銀行口座で普段と違う入出金をしたり、大きな金額を動かしたりすると、「銀行から警察へ通報されるのでは」と不安になることがあります。しかし、銀行が少しでも変わった取引を見つければ、その場ですべて警察へ通報するという仕組みではありません。
日本の金融機関には、マネー・ローンダリングや犯罪収益などの疑いがある取引について、犯罪収益移転防止法に基づく「疑わしい取引の届出」という制度があります。一方で、単に高額だった、普段と違ったという一つの事情だけで犯罪と決めつけられるわけではありません。
重要なのは、銀行が顧客の属性、取引状況、保有している情報などを総合的に見て判断するという点です。金融庁も、参考事例に形式的に当てはまる取引がすべて疑わしい取引になるわけではないと明記しています。[参照:金融庁 疑わしい取引の参考事例]
銀行には「疑わしい取引」を届け出る義務がある
銀行などの金融機関は、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づき、一定の場合に「疑わしい取引の届出」を行う義務があります。この制度は、犯罪収益のマネー・ローンダリングやテロ資金供与などを防止するための重要な仕組みです。
金融庁は、金融機関等が犯罪収益に係る取引などの情報を届け出る制度を設けており、届出情報は整理・分析され、犯罪捜査等に資すると判断された情報が捜査機関等へ提供される仕組みを説明しています。[参照:金融庁 疑わしい取引の届出制度]
したがって「銀行には何も報告する仕組みがない」という理解も正しくありません。犯罪収益などの疑いがあると銀行が判断した場合には、法律に基づく届出の対象になり得ます。
少し不審に見えただけで自動的に通報されるわけではない
では、いつもと違う振込をしただけで直ちに届出対象になるのでしょうか。金融庁は疑わしい取引の参考事例について、あくまで金融機関が注意すべき取引の類型を示したものとしています。
そして、参考事例に形式的に該当するものがすべて疑わしい取引になるわけではなく、顧客の属性、取引時の状況、その取引について金融機関が保有する具体的な情報などを総合的に勘案して判断する必要があると説明しています。[参照:金融庁 疑わしい取引の参考事例]
例えば普段10万円程度しか動かさない口座へ突然100万円が入金されたとしても、それだけで犯罪資金とはいえません。自動車の売却代金、退職金、家族間の資金移動など、正当な理由による高額取引はいくらでも存在するからです。
「銀行から警察へ電話する」とは限らない
一般にいう「通報」という言葉から、銀行員が怪しい客を見つけてその場で警察署へ電話する場面を想像するかもしれません。しかし、犯罪収益移転防止法上の疑わしい取引については、所定の届出制度があります。
金融庁が所管する金融機関等については、法律に基づき金融庁長官へ疑わしい取引の届出を行う手続きが示されています。[参照:金融庁 疑わしい取引の届出手続き]
届出情報は最終的に国家公安委員会・警察庁で集約・整理・分析され、必要な情報が都道府県警察や検察庁などの捜査機関へ提供される仕組みがあります。したがって「疑わしい取引の届出」と「銀行員がその場で110番すること」は区別して考えたほうが分かりやすいでしょう。
どのような取引が注意される可能性がある?
金融庁は預金取扱金融機関向けに「疑わしい取引の参考事例」を公表しています。ただし、具体的なパターンだけを見て「この金額以下なら大丈夫」といった考え方をするのは適切ではありません。実際の判断は取引全体を踏まえて行われるためです。
一般的には、取引の目的や顧客の状況と比べて不自然な資金移動、犯罪収益との関連が疑われる取引、本人以外が口座を利用していることが疑われるケースなどが確認の対象になり得ます。
一方で、正当な理由のある高額取引そのものが禁止されているわけではありません。例えば住宅購入、自動車購入、相続、事業上の決済などでは、日常生活よりはるかに大きな金額が動くことがあります。
銀行から取引目的を聞かれることもある
普段の利用状況と大きく異なる取引などについて、銀行から取引目的や資金の出所などを確認される場合があります。確認を受けたこと自体を「犯罪者だと疑われている」「警察へ通報された」と即断する必要はありません。
銀行はマネー・ローンダリング対策のため、顧客情報や取引内容を継続的に確認する必要があります。正当な取引であれば、聞かれた内容について事実をそのまま説明するのが基本です。
例えば「中古車を売った代金です」「親から住宅購入資金として振り込まれました」「事業の売上代金です」など、実際の取引理由を正確に説明します。必要に応じて契約書や請求書など、取引理由を確認できる資料を求められることも考えられます。
銀行口座の利用停止と警察への届出も別の問題
銀行が不審な動きを検知した場合に起こり得ることは、警察への連絡だけではありません。状況によっては取引内容の確認が行われたり、振込など一部サービスが一時的に利用できなくなったりすることがあります。
特に近年は特殊詐欺、フィッシング、不正送金、口座売買などへの対策が重要になっています。そのため、本人にとっては正当な取引でも、不正利用防止の観点から銀行側の確認が入ることがあります。
確認を求められた場合には、銀行からの正式な連絡であることを確認したうえで対応しましょう。銀行を装って暗証番号やインターネットバンキングのパスワード、SMS認証コードなどを聞き出すフィッシング詐欺もあるため、認証情報を安易に伝えないことも重要です。
「いくらまでなら怪しまれない」という基準を探す必要はない
「○万円以下なら届出されない」「何回までなら大丈夫」といった単純な境界線があると考えるのは適切ではありません。金融庁の説明でも、疑わしい取引に該当するかは顧客属性や取引時の状況などを総合的に勘案して判断するとされています。
そのため、正当な取引であれば「通報されない金額」に合わせて不自然に取引を分割する必要はありません。むしろ、本来一つの目的で行う資金移動を不自然に細かく分けるような行動は避け、必要な取引を通常の方法で行うほうが自然です。
高額な資金移動を予定していて心配な場合は、事前に利用している銀行へ「○○の代金として○○万円を振り込む予定ですが、必要な手続きや書類はありますか」と問い合わせる方法もあります。
まとめ:銀行は「少し怪しい=即警察」ではなく総合的に判断する
銀行は、少し普段と違う取引をしただけで機械的にすべて警察へ通報するわけではありません。一方、犯罪収益やマネー・ローンダリングなどが疑われる取引については、犯罪収益移転防止法に基づく「疑わしい取引の届出」という正式な制度があります。
金融庁も、参考事例に当てはまる取引がすべて疑わしい取引になるわけではなく、顧客の属性、取引時の状況、金融機関が保有する具体的な情報などを総合的に勘案して判断するとしています。
正当な理由による取引で銀行から確認を受けた場合には、事実を正確に説明することが基本です。「いくらなら大丈夫か」を気にするより、資金の出所や取引目的を必要に応じて説明できる状態にしておくことが大切です。


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