老後の年金額が少なく、健康保険料や介護保険料などを考えると生活が成り立たない場合、生活保護を検討すること自体は特別なことではありません。一方で、家や車をすべて売り、預貯金を意図的に使い切れば生活保護を受けられるという単純な制度でもありません。
生活保護は、世帯の収入や資産、年金など利用できる制度、生活状況などを確認したうえで、国が定める最低生活費に収入が届かない場合に不足分を補う制度です。高齢者の場合には、年金を受給しながら生活保護を利用するケースもあります。ここでは、年金生活者と生活保護の関係、持ち家・自動車・預貯金の扱い、財産を使い切ってから申請するという考え方の注意点を整理します。
生活保護は「貯金が30万円以下なら受けられる」という制度ではない
最初に押さえておきたいのは、生活保護には全国一律で「預金残高が30万円以下なら受給できる」といった単純な基準があるわけではないことです。
厚生労働省によると、生活保護は世帯単位で行われ、利用できる資産や能力、年金などの他制度を活用したうえで、世帯収入と国が定める最低生活費を比較して必要性が判断されます。最低生活費は年齢、世帯人数、居住地域、家賃などによって異なるため、「銀行口座を○万円以下にすれば受給できる」と一律には判断できません。
また、申請後には預貯金、保険、不動産などの資産や、年金などの社会保障給付、就労収入などについて調査が行われます。したがって、現在の収入だけではなく、世帯全体の生活状況を含めて判断される制度だと理解しておくことが重要です。[参照:厚生労働省「生活保護制度」]
年金が少なくても生活保護を利用できる場合がある
生活保護と年金は「どちらか一方しか利用できない」という関係ではありません。年金は利用できる社会保障制度として先に活用し、その年金収入などを考慮しても最低生活費に届かない場合には、条件を満たせば不足する部分について生活保護が適用される仕組みです。
例えば説明を単純化して、ある世帯について認定された最低生活費が月12万円、収入として扱われる年金等が月7万円だったとします。他の条件も満たしている場合には、基本的にはその差額を基礎として保護費が計算されるという考え方になります。実際の計算では世帯構成、地域、住宅費、各種加算などが関係するため、単純にこの金額になるわけではありません。
そのため、年金額が非常に少ない高齢者が「年金受給者だから生活保護を申請できない」ということではありません。重要なのは年金の有無そのものではなく、利用できる収入・資産などを活用しても最低限度の生活を維持できるかという点です。
持ち家があるから生活保護を受けられないとは限らない
生活保護では利用可能な資産を生活維持のために活用することが原則です。そのため、生活に利用されていない土地や家屋などについては、売却して生活費に充てることが求められる場合があります。
しかし、自分が現在住んでいる家についてまで必ず売却しなければならないわけではありません。厚生労働省も、持ち家がある人でも生活保護を申請でき、居住用の持ち家については保有が認められる場合があると案内しています。[参照:厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」]
例えば、長年住んでいる住宅で売却価値がそれほど高くなく、そこで暮らし続けることが合理的な場合と、高額な資産価値を持つ不動産を所有している場合では扱いが同じとは限りません。「生活保護を申請するなら、先に自宅を売却する」と自己判断するのではなく、売却前に福祉事務所へ相談した方が安全です。
車は原則として資産になるが例外もある
自動車については、生活保護では原則として処分・活用の対象になります。車には本体の資産価値だけでなく、駐車場代、保険料、車検、税金、燃料費など継続的な維持費が発生するためです。
ただし、車も「生活保護なら絶対に所有できない」と断定するのは正確ではありません。厚生労働省は、障害がある人や公共交通機関の利用が著しく困難な地域に住んでいる人が通勤・通院などに必要とする場合など、一定の条件を満たせば例外的に保有が認められる場合があるとしています。
したがって、生活保護を検討しているからという理由だけで、必要性の高い車を先に処分してしまうのも適切とは限りません。特に地方で公共交通機関が乏しい場合や、通院・就労に車が不可欠な場合には、具体的な事情を福祉事務所へ伝えて確認することが大切です。
家や車を売ってお金を「散財してから申請」はおすすめできない
生活保護を検討するときに注意したいのが、「資産があると受けられないなら、全部売って遊興などで使い切ってから申請すればよい」という発想です。
