日本の医療保険制度において、社会保険や後期高齢者医療制度では「支払基金(支払機構)」がレセプト審査を一括して行っているのに対し、国民健康保険(国保)では「国保連合会(国保連)」が都道府県ごとに審査を実施しています。この違いは医療費の適正化や審査の一貫性において課題視されることも少なくありません。今回は、なぜ国保だけが支払機構に統一されていないのか、その背景と制度的な理由を解説します。
レセプト審査の違い:国保と社保の構造
レセプトとは医療機関が保険診療の対価を請求する明細書のことです。社保や後期高齢者医療では「社会保険診療報酬支払基金(支払基金)」が全国規模で審査を行います。一方、国保では各都道府県の国保連合会が審査を担当しています。
このため、国保の審査は地域差が生じやすく、「国保の審査は緩い」という印象を持たれることもあるのです。実際には審査基準の統一化が進められているものの、審査の実態は自治体の方針に影響を受ける部分もあります。
なぜ国保は支払機構に統一されないのか
国保の審査が支払基金に移管されない主な理由として、以下のような事情があります。
- 自治体による運営と責任:国保は市区町村が保険者であり、住民の健康と財政を直接担う立場にあります。そのため、保険者である自治体の意向が反映されやすい国保連合会での審査体制が維持されているのです。
- 地域事情の考慮:医療提供体制や人口構成、診療傾向などが地域によって大きく異なるため、柔軟な審査が求められるという点も理由のひとつです。
- 歴史的経緯:国保と社保では保険者の構造が大きく異なってきた経緯があり、制度統合には相応の法改正や自治体の同意が必要です。
審査の統一によるメリットと課題
もし国保の審査も支払機構に一本化されれば、以下のようなメリットが期待されます。
- 審査基準の全国統一化により不公平感の是正
- 重複請求や不適正請求の発見強化
- AIやICTの活用による効率化
一方で、課題も存在します。国保加入者は自営業や無職者、高齢者など多様であり、画一的な審査で地域の実情に対応できるのか、自治体のガバナンスが低下しないかといった懸念も根強くあります。
現状と国の対応方針
厚生労働省は近年、審査の透明性と統一性の向上を目指して、支払基金・国保連の双方にAI導入や「標準化モデル」の推進を求めています。2023年度には「審査基準統一ガイドライン」も発行され、審査のばらつきを是正する動きが見られます。
ただし、実際の制度改正には自治体や医療関係団体との調整が不可欠であり、完全な統合には時間を要すると見られています。
まとめ:審査の統一には制度的ハードルが存在
国保の審査が支払機構に統一されていないのは、単なる制度の遅れではなく、自治体の責任・地域事情・歴史的背景といった多面的な要因が絡んでいます。将来的な統一審査に向けた動きは始まっていますが、制度の根幹に関わる議論となるため、慎重な調整が続いているのが現状です。国保の仕組みを理解したうえで、医療費の適正化や透明性の強化を見守る姿勢が求められるでしょう。
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