最近、「個人事業主でも厚生年金に加入できる」「オンラインで月に一度30分だけの仕事で社会保険に入れる」といった広告を目にすることが増えました。内容を見ると、保険料が安くなり、夫婦での年金負担が1人分になるなど、まるで“夢のような制度”に見えることもあります。しかし、制度を正しく理解しないと、意図しないリスクを抱える可能性も。この記事では、その仕組みと注意点について解説します。
なぜ個人事業主でも厚生年金に入れるのか?
通常、個人事業主は「国民健康保険」と「国民年金」に加入しますが、法人に雇用される形を取れば厚生年金に加入できます。つまり、「会社に雇われている従業員」であれば、たとえ月に数時間しか働かなくても、社会保険の対象となり得るのです。
この仕組みを利用して、法人を経由して契約社員やパートのような名目で仕事を“少しだけ”請け負い、その会社の社会保険に加入するというモデルが広告で紹介されているのです。
月30分の仕事で本当に加入できる?
たしかに、週20時間以上・月額賃金88,000円以上(※条件あり)を満たせば、社会保険に加入することは可能です。条件を満たすために“形式的な仕事”を作って加入させるという仕組みが、一部企業で提供されています。
しかし、月30分という就労時間がその基準を満たしているかは極めて疑わしく、実態のない労働と判断された場合、「不適切な加入」として是正指導の対象になる恐れもあります。
節税・保険料節約になると言われる理由
厚生年金に加入すると、保険料の半分を会社が負担するため、国民年金と比較して負担が軽くなることがあります。また、扶養している配偶者が第3号被保険者になれば、年金保険料が0円になる場合もあるため「夫婦で保険料1人分」として節約効果があるように見えるのです。
ただし、これはあくまで正規の条件を満たしていた場合に限った話であり、制度の“隙間”を利用する形での加入にはリスクも伴います。
法的・制度的なリスクと実例
形式的な就労による加入が問題視され、過去には行政が調査に入ったケースもあります。例えば「社会保険だけ加入させるために設立されたペーパーカンパニー」や「名ばかり雇用」での加入は、厚生労働省による是正指導の対象となったことがあります。
また、就労実態がないと判断されれば、保険料の返還や加入の取消しが求められる場合もあり、結果的に損をするリスクも存在します。
安心して厚生年金に加入するには?
個人事業主であっても、以下のような方法なら健全に社会保険に加入できます。
- 自ら法人を設立して役員報酬を受ける
- 副業先や業務委託先で正規の就労条件を満たす形で雇用契約を結ぶ
- 配偶者の扶養に入る(ただし年収制限あり)
本当に保険料を抑えながら手厚い保障を得たい場合は、社会保険に詳しい税理士や社労士に相談することをおすすめします。
まとめ:広告に惑わされず、制度を正しく理解しよう
「月30分の仕事で厚生年金に加入できる」といった広告には、制度のグレーゾーンを利用しているケースも少なくありません。たしかに仕組みとしては成り立つ可能性がありますが、法的リスクや後々のトラブルを考慮すると慎重に検討すべきです。安心して社会保険に加入したいなら、実態のある働き方と正規の条件を満たすことが何より大切です。
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