複数の塾でアルバイトをするとき、「年末調整を片方の勤務先で行えば、もう一方には掛け持ち先が分からないのか」と気になることがあります。特に一方の塾が同業他社との掛け持ちを禁止している場合、税金の手続きと会社の副業ルールを混同しないことが重要です。
結論からいうと、2社で同時に給与を受け取っている場合、原則として両社の給与を1社の年末調整にまとめる仕組みではありません。主たる勤務先で年末調整を行い、従たる勤務先の給与は原則として年末調整されず、必要に応じて本人が確定申告して税額を精算します。
また、年末調整だけを見て「絶対に掛け持ちが発覚しない」と保証することもできません。勤務先への虚偽申告によって隠す方法を考えるより、就業規則や雇用契約を確認し、必要なら勤務先へ相談するほうが後々のトラブルを避けやすくなります。
2社で同時に働く場合の年末調整はどうなる?
国税庁では、2か所以上から給与を受け取る場合、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している勤務先からの給与を「主たる給与」、それ以外を「従たる給与」としています。主たる給与は原則として甲欄、従たる給与は乙欄によって源泉徴収されます。[参照:国税庁 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収]
例えばA塾を主たる勤務先として扶養控除等申告書を提出し、B塾でも同時に働いているなら、A塾の給与についてA塾が年末調整を行い、B塾は従たる給与として扱われるのが基本です。
国税庁も「原則として従たる給与については年末調整できない」と明記しています。したがって、同時並行でA社とB社から給与を受けているケースでは、B社の給与をA社へ持っていって通常の年末調整に単純合算してもらう、という理解は適切ではありません。
前職の源泉徴収票を提出するケースとは違う
混同されやすいのが、年の途中で転職したケースです。例えば1月から6月までC社で働いて退職し、7月からA社だけで働いている場合には、一定の条件のもとでC社の給与を含めてA社が年末調整します。
国税庁によると、年の途中で就職した人が就職前の会社から給与を受けていた場合、前職の給与額や源泉徴収税額などを源泉徴収票で確認して年末調整を行います。[参照:国税庁 年末調整の対象となる給与]
つまり「退職した前職+現在の勤務先」と「現在A社とB社で同時に働いている掛け持ち」は税務上の扱いが異なります。掛け持ちをしている人が、もう一方の勤務先の源泉徴収票を年末調整のため必ず主たる勤務先へ提出するわけではありません。
掛け持ち先の給与は確定申告が必要になることがある
主たる勤務先で年末調整をしても、従たる勤務先の給与について税金の精算が完了するとは限りません。国税庁によれば、2か所以上から給与を受け、その給与が源泉徴収の対象となる場合、年末調整されなかった給与の収入金額と給与・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超えるなど、一定の条件に該当すると原則として確定申告が必要です。[参照:国税庁 給与所得者で確定申告が必要な人]
「副業が20万円以下なら何もしなくてよい」と単純に覚えるのも危険です。所得税の確定申告が不要になるケースでも、住民税について別途申告が必要になることがあります。学生で親の税法上の扶養に入っている場合には、本人だけでなく扶養する親側への影響も確認する必要があります。
年末にはそれぞれの勤務先から源泉徴収票を受け取り、確定申告が必要な場合は本人が各社の給与を申告します。勤務先の給与担当者へ事実と異なる資料を作って提出する必要はありません。
年末調整をA社ですればB社にA社勤務が分からないとは断言できない
税務上、A社がB社の源泉徴収票を自動的に閲覧して掛け持ち先の会社名を確認する、といった単純な仕組みとして年末調整が行われているわけではありません。しかし、そこから「会社には絶対に分からない」と結論付けることはできません。
会社が副業・兼業について届出を求めている場合がありますし、勤務時間やシフト、本人からの申告、人的なつながりなど税務以外の経路から判明することもあります。塾業界では勤務エリアが離れていても、将来的に関係者同士が接点を持つ可能性までゼロにはできません。
