交通事故でけがをした場合、仕事を休んだことによる減収だけでなく、事故によって家事ができなくなったことについても「休業損害」が認められる場合があります。特に判断が分かりにくいのが、専業主婦ではなく週2~3日程度パートやアルバイトをしている兼業主婦・兼業主夫のケースです。
勤務先を事故によって休んでいなくても、それだけで家事従事者としての休業損害が否定されるとは限りません。ただし、実際に家庭内で家事を担っていたことや、事故によって家事労働へどの程度の支障が生じたかなどを保険会社が確認して算定することになります。
保険会社から最初に「雇用契約書(雇用条件書)と事故発生月までの賃金台帳を提出してください」と案内された場合は、まず指定された2点を提出し、その後の追加書類について担当者の案内を受けるのが確実です。この2点だけで最終的な休業損害請求がすべて完了するとは限りません。
パートをしていても家事従事者の休業損害が問題になる
自賠責保険の支払基準では、休業損害について、休業による収入減少があった場合または有給休暇を使用した場合に原則として1日6,100円とされています。一方、家事従事者については「休業による収入の減少があったものとみなす」とされています。[参照:国土交通省 自賠責保険支払基準]
これは、家庭で行う炊事・洗濯・掃除・買い物・家族の世話などには経済的価値がある一方、事故で家事ができなくなっても会社員の給与のように直接「○円減った」と表示されないためです。
なお、ここでいう家事従事者かどうかは単純に職業欄が「専業主婦」かどうかだけで決まるものではありません。パート等で収入を得ながら家族のための家事を担っている場合もあるため、勤務実態と家事従事の実態を踏まえて判断されます。
なぜ雇用契約書と賃金台帳を求められるのか
週2~3日程度働いている人について保険会社が雇用契約書や賃金台帳を求めるのは、勤務状況や収入を把握するためと考えられます。勤務先での労働時間、勤務日数、給与などを確認することで、給与所得者としての就労実態と家庭で家事を担う状況を整理できます。
特に事故が起きた年から仕事を始めている場合、前年の源泉徴収票だけでは現在の勤務実態を判断できません。事故前の勤務状況を示す雇用契約書や賃金台帳が重要な資料になることがあります。
ソニー損保が公開している休業損害証明書でも、原則として事故前年分の源泉徴収票を添付し、源泉徴収票を用意できない場合には賃金台帳の写し、雇用契約書、所得証明書などを提出する旨が案内されています。[参照:ソニー損保 休業損害証明書]
指定された2点だけで請求手続きが終わるとは限らない
保険会社から「雇用条件書と賃金台帳を提出後、休業損害の算定方法を案内する」と言われている場合、この2点はまず勤務実態を確認するための資料という位置付けである可能性があります。
したがって、この2点を提出すれば必ずそれだけで最終支払いまで進む、と考えないほうがよいでしょう。確認結果や事故・けがの状況によって追加資料を求められる場合があります。
例えば給与所得者として休業損害を請求する場合には勤務先が作成する休業損害証明書が使われることがあります。一方、家事従事者として算定する場合には、家族構成や家事の実態、治療状況などについて確認を受けることがあります。必要書類は事故や保険会社の処理方法によって異なるため、担当者から具体的に指定された書類を提出するのが基本です。
勤務先を休んでいなくても「家事への支障」は別に考える
例えば週2日だけ短時間のパートをしており、事故後も勤務日は休まなかったものの、自宅では首や腰の痛みによって掃除、料理、洗濯、買い物などを十分できなかったというケースが考えられます。
この場合、「パートを1日も休んでいない」という事実と「家事に支障がなかった」ということは同じではありません。勤務による給与減少がなくても、事故によるけがが家庭内の家事労働へ影響していれば、家事従事者としての休業損害が検討される余地があります。
ただし、事故後も通常どおり仕事を続けられていたという事情は、けがの程度や家事への影響を判断する材料になる可能性があります。「仕事を休んでいないのに必ず家事休業損害が満額認められる」という意味ではありません。
家事従事者なら通院日数だけ機械的に支払われるわけではない
休業損害では、何日分を対象とするかも重要です。自賠責保険の支払基準では、対象日数について実休業日数を基準とし、傷害の態様、実治療日数その他を考慮して治療期間の範囲内で判断するとされています。[参照:損害保険料率算出機構 自賠責の損害調査]