生活保護制度は、利用できる資産や能力などを最低限度の生活維持のために活用することを前提としています。例えば自宅を1,000万円で売却したのであれば、その売却代金は通常、まず今後の生活を維持するための重要な資金になります。生活保護を受ける目的で、生活維持とは関係のない高額な消費によって短期間で意図的に使い切ることを前提に資産処分を考えるべきではありません。
一方で、資産が減ること自体が問題というわけでもありません。通常の家賃、食費、光熱費、医療費など、生活を続ければ預貯金が減っていくのは自然です。重要なのは「生活のために資産を活用した結果として生活に困窮した」のか、「制度利用を目的として不自然に資産を処分した」のかという違いです。具体的な事情は福祉事務所が確認して判断することになります。
「家を売って賃貸に移る」ことが必ず得とは限らない
老後資金が不足している場合、自宅を売却して賃貸住宅へ移ればまとまった現金を確保できます。しかし、長期的には家賃という固定支出が新たに発生します。そのため、単純に「固定資産税がなくなるから売った方が得」とは限りません。
例えば自宅を売却して500万円が残ったとしても、月6万円の賃貸住宅なら年間家賃だけで72万円です。引っ越し費用、更新料、保証料なども考える必要があります。反対に持ち家なら家賃はありませんが、固定資産税や修繕費が発生します。
つまり老後の住居については、売却価格だけでなく、今後何年間生活する可能性があるか、毎月の年金収入はいくらか、住宅の修繕費はいくらか、売却後の家賃はいくらかまで比較して判断する必要があります。生活保護のためだけに住宅を売却するのではなく、老後の生活設計全体として考える方が合理的です。
年金額は「額面」と「実際に使える金額」を分けて考える
老後生活を考える際には、テレビやインターネットで紹介される年金額だけを見て判断しないことも大切です。公的年金からは、条件によって介護保険料や後期高齢者医療保険料、税金などが特別徴収される場合があり、年金の額面と実際の振込額が一致しないことがあります。
さらに持ち家なら固定資産税や修繕費、賃貸なら家賃が必要です。食費、電気・ガス・水道料金、通信費、医療費などもあります。そのため「年金月○万円」という数字だけでは、その人が実際にどの程度生活できるのかまでは判断できません。
生活保護についても同様で、単純な年金額だけで受給の可否が決まるわけではありません。世帯構成や居住地域などから算定される最低生活費と、年金等の収入を比較することが基本になります。
生活が厳しくなったら資産をゼロにする前に福祉事務所へ相談できる
生活保護については、「お金が完全になくなってからでなければ相談できない」と考える必要はありません。厚生労働省は、生活保護の相談・申請窓口を居住地域を所管する福祉事務所の生活保護担当と案内しています。
また、必要な書類がすべて揃っていない場合でも申請することは可能と案内されています。持ち家についても、保有が認められる可能性があるため、自己判断で先に売却する必要があるとは限りません。
特に高齢者の場合、生活保護以外にも利用できる社会保障制度や減免制度などが関係する可能性があります。「家を売る」「車を処分する」「預貯金を使い切る」といった取り返しのつきにくい行動をする前に、現在の年金額、預貯金、住宅、自動車などの状況を整理して福祉事務所へ相談するのが現実的です。
まとめ:生活保護は「財産を使い切った人への制度」ではなく不足する生活費を保障する制度
生活保護は、単に預貯金残高が一定額以下になった人へ一律に支給される制度ではありません。利用できる資産、年金などの収入、就労能力などを活用したうえでも、国が定める最低生活費に届かない場合に必要な保護を行う仕組みです。
持ち家は必ず売却しなければならないとは限らず、自動車についても一定の事情があれば例外的に保有できる場合があります。また、年金収入があっても、それだけでは最低生活費を満たせない場合には生活保護の対象になり得ます。
生活保護を受けるために財産を意図的に散財する必要はありません。老後の生活が経済的に厳しくなっているのであれば、大きな資産処分を行う前に、居住地を管轄する福祉事務所へ現在の状況をそのまま伝えて相談することが重要です。制度の適用は個々の世帯状況によって異なるため、最終的な受給可否や資産の取扱いについては福祉事務所の判断を確認してください。


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