暴力団員、いわゆる「ヤクザ」と呼ばれる人について、「税金は払っているのか」「健康保険は国民健康保険なのか」と疑問に思うことがあります。結論からいうと、暴力団員だから税金が免除される制度はなく、所得があれば一般の人と同じように課税の対象になります。健康保険についても暴力団員専用の制度があるわけではなく、会社などの健康保険に加入していなければ、一定の適用除外に該当しない限り市区町村の国民健康保険の被保険者となるのが原則です。ただし、「実際に正しく所得を申告して納税しているか」という事実上の問題と、「法律上、納税義務があるか」は分けて考える必要があります。
- ヤクザだから税金を払わなくてよいという制度はない
- 「税金を払う義務」と「実際に申告しているか」は別問題
- 違法な活動から得たお金なら税金はかからない?
- 暴力団と脱税は同じ犯罪ではない
- 所得税以外にも住民税などがある
- 健康保険は全員が国保というわけではない
- 国民健康保険法に「暴力団員だから加入不可」という一般的な除外規定はない
- 自営業のような働き方なら国民健康保険になるケースが多い
- 国保に入っていても保険料を払う必要がある
- 犯罪行為でけがをした場合は健康保険給付が制限されることがある
- 第三者から暴行を受けた場合まで保険が使えないわけではない
- 反社会的勢力への契約制限と公的健康保険は別の話
- 暴力団の「組織」が健康保険に入るわけではない
- 税務当局が犯罪収益対策と無関係なわけではない
- まとめ:暴力団員にも通常の税・公的医療保険制度が適用される
ヤクザだから税金を払わなくてよいという制度はない
日本の所得税は、その人の職業名や社会的な立場だけで課税・非課税が決まるものではありません。国税庁は、所得税について個人が得た所得を原則として課税対象とし、所得を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類に分類しています。[参照]
したがって、暴力団員であるという身分そのものを理由に所得税が免除されるわけではありません。飲食店、不動産賃貸、建設関係など合法的な事業から所得を得ているのであれば、通常の事業者と同様に所得の種類に応じて税金を計算することになります。
重要なのは「ヤクザだから課税されない」のではなく、その人に課税対象となる所得があるかどうかです。
「税金を払う義務」と「実際に申告しているか」は別問題
ここで区別したいのが、法律上の納税義務と実際の申告状況です。税法上は所得があれば所定の方法で申告・納税する必要がありますが、すべての人が正確に申告しているとは限りません。これは暴力団員に限った話ではありません。
例えば年間500万円の事業所得がある人なら、その所得を基礎に必要な所得控除などを適用して所得税を計算します。申告すべき所得を意図的に隠した場合には、後から本来の税額だけでなく、加算税や延滞税などが問題になることがあります。
そのため「ヤクザは税金を払っていますか」という問いについては、個々人の納税状況までは一括して答えられませんが、少なくとも「暴力団員だから納税義務がない」という法律上の扱いではありません。
違法な活動から得たお金なら税金はかからない?