また税・社会保険に関係する手続きから勤務先が複数あることに関連する情報が生じる場合もあります。そのため「この税務処理を選択すれば勤務先に絶対バレない」という方法を前提に掛け持ちを始めるのは避けたほうがよいでしょう。
「飲食店やコンビニで働いている」と偽るのはおすすめできない
同業他社との掛け持ちを禁止されているのに、実際には別の塾で働きながら「コンビニで働いています」「飲食店との掛け持ちです」などと勤務先へ虚偽の説明をすることにはリスクがあります。
問題になるのは副業そのものだけではありません。後から事実が判明した場合、会社側から見ると「副業ルールへの違反」に加えて「勤務先について虚偽の申告をしていた」という問題が生じる可能性があります。具体的な処分の可否や程度は雇用契約、就業規則、実際の競業性、勤務への影響など個別事情によって異なります。
税金の手続きを利用して同業他社で働いている事実を隠すことと、適切に年末調整・確定申告をすることは別問題です。税務手続きは正確な内容で行うことを基本にしましょう。
同業他社の掛け持ち禁止は必ず有効なのか
一方で、「会社が禁止と書いている以上、どんな副業でも絶対に認められない」と単純化することもできません。厚生労働省は副業・兼業のガイドラインを公開しており、モデル就業規則では勤務時間外に他の会社等の業務へ従事できることを基本としつつ、一定の場合には禁止・制限できるという考え方を示しています。[参照:厚生労働省 副業・兼業]
禁止・制限が問題となる例には、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、会社の名誉・信用や信頼関係への影響、競業による会社利益への侵害などがあります。厚生労働省も、副業・兼業を禁止・制限する妥当性については個々のケースに応じて慎重に判断されるとしています。
塾Aと塾Bで同じ地域の生徒を勧誘する、教材や生徒情報を持ち出すなどの行為と、単に別の地域の塾で授業を担当することでは事情が異なります。ただし自分だけで「競合していないから規則を無視してよい」と判断するのではなく、まず契約書・誓約書・就業規則で禁止範囲を確認することが重要です。
塾を掛け持ちしたい場合の現実的な選択肢
最初に確認したいのは、B社の規定が本当に「同業他社への勤務は一律禁止」なのか、それとも「会社の許可なく競合する塾へ勤務することを禁止」という内容なのかです。文言によって意味が変わるため、採用時にもらった書類を確認します。
次に、許可・相談制度があるなら「勤務エリアが重ならない」「担当生徒を勧誘しない」「教材や顧客情報を持ち出さない」といった条件を示して相談する選択肢があります。認められなければ、A社・B社のどちらを優先するか、あるいは一方を塾以外のアルバイトにするかを検討できます。
将来的に塾講師として経験を積みたいのであれば、隠れて2社を掛け持ちして発覚リスクを抱えるより、最初から掛け持ち可能な塾を組み合わせるほうが安心して働きやすいでしょう。
まとめ:年末調整と同業他社への掛け持ち禁止は別々に考える
2つの塾で同時に給与を受け取る場合、原則として扶養控除等申告書を提出した主たる勤務先で年末調整を受け、もう一方の従たる給与は年末調整されません。一定の条件に該当すれば、本人が確定申告によって税額を精算します。同時に勤務している2社分の給与を、通常の年末調整で片方へ単純にまとめる仕組みではありません。
ただし、この仕組みから「A社で年末調整すればB社には絶対にバレない」と保証することはできません。また、実際には同業の塾で働いているのに飲食店やコンビニとの掛け持ちだと偽る方法は、就業規則違反とは別に信頼関係上の問題を生じさせる可能性があります。
まずB社の雇用契約・就業規則で競業禁止の具体的な範囲と届出・許可制度を確認し、税務については主たる給与と従たる給与を正しく処理するのが基本です。年末調整や確定申告の判断に迷う場合は、国税庁の案内や税務署等で最新の取扱いを確認すると安心です。

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