銀行から現金を引き出せば相続税は減る?通帳残高ではなく「死亡時の財産」で決まる相続税の仕組み

税金、年金

相続税について「亡くなったときの通帳残高で税金が決まるなら、銀行に大金を置かず現金で持っていた方がよいのでは」と考えることがあります。しかし、相続税は銀行口座の残高だけを見て計算する税金ではありません。

相続税の対象になるのは、原則として亡くなった人が相続開始時に所有していた財産です。国税庁は、土地、建物、有価証券、預貯金だけでなく、現金、貴金属、宝石、書画骨とうなど金銭に見積もることができる財産も相続税の対象になると説明しています。[参照:国税庁「相続税の申告のしかた」]

したがって、銀行預金を生前に引き出して自宅の金庫やタンスに保管しても、本人の財産である限り、預金が現金へ姿を変えただけで相続財産そのものは基本的に減りません。

相続税は「通帳の額」だけで決まるわけではない

相続税は、亡くなった人の銀行口座にいくら残っていたかだけで決まるわけではありません。相続や遺贈によって取得する財産などを合計し、債務や葬式費用、非課税財産などを考慮して課税価格を計算します。

例えば、死亡時の普通預金が2,000万円しかなくても、自宅不動産が3,000万円相当、株式が2,000万円、現金が500万円あるなら、預金2,000万円だけを見て相続税を判断することはできません。

反対に銀行預金が5,000万円あったとしても、相続税には基礎控除や各種特例・税額軽減などがあるため、「預金5,000万円だから必ず○○万円の相続税」という単純な計算にもなりません。

銀行から1,000万円を引き出しても財産は1,000万円減らない

分かりやすい例として、銀行口座に3,000万円を持っている人が、そのうち1,000万円を引き出したとします。

引き出した1,000万円を自宅の金庫に保管していれば、財産の内訳は「預金3,000万円」から「預金2,000万円+現金1,000万円」に変わっただけです。合計3,000万円という経済的な財産額は変化していません。

状態 預金 手元現金 合計
引き出す前 3,000万円 0円 3,000万円
1,000万円引き出した後 2,000万円 1,000万円 3,000万円

国税庁も相続税の対象財産として預貯金と現金の両方を明示しています。つまり「口座から出せば相続財産ではなくなる」という仕組みではありません。[参照:国税庁]

相続税には基礎控除がある

相続財産があるからといって、すべての相続で相続税が発生するわけではありません。相続税には「遺産に係る基礎控除額」があります。

基礎控除額は次の式で計算します。

3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば法定相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円です。国税庁は、課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば、原則として相続税は課税されないと説明しています。[参照:国税庁「相続税法」教材]

法定相続人 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

実際には債務、葬式費用、生命保険金の非課税枠、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例なども関係するため、財産総額だけで最終的な納税額を判断することはできません。

現金で持っていても相続財産として申告する必要がある

銀行に預けず自宅で保管している現金は、一般に「手元現金」「現金」「タンス預金」などと呼ばれます。名称が何であっても、亡くなった人が所有していた現金なら相続財産として扱われます。

例えば死亡時に銀行預金が1,000万円、自宅の金庫に現金2,000万円があった場合、「通帳には1,000万円しかないから相続財産は1,000万円」ということにはなりません。現金2,000万円も含めて考える必要があります。

銀行から引き出した現金を申告しなければよい、というものでもありません。意図的な財産隠しにつながる行為は避けるべきであり、相続税申告では実際の財産関係を正確に整理することが基本です。

大きな出金があると「そのお金はどこへ行ったのか」が重要になる

相続開始時の銀行残高だけを見れば、死亡前に大金を引き出すほど残高は少なくなります。しかし、重要なのは引き出した後のお金の行方です。

例えば死亡する1年前に口座から1,000万円を引き出していたとしても、その1,000万円が死亡時まで自宅に残っていたなら本人の現金です。一方、生活費や医療費などとして実際に使われて残っていないのであれば、死亡時の現金としては存在しません。

つまり「出金したかどうか」ではなく、「そのお金が何に使われ、死亡時に誰の財産として残っていたか」がポイントになります。

生活費や医療費として本当に使えば財産は減る

預金を引き出すだけでは財産は減りませんが、本人が生活のために実際に消費すれば財産額は減ります。

例えば預金3,000万円から100万円を引き出し、入院費、介護費、生活費などとして100万円を実際に支払えば、その100万円は原則として死亡時には残っていません。これは「預金を現金化した」のではなく「財産を消費した」ためです。

もちろん、相続税を減らすためだけに架空の支出を作ることはできません。高額な現金支出については領収書や契約書などを保管し、何に使ったか後から説明できるようにしておくことが実務上大切です。

家族名義の口座へ移せば相続財産から外れるとは限らない

では、自分の口座から現金を引き出して、子どもや配偶者名義の口座へ移しておけばよいのでしょうか。これも単純ではありません。

国税庁は、名義にかかわらず、被相続人が取得のための資金を負担していたことなどから被相続人の財産と認められるものは相続税の対象になると説明しています。家族名義の預金でも、実質的には亡くなった本人の財産である場合、いわゆる名義預金として相続財産に含まれることがあります。[参照:国税庁「家族名義の財産は?」]

例えば父が1,000万円を子名義の口座へ入れたものの、通帳やキャッシュカードを父自身が管理し、子は口座の存在すら知らなかったというケースでは、単純に「子名義だから子の財産」と判断できません。

