夫が亡くなり、子のいる妻が遺族年金を受け取っている場合、「子が分籍して親の戸籍から抜けたら、遺族厚生年金の金額も変わるのでは」と心配になることがあります。結論として、子が単に分籍して別の戸籍を作っただけで、妻の遺族厚生年金そのものの金額が減るのが原則ではありません。分籍は戸籍を分ける手続きであり、親子関係を解消する手続きではないからです。横浜市も、分籍をしても親子関係などの身分関係には変更がないと明記しています。[参照]ただし、遺族年金には「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」があり、子の年齢や婚姻、生計関係などによって遺族基礎年金や加算額が変わる場合があります。分籍そのものと、年金上の「子の要件を満たさなくなること」は分けて考えることが重要です。
- まず遺族厚生年金と遺族基礎年金は別の年金
- 妻の遺族厚生年金の基本額は子の人数で決まるわけではない
- 分籍とは「戸籍を分けること」で親子関係をなくす手続きではない
- 分籍と住所変更・世帯分離も別の手続き
- 子がいることで金額が変わりやすいのは「遺族基礎年金」
- 分籍だけなら遺族基礎年金の「子」から外れるわけでもない
- 年金額が変わるのは「分籍」ではなく子が年金上の要件から外れたとき
- 子が母と生計を同じくしなくなる場合は注意
- 子が18歳年度末に達すると遺族基礎年金は原則終了する
- 子が対象年齢を外れても妻の遺族厚生年金まで必ずなくなるわけではない
- 子が対象外になった後は中高齢寡婦加算が付く場合がある
- 具体例:18歳の子が分籍した場合
- 分籍・世帯分離・養子縁組は同じではない
- すでに遺族年金を受給中なら年金事務所に確認すると確実
- まとめ:子の分籍だけで妻の遺族厚生年金が減るのが原則ではない
まず遺族厚生年金と遺族基礎年金は別の年金
夫が厚生年金に加入していた場合、一定の要件を満たす遺族には遺族厚生年金が支給されます。また、一定年齢までの子がいる配偶者は、条件を満たせば遺族基礎年金もあわせて受給できます。
日本年金機構によると、遺族厚生年金を受けられる遺族には「子のある配偶者」「子」「子のない配偶者」などがあり、亡くなった人に生計を維持されていた遺族のうち優先順位の高い人が受給します。[参照]
一方、遺族基礎年金を受け取れるのは、原則として亡くなった人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。[参照]
妻の遺族厚生年金の基本額は子の人数で決まるわけではない
2026年時点の遺族厚生年金の基本的な年金額は、亡くなった夫の老齢厚生年金における報酬比例部分をもとに計算され、原則としてその4分の3です。[参照]
そのため、子が1人いるから遺族厚生年金が○万円増える、子が戸籍から抜けたからその分だけ○万円減る、という計算方式ではありません。
例えば夫の報酬比例部分をもとに計算した遺族厚生年金が年90万円だったとします。子が親の戸籍に残っているか、成年になって分籍して単独戸籍を作ったかという事情だけで、この90万円が直ちに減額される仕組みではありません。
分籍とは「戸籍を分けること」で親子関係をなくす手続きではない
分籍とは、現在の戸籍から分かれて自分だけの新しい戸籍を作る手続きです。戸籍の筆頭者やその配偶者以外の成年者が行うことができます。
横浜市は、分籍届について「分籍届をしても、親子関係等の身分関係には変更がありません」と明確に説明しています。[参照]新宿区も、分籍しても親兄弟等との親族関係に変更はないと案内しています。[参照]
つまり、父母と子が別々の戸籍になっても法律上の親子であることに変わりはありません。「戸籍が別になった=年金上も他人になる」ということではないのです。
分籍と住所変更・世帯分離も別の手続き
分籍は本籍・戸籍に関する手続きであり、住民票上の住所や世帯を変更する手続きではありません。
例えば成年の子が実家に住んだまま分籍して自分だけの戸籍を作ることも制度上可能です。逆に、親と別居して別世帯になっていても、親の戸籍に残っていることがあります。
したがって遺族年金を考える際にも、「戸籍が一緒か別か」だけではなく、子の年齢、婚姻状況、生計関係などを確認する必要があります。
子がいることで金額が変わりやすいのは「遺族基礎年金」
遺族厚生年金とは異なり、遺族基礎年金は子の人数が年金額へ直接影響します。