「違法行為で得たお金なら税務署に申告するはずがないので、税金もかからないのでは」と考える人もいますが、税法上の考え方はそれほど単純ではありません。
国税庁は、所得税について「個人が得たすべての所得に対して課税されることを原則」と説明しています。法律上明確に非課税とされる所得を除き、経済的利益を得て所得が成立すれば課税関係が問題になります。[参照]
また国税庁は、収入金額には現金だけでなく、物や権利などの経済的利益も含まれると説明しています。[参照]ただし、犯罪収益については没収・追徴、被害者への返還なども関係し、最終的な所得計算が複雑になる場合があります。個別事件について「犯罪で得た金額=そのまま課税所得」と単純に断定することはできません。
暴力団と脱税は同じ犯罪ではない
暴力団への所属や活動に関する法律上の問題と、所得を申告しないことによる税法上の問題は別です。暴力団員であっても正しく申告している所得について納税していれば、その点について直ちに脱税ということにはなりません。
反対に、暴力団員ではない一般の事業者でも、売上を隠したり架空経費を計上したりして所得を不正に少なく申告すれば税務上の問題になります。
つまり、「暴力団=無税」「暴力団員=全員脱税している」といった理解は正確ではありません。個人や法人ごとの所得、申告内容、実際の納税状況によって判断されます。
所得税以外にも住民税などがある
所得がある場合に関係する税金は所得税だけではありません。住所地の自治体から住民税が課税される場合がありますし、不動産を所有すれば固定資産税、自動車を保有すれば自動車関係の税金など、それぞれの要件に応じた税負担が生じます。
例えば暴力団員が本人名義で住宅を所有しているとしても、その属性だけを理由に固定資産税がなくなるわけではありません。課税対象となる資産を所有していれば通常の課税制度が適用されます。
この点でも、税制は「職業がヤクザだから」という基準だけで免除される仕組みにはなっていません。
健康保険は全員が国保というわけではない
次に健康保険ですが、「ヤクザなら全員国民健康保険」という決まりもありません。どの公的医療保険に入るかは、基本的には就業状況や年齢などによって決まります。
例えば健康保険の適用事業所で被保険者となる条件を満たして働いている人であれば、勤務先の健康保険に加入する可能性があります。75歳以上など一定の人であれば後期高齢者医療制度が関係します。それらに該当せず、日本国内に住所がある人については原則として市町村国保の対象となります。
厚生労働省は、日本国内に住所があり、他の健康保険やその被扶養者、生活保護、後期高齢者医療制度などに該当しない人は国民健康保険の被保険者になると案内しています。[参照]
国民健康保険法に「暴力団員だから加入不可」という一般的な除外規定はない
国民健康保険法では、都道府県内に住所を有する人を原則として被保険者としたうえで、他の健康保険の被保険者や被扶養者、生活保護を受けている人、後期高齢者医療制度の対象者など、国保の対象外となる人を定めています。[参照]
この一般的な市町村国保の適用除外規定には、「暴力団員であること」そのものは加入除外理由として挙げられていません。そのため、他の公的医療保険に加入していないなど通常の要件を満たすのであれば、暴力団員という属性だけを理由に市町村国保から一律に排除される仕組みではありません。
つまり、暴力団員であっても公的医療保険の制度そのものから完全に排除されているわけではありません。
自営業のような働き方なら国民健康保険になるケースが多い
会社員として勤務先の健康保険へ加入しておらず、自営業者などとして生活している人であれば、市町村の国民健康保険に加入するケースが考えられます。これは暴力団員だから国保なのではなく、一般の個人事業主などと同じく勤務先の健康保険に入っていないことによるものです。
例えば個人で飲食店を営んでいる人が厚生年金・健康保険の被保険者ではなく、他の健康保険の被扶養者でもない場合、原則として住所地の国民健康保険に加入することになります。
一方、暴力団関係者かどうかにかかわらず、法人の従業員として社会保険の加入要件を満たしている場合には、勤務先の健康保険が適用されるケースがあります。そのため、個人の属性だけから「この人は国保」と断定することはできません。
国保に入っていても保険料を払う必要がある
国民健康保険に加入すれば、原則として所得や世帯状況などに応じた国民健康保険料・国民健康保険税を負担します。暴力団員だから国保の保険料が免除されるという一般的な制度はありません。
所得を正しく申告していない場合には、自治体が所得情報を把握できず、保険料算定や所得に応じた軽減制度などにも影響する可能性があります。
したがって「国保に入っている=無料で病院へ行ける」という意味でもありません。一般の被保険者と同様に保険料負担があり、医療機関を受診した際には年齢・所得などに応じた自己負担があります。
犯罪行為でけがをした場合は健康保険給付が制限されることがある
