障害を勤務先に伝えず一般枠で働く、いわゆる「クローズ就労」をしている人にとって、障害者控除を利用すると会社に障害のことが伝わるのではないか、という点は大きな問題です。
障害者控除は、所得税法上の要件を満たす本人などが利用できる所得控除です。勤務先で年末調整を受ける方法だけでなく、自分で確定申告をして適用を受ける方法もあります。
ただし、自分で確定申告すれば会社に絶対知られない、とまでは保証できません。所得税だけでなく翌年度の個人住民税にも影響し、給与所得者では住民税が原則として勤務先で特別徴収されるためです。プライバシーを重視する場合は、年末調整・確定申告・住民税を分けて理解することが重要です。
障害者控除とは?本人が対象なら所得税の控除を受けられる
国税庁によると、納税者本人が所得税法上の障害者に該当する場合、障害者控除を受けることができます。所得税の所得控除額は一般の障害者が27万円、特別障害者が40万円です。[参照:国税庁 障害者控除]
ここでいう27万円や40万円は、その金額がそのまま還付されるという意味ではありません。課税対象となる所得から一定額を差し引き、その結果として所得税などの負担が軽くなる仕組みです。
また、障害者手帳を持っていればどのような場合でも同じ区分になるわけではなく、税法上の「障害者」「特別障害者」の要件があります。まず自分がどの区分に該当するかを確認することが出発点です。
会社の年末調整で障害者控除を申告すると勤務先は把握する
会社員が勤務先の年末調整で障害者控除を利用する場合には、会社へ提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」などを通じて控除に必要な情報を申告します。
国税庁の年末調整の説明でも、勤務先は従業員から提出された扶養控除等申告書を基に、本人や扶養親族などが障害者・特別障害者に該当するか確認する仕組みになっています。[参照:国税庁 年末調整のしかた]
したがって、勤務先の年末調整で本人の障害者控除を申告しながら、その申告事実を会社の年末調整担当者にも知られないようにすることは基本的にできません。クローズ就労で勤務先への申告を避けたい場合には、この点が重要になります。
年末調整では申告せず、自分で確定申告する方法がある
勤務先の年末調整で障害者控除を適用せず、後から本人が税務署へ確定申告して障害者控除を適用する方法があります。この方法なら、障害者控除の申告手続そのものを勤務先の年末調整担当者へ依頼する必要はありません。
例えば会社では通常どおり年末調整を受け、源泉徴収票を受け取った後、自分で確定申告を行い、障害者控除を追加して所得税を再計算するという流れです。納め過ぎた所得税があれば還付につながる場合があります。
国税庁の確定申告の手引でも、本人が障害者である場合の控除額として一般の障害者27万円、特別障害者40万円が示されています。[参照:国税庁 確定申告の手引]
注意点は翌年度の住民税
「会社では申告せず確定申告すれば完全に分からない」と単純に考えられない理由が住民税です。確定申告の内容は個人住民税の計算にも利用され、障害者控除が適用されれば住民税の所得控除にも反映されます。
給与所得者の個人住民税は、原則として勤務先が給与から天引きする「特別徴収」です。市区町村は給与支払報告書や確定申告書などの課税資料から住民税額を計算し、勤務先へ特別徴収する月額を通知します。
例えば横浜市の案内でも、市区町村が給与支払報告書と確定申告書などを基に税額を計算し、事業者へ特別徴収税額を通知する仕組みが説明されています。[参照:横浜市 個人住民税の特別徴収]
会社用の住民税通知と本人用の通知は同じではない
住民税の特別徴収では、勤務先向けの「特別徴収義務者用」と、従業員本人向けの「納税義務者用」があります。この2種類を混同しないことが重要です。
少なくとも現在の制度では、本人向け通知についてプライバシー保護の仕組みが取られています。例えば横浜市では、納税義務者用通知を圧着した状態で送り、勤務先には開封せず従業員へ渡すよう案内しています。電子通知についても本人用データを従業員へ配付する仕組みです。[参照:横浜市 特別徴収税額通知書の秘匿化]
