのであれば、単なる「10年前の既往歴」とは状況が異なります。
どの病気なら加入でき、どの治療なら不加入になるという統一された公開基準があるわけではありません。同じ病名でも現在の症状、治療状況、経過、保険会社によって判断が異なる可能性があるため、第三者が「通る」「通らない」と断定することはできません。
5年前に団信へ入れたことは今回の加入を保証しない
過去に住宅ローンを組んだ際、肺結核の既往歴がある状態で一般団信へ加入できていたとしても、新しい住宅ローンでも同じ結果になるとは限りません。
新たに住宅ローンを契約する場合は、その時点の健康状態について改めて団信の申し込み・告知を行います。前回の住宅購入後に新しい治療や手術、入院などが始まっていれば、今回の審査ではその情報が重要になります。
例えば5年前には「肺結核は治癒しており、その後大きな治療なし」という状態だった人が、その後毎月処置を受けるようになったケースでは、5年前の審査結果を現在へそのまま当てはめることはできません。
一般団信が難しくてもワイド団信という選択肢がある
健康上の理由で一般団信へ加入できない人を対象として、引受基準を広げた「ワイド団信」を扱っている金融機関があります。一般団信で不加入になったからといって、すべての住宅ローンの可能性がなくなるとは限りません。
例えば三菱UFJ銀行は、持病や病歴があっても加入できる場合があるワイド団信を用意しています。ただし加入には保険会社所定の引受審査があり、誰でも加入できるわけではありません。また同商品の場合、住宅ローン金利への上乗せがあります。[参照:三菱UFJ銀行 ワイド団信]
さらに年齢条件にも注意が必要です。ワイド団信は金融機関・商品によって申込可能年齢が異なります。例えば三菱UFJ銀行のワイド団信は借入時年齢が50歳の誕生日までという条件があるため、54歳では利用できません。このように「ワイド団信がある銀行を探せばよい」と単純にはいかず、健康状態と年齢の両方から候補を探す必要があります。
54歳では「完済年齢」と返済期間も大きなポイントになる
54歳で住宅ローンを新規に組む場合、団信だけでなく借入期間も重要です。仮に完済年齢を80歳未満とする商品なら、利用できる期間には上限があります。また65歳で現在の勤務先を定年になる予定なら、定年後も返済が続く設計になる可能性があります。
医師の場合は65歳以降も勤務を続けられる可能性がありますが、「仕事がある可能性」と「現在と同水準の収入が確実に続くこと」は分けて考えたほうが安全です。住宅ローンを組む際には、65歳時点のローン残高がいくらになるかを確認すると資金計画が具体的になります。
例えば頭金を増やして借入額を小さくする、返済期間を短くする、現在の住宅を売却した資金を充当するといった方法があります。50代の住宅購入では「最大でいくら借りられるか」より「退職時にいくら残るか」を重視するほうが家計管理上は重要です。
金融資産が多い場合は住宅ローンだけにこだわらない
世帯で7,000万~8,000万円程度の金融資産がある場合、団信の加入可否だけを住宅購入の前提条件にする必要はありません。購入予定物件の価格や現在の住宅の売却額にもよりますが、頭金を大きくする、借入額を減らす、一部または全部を自己資金で購入するなど選択肢が広がります。
ただし、住宅購入へ金融資産の大部分を投入することにもリスクがあります。子どもの教育費、老後資金、医療費、生活予備資金などを残す必要があるためです。特に継続的な治療が必要な世帯では、手元流動性を過度に減らさないことが重要です。
また将来の相続予定資産は、現在の住宅購入資金とは切り離して考えるのが安全です。不動産が共有名義であれば売却には共有者との調整が必要になる場合がありますし、将来の売却価格や相続額も確定していません。「将来まとまったお金が入るはず」という前提で住宅ローンを組むのは避けたほうがよいでしょう。
団信なしで利用できる住宅ローンも検討対象になる
一般団信やワイド団信が難しい場合には、団信への加入が必須ではない住宅ローンが候補になることがあります。代表例として住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する「フラット35」があります。
ただし団信に加入せず住宅ローンを組む場合、債務者が死亡しても原則としてローンが自動的にゼロになる仕組みがありません。そのため、遺された家族が住宅ローン残高をどのように返済するかまで考えておく必要があります。
多額の金融資産がある世帯なら、「団信なしでも、万一の際に金融資産や住宅売却によってローンを返済できるか」を具体的に計算する方法があります。団信加入の可否だけではなく、住宅価格、借入額、現在の住宅の売却代金、金融資産、配偶者の収入を合わせた総合的な資金計画が必要です。
告知は自己判断で病歴を省略しないことが重要
団信を申し込む際には、告知書で質問されている内容に対して事実を正確に回答することが非常に重要です。「肺結核は治っているから書かなくてもよい」「日帰りなので手術には含まれないだろう」などと自己判断して省略してはいけません。告知対象か判断に迷う場合は、保険会社や金融機関へ確認します。
三菱UFJ銀行も団信について、現在の健康状態や過去の病歴をありのまま告知し、事実と異なる告知をすると告知義務違反となって保険金が支払われない場合があると案内しています。[参照:三菱UFJ銀行 団信の解説]
団信へ加入する目的は「住宅ローンを通すこと」ではなく、万一の際に家族を住宅ローン債務から守ることです。審査を通すために告知を曖昧にすると、最も保障が必要になったときに問題になるおそれがあります。
住宅を売る前に団信の加入可能性を確認する
買い替えを検討している場合、現在の住宅を先に売却したり購入物件を契約したりする前に、住宅ローンと団信について金融機関へ相談することが重要です。特に治療継続中の場合、「物件を決めてから団信が通らないことが分かった」という事態は避けたいところです。
候補となる複数の金融機関について、一般団信の条件、ワイド団信の有無と年齢条件、団信を必須としない住宅ローンの選択肢を比較します。団信の引受保険会社が異なれば審査結果が同一になるとは限りません。
同時に、自己資金を2,000万円、3,000万円など投入した場合、現在のマンションを売却した場合など、複数の借入額で返済計画を作っておくと判断しやすくなります。住宅ローンに詳しい金融機関担当者に加え、必要に応じて独立したファイナンシャルプランナーなどへ相談する方法もあります。
まとめ:治療継続中なら団信不加入の可能性も想定して住宅計画を立てる
過去に肺結核を発症し、現在も後遺症に対して月1回程度の処置を受け、直近に救急搬送や入院・ステント調整がある54歳のケースでは、新しい一般団信へ確実に加入できるとは言えず、不加入となる可能性も想定して住宅購入計画を立てるべき状況です。一方で、具体的な加入可否を病名だけから第三者が断定することもできません。最終的には引受保険会社の個別審査です。
5年前に団信へ加入できた実績があっても、その後に治療状況が変わっていれば今回も同じ結果になる保証はありません。またワイド団信には年齢制限がある商品もあるため、54歳では選択肢を早めに確認することが重要です。
金融資産が十分にある世帯なら、一般団信だけにこだわらず、借入額を減らす、頭金を増やす、団信加入を必須としない住宅ローンを検討するなど複数の方法があります。物件購入を先に進めるのではなく、まず複数の金融機関へ現在の健康状態を正確に伝え、団信・住宅ローン・自己資金の3方向から実現可能な資金計画を確認することが大切です。


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