近年、若者を中心に「年金は不要」「廃止して生活保護にすればいいのでは」という声がSNSなどで見られます。一見シンプルな解決策に見えますが、年金制度は高齢者の生活保障にとどまらず、社会全体を支える重要な役割を担っています。この記事では、年金制度がもし廃止された場合、どのような社会になるのかをシミュレーションしながら、年金制度の意義を改めて考えます。
年金制度の基本的な仕組みと目的
日本の公的年金制度は、現役世代が高齢者を支える「賦課方式」によって成り立っています。これは、将来の自分の老後に備えて積み立てるのではなく、今働く人が今の高齢者に給付する仕組みです。
目的は単に「老後のお金」ではなく、高齢・障害・死亡という3つのリスクに備える社会保障制度です。老後だけでなく、事故や病気で働けなくなった時、あるいは一家の大黒柱が亡くなった時の遺族年金なども含まれています。
年金を廃止したら社会はどう変わるのか?
仮に年金制度が廃止されると、以下のような影響が考えられます。
- 高齢者の多くが生活保護に依存
- 生活保護申請・審査業務の急増で行政負担が過大化
- 現役世代の負担が生活保護の財源として間接的に増加
- 保険料ではなく税での給付になるため、働く意欲や公平感が損なわれる
つまり、「年金をやめて生活保護で」という仕組みは、結局は国民全体が別の形で負担し合う社会保障の構造に戻ってくるのです。
生活保護と年金は目的も性格も異なる
生活保護は「最後のセーフティネット」であり、資産や家族からの扶養がないことが条件です。年金と異なり、受給には厳格な審査があり、資産がある場合は申請すら通らない可能性があります。
また、生活保護では住宅扶助などもありますが、自由に使える金額は年金に比べて制限される傾向があり、生活の自由度や尊厳の面で差が出るという指摘もあります。
年金制度は「支える側」にもメリットがある
「若者は損をしている」というイメージが根強いですが、年金制度は将来の自分への備えでもあります。事故で障害を負った場合の障害年金や、配偶者が亡くなった場合の遺族年金も公的年金に含まれているのです。
また、制度があることで高齢者が消費活動を続け、社会の経済循環を維持する役割も果たしています。すべてが生活保護に置き換われば、その安心感や購買力は大きく損なわれることになります。
制度の維持には課題も多い
もちろん、少子高齢化が進む中で今の制度を維持するには課題も山積です。年金受給開始年齢の引き上げや、保険料の増加など、世代間のバランスをどう保つかは今後の大きな課題です。
しかし、廃止というゼロか100かの選択ではなく、制度をより持続可能な形へと進化させる議論が今、求められています。
まとめ:年金は社会の基盤、廃止ではなく改善を
年金制度は、個人の老後資金を保障するだけでなく、社会の安定や経済の循環にとっても重要な制度です。廃止してすべて生活保護にするという考え方には多くの実務的・財政的な課題があり、結果的に社会全体の負担が増す可能性が高いといえます。
だからこそ、今私たちに求められているのは「廃止すべきか否か」ではなく、「どうすればもっと良くなるか」を考える視点なのです。
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