家事従事者についても「通院した日数×日額を無条件に支払う」と単純化して考えるのは適切ではありません。けがの内容、治療期間、通院状況、家事への具体的な支障などによって判断されます。
例えば事故直後は料理や掃除をほとんど家族に代わってもらったものの、症状の改善に伴って徐々に家事を再開できた場合には、治療期間中ずっと同程度の家事支障が続いていたとは限りません。実態に沿って説明できるようにしておくことが大切です。
追加確認に備えて整理しておきたい資料と情報
保険会社からまだ追加書類を指定されていない段階で、自己判断によって大量の書類を集める必要はありません。ただし、次のような情報は整理しておくと担当者から確認を受けたときに説明しやすくなります。
- 雇用契約書・雇用条件通知書
- 事故前から事故発生月までの賃金台帳や給与明細
- 勤務開始日、週の勤務日数・勤務時間
- 事故後に勤務を休んだ日、遅刻・早退した日の有無
- 同居している家族の構成
- 事故前に日常的に担当していた家事の内容
- 事故後にできなくなった、または負担が増した家事
- 家族などに代わってもらった家事の内容と期間
- 通院日や治療期間が分かる資料
例えば「夫と子どもと同居し、事故前は自分が食事作り、洗濯、掃除、買い物を主に担当していた。事故後2週間は家族に買い物と掃除を代わってもらった」というように、家事の実態を具体的に整理しておくと説明しやすくなります。
もちろん実際の状況と異なる内容を作ったり、家事ができなかった期間を実際より長く申告したりしてはいけません。休業損害は客観的な治療状況などとも照らし合わせて確認されます。
「専業主婦として認めてもらう」より家事従事の実態を正確に伝える
パート勤務をしている場合、「専業主婦として認定してもらわなければならない」と考えるより、実際の勤務状況と、家庭でどの程度家事を担っているのかを正確に申告することが重要です。
週2~3日のパート勤務であっても、残りの日を単に「仕事をしていない日」と考えるのではなく、実際に家庭内で家族のための家事に従事しているのであれば、その実態を保険会社へ説明します。そのうえで、給与所得者としての休業損害と家事従事者としての損害をどのように評価するかは個別に判断されます。
逆に一人暮らしで自分自身の身の回りの家事だけをしているケースなどでは、一般的な家事従事者の評価とは事情が異なります。「主婦」という名称ではなく、家族のために家事労働を提供していた実態がポイントになります。
保険会社から返答が来たら確認したいポイント
担当者から返答が来たら、「この2点を提出した後に必要となる書類は何か」「家事従事者として算定する場合の対象期間・対象日数をどう判断するのか」「勤務を休んでいないことをどのように扱うのか」を確認すると話が整理しやすくなります。
また、保険会社から届いたメールやメッセージ、提出した書類は保存しておきましょう。電話で重要な説明を受けた場合には、担当者名、日時、説明内容をメモしておくと後から確認できます。
損害額や家事従事者該当性について保険会社との見解が大きく異なる場合には、交通事故に詳しい弁護士などへ相談する選択肢もあります。特にけがが長期化して損害額が大きくなる場合は、提示された金額だけでなく算定根拠を確認することが重要です。
まとめ:まず指定された雇用契約書と賃金台帳を提出し、その後の案内を確認する
週2~3日程度働いている兼業主婦・兼業主夫でも、家庭で家事を担っており、交通事故によるけがで家事に支障が生じた場合には、家事従事者としての休業損害が検討される可能性があります。勤務先を休んでいないという事実だけで直ちに家事休業損害がなくなるとは限りません。
保険会社から雇用条件書(雇用契約書)と事故発生月までの賃金台帳を求められているのであれば、まずその2点を提出するのが適切です。ただし、それらは勤務実態や算定方法を判断するための資料であり、その2点だけで最終的な請求手続きが完了するとは限りません。
追加で休業損害証明書や家事従事の実態に関する確認などが必要になる可能性があるため、自己判断で書類を決めるより担当者から具体的な案内を受けるのが確実です。その際は、家族構成、普段担当している家事、事故後にできなくなった家事、治療・通院状況などを事実に沿って整理しておくとスムーズです。


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