2026年度の遺族基礎年金は、昭和31年4月2日以後生まれの「子のある配偶者」が受け取る場合、年額847,300円に子の加算額を加えます。子の加算額は、1人目・2人目がそれぞれ年243,800円、3人目以降が1人につき年81,300円です。[参照]
例えば対象となる子が1人なら、847,300円+243,800円=年1,091,100円が2026年度の基本的な遺族基礎年金額となります。子が2人なら、さらに243,800円が加算されます。
分籍だけなら遺族基礎年金の「子」から外れるわけでもない
遺族基礎年金でいう「子」には年齢などの要件があります。原則として18歳になった年度の3月31日までにある子、または20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級に該当する障害状態にある子です。[参照]
ここでも「母と同じ戸籍に入っていること」という要件はありません。そのため、年齢などの条件を満たしている子が分籍したという事実だけで、当然に遺族基礎年金の対象外になるわけではありません。
ただし分籍できるのは原則として成年者です。現在は18歳から成年なので、18歳になった後からその年度の3月31日までの間であれば、「分籍できる年齢」と「遺族基礎年金の子に該当する期間」が一時的に重なるケースもあります。
年金額が変わるのは「分籍」ではなく子が年金上の要件から外れたとき
子に関係して遺族年金の額が変わる代表的なケースは、単なる分籍ではなく、年金制度上の子の要件を満たさなくなった場合です。
日本年金機構では、年金額の加算対象となっている子が死亡した、結婚した、生計を維持されなくなった、養子縁組をした、一定年齢に達したなどの場合に年金額が変更されることがあると案内しています。[参照]
つまり確認すべきなのは「戸籍を分けたか」ではなく、「その子が引き続き遺族年金制度上の子として扱われる条件を満たしているか」です。
子が母と生計を同じくしなくなる場合は注意
分籍しただけなら通常は問題になりませんが、同時に独立して母とは完全に別生計になった場合などは、遺族基礎年金について確認が必要になることがあります。
日本年金機構は、妻が遺族基礎年金を受けている場合、その受給権の対象となるすべての子が妻と生計を同じくしなくなったときなどには、妻の遺族基礎年金の受給権がなくなる場合があるとしています。[参照]
そのため、分籍と同時に別居・就職・経済的独立など大きな生活状況の変化がある場合は、「分籍したから」ではなく、その生計関係の変化が年金に影響しないかを年金事務所へ確認すると確実です。
子が18歳年度末に達すると遺族基礎年金は原則終了する
実務上、分籍よりはるかに年金額へ影響しやすいのが子の年齢です。
通常の子の場合、18歳になった年度の3月31日を過ぎると遺族基礎年金の対象となる「子」ではなくなります。例えば2008年6月生まれの子なら、2027年3月31日までが原則として対象期間となり、4月以降はその子を理由とした遺族基礎年金は終了します。
障害年金の障害等級1級または2級に該当する障害状態の子については、20歳未満まで対象になる場合があります。[参照]
子が対象年齢を外れても妻の遺族厚生年金まで必ずなくなるわけではない
ここは特に誤解されやすいところです。子が18歳年度末に達して遺族基礎年金が終わったとしても、妻が受け取っている遺族厚生年金も同時にゼロになるとは限りません。
妻自身に遺族厚生年金の受給権があれば、その遺族厚生年金は引き続き支給される場合があります。日本年金機構では、子のある妻が遺族厚生年金を受けている間、子自身には遺族厚生年金を支給しない仕組みになっています。[参照]
したがって、「子が対象から外れる=妻の遺族厚生年金そのものも終了」と考えるのは適切ではありません。
子が対象外になった後は中高齢寡婦加算が付く場合がある
妻が40歳以上65歳未満で一定の条件を満たす場合には、遺族厚生年金に「中高齢寡婦加算」が付くことがあります。
2026年度の中高齢寡婦加算は年635,500円です。日本年金機構では、夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で一定の子がいない妻のほか、遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた妻が、子の年齢到達などによって遺族基礎年金を受けられなくなった場合にも、条件を満たせば中高齢寡婦加算の対象になると案内しています。[参照]