本当に子へ渡すなら「贈与」という別の問題になる

本人が生前に自分の財産を子へ本当に譲り、子がその財産を自由に管理・使用できる状態になれば、生前贈与として扱われる可能性があります。しかし、今度は贈与税や相続税との関係を考える必要があります。

「現金で渡せば分からない」「口座から出して手渡せば税金がかからない」という考え方は危険です。現金であっても贈与であることに変わりはありません。

さらに、暦年課税による生前贈与には相続開始前の贈与を相続税の課税価格へ加算する制度があります。2024年1月1日以後の贈与から加算対象期間は段階的に従来の3年から7年へ延長されています。[参照:国税庁「相続開始前7年以内に贈与があった場合」]

「年間110万円までなら何をしても相続税と無関係」でもない

贈与税の暦年課税には年110万円の基礎控除がありますが、「毎年110万円以内なら必ず相続税から完全に切り離せる」と理解するのも正確ではありません。

相続や遺贈で財産を取得する人が被相続人から一定期間内に暦年課税による贈与を受けていた場合、その贈与財産の一部または全部が相続税の課税価格へ加算されることがあります。制度改正により、この加算対象期間は段階的に7年へ延長されています。

生前贈与を相続対策として検討する場合は、単純な「110万円」という数字だけではなく、誰に贈与するのか、いつ贈与するのか、暦年課税と相続時精算課税のどちらを使うのかなどを含めて考える必要があります。

現金を自宅に置くことには相続税以外のデメリットもある

相続税対策にならないだけでなく、大金を現金で自宅保管することには実務上の問題があります。

  • 盗難に遭う可能性がある
  • 火災・水害などで失う可能性がある
  • 本人が認知症などになった際に保管場所が分からなくなる
  • 相続人が存在を知らず遺産分割から漏れる可能性がある
  • 死亡後に現金の所有者や金額をめぐって相続人同士で争いになる可能性がある
  • 大きな出金の使途を後から説明しにくくなる

銀行預金であれば入出金の記録が残りますが、現金は一度引き出すと、その後どこへ移動したのか客観的な記録が乏しくなります。

相続税を減らす目的だけで大金を銀行から引き出して自宅保管することには、通常メリットがありません。

銀行に預けておくこと自体が相続税を増やすわけではない

「銀行に1,000万円あると税務署に分かるが、現金なら相続税がかからない」という仕組みではありません。預金と現金はいずれも本人が所有する財産です。

銀行口座に置くか自宅の金庫へ置くかは、財産の保管方法の違いです。相続税を考えるうえでは、財産の所有者と死亡時の財産価値が重要になります。

したがって緊急時の生活費、入院費、介護費などに備えて銀行に十分な資金を置いておくことを、相続税だけを理由に避ける必要はありません。

相続税対策は「口座残高を減らす」ことではなく制度全体で考える

財産が基礎控除を大きく超えそうな場合は、現金を引き出すという方法ではなく、相続税制度に沿って対策を検討することになります。

例えば生命保険金には、相続人が取得する一定の場合に500万円×法定相続人の数の非課税限度額があります。また一定の宅地については小規模宅地等の特例が適用できる場合があります。配偶者が財産を取得する場合には配偶者の税額軽減もあります。[参照:国税庁「財産を相続したとき」]

どの制度を利用できるかは家族構成、財産内容、誰がどの財産を相続するかによって大きく変わります。多額の財産がある場合は、税理士などの専門家へ早めに相談した方が安全です。

相続税がかかるかは国税庁の判定ツールでも概算できる

「そもそも自分の家庭では相続税が発生しそうなのか」を確認したい場合、国税庁には「相続税の申告要否判定コーナー」があります。

土地、建物、現金、預貯金、有価証券などの財産を入力することで、相続税申告が必要になりそうかを概算できます。[参照:国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」]

ただし、これはあくまで申告要否のおおよその判定を行うためのものです。複雑な不動産評価、名義預金、生前贈与などがある場合には専門家への確認が適しています。

まとめ|相続税対策として銀行から大金を引き出しても基本的に意味はない

相続税は「死亡日の通帳残高だけ」で決まる税金ではありません。国税庁が説明しているとおり、相続開始時に所有していた土地、建物、有価証券、預貯金、現金など、金銭的価値のある財産を広く対象として計算します。[参照:国税庁]

銀行から1,000万円を引き出して自宅に置けば、「預金1,000万円」が「現金1,000万円」に変わるだけで、本人の財産が1,000万円減ったことにはなりません。そのため、相続税を減らす目的だけで銀行に大金を置かないようにする必要はありません。

実際に生活費、医療費、介護費などへ支出して財産がなくなれば死亡時の財産額は減りますが、単なる現金化とは意味が異なります。また家族の口座へ移した場合も、実質的に本人が管理していれば名義預金として相続財産になる可能性があり、本当に贈与すれば贈与税や相続開始前贈与の加算という別の問題が生じます。

相続税には3,000万円+600万円×法定相続人の数という基礎控除があり、生命保険金の非課税枠や配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例などもあります。相続税が心配な場合に見るべきなのは「通帳の数字をどう小さくするか」ではなく、現金・預金・株式・不動産などを含めた財産全体と利用可能な制度です。

そして相続時のトラブル防止という観点では、大量の現金を自宅に隠しておくより、財産の所在と入出金の記録が分かる状態にしておく方が管理しやすい場合があります。相続税対策と財産の保管方法は分けて考えることが大切です。

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