そのため「障害者控除を確定申告すると、障害者という文字がそのまま会社の担当者向け通知に表示される」と一律に説明するのは正確ではありません。ただし会社は特別徴収する住民税額を把握しますし、自治体や通知方法、税額変更時の処理なども関係するため、勤務先に絶対分からないという保証もできません。
「住民税を自分で納付」にすれば解決するとは限らない
確定申告書には住民税について「自分で納付」を選択できる場面がありますが、給与所得だけの会社員が障害者控除を申告するケースでは、この選択によって給与分の住民税を自由に普通徴収へ変更できるとは限りません。
国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、給与・公的年金等に係る所得のみの場合、住民税は原則として特別徴収となり、徴収方法を選択できないと案内しています。「自分で納付」を選択できるのは、基本的に給与・公的年金等以外の所得に対する住民税です。[参照:国税庁 住民税の徴収方法の選択]
つまり、「確定申告で障害者控除を申告し、住民税を自分で納付にチェックすれば会社には絶対知られない」という方法は、給与所得者には通用しない場合があります。この点はネット上で誤解されやすいため注意が必要です。
クローズ就労で障害者控除を使うなら市区町村にも事前確認を
勤務先へ障害に関する情報を伝えたくない場合には、会社の年末調整で障害者控除を申告せず、自分で確定申告する方法が一つの選択肢になります。ただし、そこで手続が終わるわけではなく、翌年度の住民税まで確認することが大切です。
確定申告前に、1月1日時点の住所地を管轄する市区町村の住民税担当部署へ「給与所得者本人が確定申告で障害者控除を追加した場合、勤務先へ送付する特別徴収義務者用の通知には、障害者控除を利用したことが分かる情報が表示されるか」と具体的に問い合わせると確認しやすくなります。
また「本人用通知は秘匿化されているか」「確定申告によって税額が変更された場合、勤務先へどのような変更通知が届くか」まで聞いておくとより確実です。住民税については最終的に居住地の自治体が処理するため、個別の取扱いはその自治体へ確認するのが安全です。
障害者控除を利用することと会社への障害開示は分けて考える
税法上の障害者控除を利用することと、勤務先へ障害を開示して障害者雇用として働くことは別の制度です。税の控除を受けるために、必ず障害者雇用へ切り替えなければならないわけではありません。
一方、障害者控除の申告情報を勤務先へ提出する方法を選べば、給与計算や年末調整を担当する部署がその情報を扱うことになります。そのためクローズ就労を維持したい人にとっては、「控除を受けられるか」だけでなく「どこへ何の情報を提出するのか」まで考える必要があります。
税額や申告資格について不明点があれば税務署や税理士、住民税の通知については住所地の市区町村へ確認するのが確実です。勤務先に知られたくないという事情がある場合は、その点を明確に伝えたうえで相談すると必要な確認事項を整理しやすくなります。
まとめ:確定申告なら会社の年末調整を経由せず障害者控除を申告できるが、住民税まで確認が必要
クローズ就労中でも、税法上の要件を満たしていれば障害者控除を利用できます。所得税では本人が一般の障害者なら27万円、特別障害者なら40万円の所得控除があります。
勤務先の年末調整で本人の障害者控除を申告すれば会社側がその情報を扱うため、会社への申告を避けたい場合は年末調整では適用せず、自分で確定申告する方法が考えられます。ただし確定申告の内容は住民税にも反映され、給与所得者の住民税は原則として勤務先で特別徴収されます。
現在は本人用の住民税通知について秘匿化が進んでいますが、「確定申告すれば100%会社に知られない」「住民税を自分で納付にすれば必ず隠せる」と断定することはできません。プライバシーを最優先する場合には、申告前に住所地の市区町村へ勤務先用通知の記載内容と税額変更時の扱いを確認したうえで手続するのが安全です。


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