つまり子が18歳年度末に到達すると、単純に「子の分だけ減って終わり」とは限りません。妻の年齢などによっては、遺族基礎年金が終了する一方で中高齢寡婦加算が始まる場合があります。
具体例:18歳の子が分籍した場合
例えば夫が死亡し、50歳の妻と18歳の子がいる家庭を考えます。子はその年度の3月31日までは遺族基礎年金上の「子」に該当しており、妻が遺族厚生年金と遺族基礎年金を受給しているとします。
この子が18歳になった後、自分だけの戸籍を作るために分籍したとしても、分籍した日だけを理由として妻の遺族厚生年金が減額されるわけではありません。親子関係もそのままです。
ただし、その年度の3月31日を経過すれば、通常は年齢要件によって遺族基礎年金の対象となる子から外れます。その結果、妻の遺族基礎年金は終了する可能性があります。一方、妻の遺族厚生年金は引き続き支給され、条件を満たせば中高齢寡婦加算が付くことがあります。
分籍・世帯分離・養子縁組は同じではない
年金への影響を考える際は、似た言葉を混同しないことも重要です。
| 手続き・出来事 | 主な意味 | 遺族年金への影響 |
|---|---|---|
| 分籍 | 親の戸籍から分かれて新しい戸籍を作る | それだけでは原則として親子関係や遺族厚生年金額は変わらない |
| 世帯分離 | 住民票上の世帯を別にする | 戸籍とは別制度。実際の生計関係によっては確認が必要 |
| 別居 | 住所・生活場所が別になる | 別居だけで直ちに親子関係は消えないが、生計関係が問題になる場合がある |
| 婚姻 | 子が結婚する | 遺族年金上の子の資格に影響することがある |
| 養子縁組 | 別の者との法的親子関係が生じる | 相手や関係によって遺族年金の資格に影響することがある |
特に「分籍」と「養子縁組」は全く異なります。分籍は親との親子関係を切る手続きではありません。
すでに遺族年金を受給中なら年金事務所に確認すると確実
遺族年金は、夫が亡くなった時期、妻の年齢、子の年齢・障害状態、夫の厚生年金加入期間、妻自身の老齢厚生年金の有無などによって実際の支給額が異なります。
特に、子の分籍と同時に別居、婚姻、養子縁組、経済的独立などがある場合は、単純な分籍だけのケースとは異なる可能性があります。
すでに年金証書を持っている場合は、基礎年金番号と現在の年金額が分かる書類を用意し、年金事務所や街角の年金相談センターで「子が分籍するが、生活状況はこう変わる」と具体的に説明すると、自分のケースについて確認できます。
まとめ:子の分籍だけで妻の遺族厚生年金が減るのが原則ではない
子が分籍して親とは別の戸籍になったという事実だけで、妻が受け取っている遺族厚生年金の基本額が減額されるのが原則ではありません。分籍はあくまで戸籍を分ける制度で、分籍後も親子関係は変わりません。[参照]
妻の遺族厚生年金の基本額は、原則として亡くなった夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3を基礎として計算され、子が同じ戸籍にいるかどうかで計算するものではありません。[参照]
一方で、子がいることで支給される遺族基礎年金と子の加算額については、子の年齢、婚姻、生計関係などによって金額が変わります。通常は18歳になった年度の3月31日を過ぎると対象から外れ、障害等級1級・2級の状態にある場合は20歳未満まで対象になる場合があります。[参照]
つまり、年金額を考える際のポイントは「分籍したかどうか」ではなく、「子が遺族年金上の要件を引き続き満たしているか」です。分籍だけで生活状況や親子関係に変化がなければ、それだけを理由に妻の遺族厚生年金が減ると考える必要はありません。
なお、子が年齢要件から外れて遺族基礎年金が終了した場合でも、妻自身の遺族厚生年金は引き続き受け取れる場合があり、妻が40歳以上65歳未満など一定条件を満たせば中高齢寡婦加算の対象になることもあります。実際の受給額は個々の年金記録によって異なるため、分籍と同時に別居・婚姻・養子縁組なども予定している場合は、年金事務所で個別に確認すると確実です。


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