公的健康保険に加入していれば、どのような状況でも必ず保険給付を受けられるわけではありません。国民健康保険法には、本人の故意の犯罪行為によって病気やけがをした場合、その疾病・負傷に関する療養の給付などを行わないという規定があります。[参照]
さらに、闘争、泥酔、著しい不行跡によって病気やけがをした場合には、給付の全部または一部を行わないことができるという規定もあります。
例えば一般的な病気で病院を受診する場合と、本人の故意の犯罪行為が直接原因となって負傷した場合では、健康保険上の扱いが同じとは限りません。これは暴力団員だけに設けられたルールではなく、国民健康保険の被保険者一般に適用される規定です。
第三者から暴行を受けた場合まで保険が使えないわけではない
一方、自分が暴力団員だからというだけで、通常の病気や第三者から受けたけがについて健康保険が一切使えなくなるわけではありません。
例えば交通事故や第三者からの暴行によってけがをした場合には、第三者行為による傷病として健康保険を使い、後に保険者が加害者側へ求償する仕組みが関係することがあります。実際の利用には保険者への届出が必要になる場合があります。
「犯罪に関係する人物だから保険診療自体を受けられない」という単純な制度ではなく、誰のどのような行為が原因で負傷したのかによって扱いが変わります。
反社会的勢力への契約制限と公的健康保険は別の話
銀行、クレジットカード、生命保険、賃貸住宅など民間企業との契約では、暴力団排除条項によって暴力団員など反社会的勢力との取引を制限・解除するケースがあります。このイメージから、「健康保険も加入できないのでは」と考えることがあります。
しかし、市区町村が運営する国民健康保険は民間企業との任意契約とは性質が異なる公的医療保険制度です。国民健康保険法に基づいて加入資格が決まり、所定の要件に該当する人が被保険者になります。
そのため、民間の金融機関などで反社会的勢力との取引が制限されることと、市町村国保の加入資格は分けて考える必要があります。
暴力団の「組織」が健康保険に入るわけではない
もう一つ整理しておきたいのが、健康保険や所得税は基本的に個人の立場・所得などを基礎に考えるという点です。「○○組という暴力団全体が国民健康保険に入っている」という意味ではありません。
健康保険については構成員一人ひとりについて、勤務先の健康保険なのか、国民健康保険なのか、後期高齢者医療制度なのかなどを判断します。税金についても、それぞれの個人や法人にどのような所得・利益が帰属しているのかによって課税関係が決まります。
そのため「ヤクザの健康保険は○○」「ヤクザの税金は○○」と一種類にまとめること自体が正確ではありません。
税務当局が犯罪収益対策と無関係なわけではない
税務行政と犯罪収益対策はまったく無関係ではありません。国税庁は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に関する情報も公表しており、税理士・税理士法人には一定の取引について本人確認などの義務が課されています。2024年4月以降は、一定の疑わしい取引の届出に関する義務も設けられています。[参照]
ただし、これは「暴力団員は税金を払えば犯罪収益を合法化できる」という意味ではありません。税金を納める義務と、犯罪によって得た財産の没収・追徴、刑事責任などは別々の法律問題です。
税金を払ったから違法行為が合法になるわけでもなく、違法行為だから自動的に納税義務がなくなるわけでもありません。
まとめ:暴力団員にも通常の税・公的医療保険制度が適用される
暴力団員だから所得税や住民税を払わなくてよいという特別な免税制度はありません。国税庁が説明しているとおり、所得税は個人が得た所得を原則として課税対象とする仕組みであり、課税対象となる所得があれば、通常の税法に基づいて申告・納税が必要になります。[参照]ただし、特定の人物が実際に正しく申告・納税しているかどうかは、その人ごとの事情なので一括して判断することはできません。
健康保険についても「ヤクザは全員国保」という制度ではありません。勤務先の健康保険など別の公的医療保険に加入していればそちらが適用され、他の医療保険に加入しておらず日本国内に住所があるなど国保の要件を満たす場合には、市区町村の国民健康保険の被保険者になるのが原則です。厚生労働省が示す国保の一般的な適用除外には、暴力団員であること自体は挙げられていません。[参照]
要するに、「暴力団員だから税金を払わない」「暴力団員専用の健康保険がある」という理解はいずれも正確ではありません。税金は所得などに応じて、健康保険は就業状況・年齢・住所などに応じて、基本的には一般の人と同じ法制度の中で判断されます。ただし、本人の故意の犯罪行為が原因のけがなどについては、国民健康保険の給付が制限される場合がある点は別途注意が必要です。[参照]


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