損害保険の重複契約と保険金の受け取りルール｜火災保険の特約を安心して使うために

火災保険に加入していて、汚損・破損特約を利用した修繕費の補填を考えるケースは少なくありません。中には複数の保険に同時に加入している場合もありますが、そのような場合に保険金をどう受け取れるのか、仕組みを正しく理解しておくことが大切です。

損害保険は「実損填補」が原則

損害保険では、実際に発生した損害額（実損）を上限に保険金が支払われるのが原則です。これは「実損填補（てんぽ）」と呼ばれる仕組みで、損害額以上の保険金を受け取ることはできません。

たとえば、修繕費が10万円かかり、2つの保険に加入していてそれぞれが10万円を上限に補償できるとしても、合計で10万円までしか受け取ることはできません。

保険会社によって判断が異なる場合でも、2社から「損害額の合計まで」を上限に分担して支払われることは可能です。つまり、1社が5万円、もう1社も5万円といったように補償額を分け合う形です。

このように、複数の保険契約があっても重複して損害額を超える支払いは受けられません。2社に請求する際は、他社への請求があることを開示する必要があります。

仮に故意に2社から満額受け取ろうとする場合、保険金詐欺に該当する可能性があります。保険会社は保険金請求時に事故証明や見積書のコピーを要求し、内容が一致しているかをチェックします。

また、保険会社同士は「損害保険料率算出機構」や「保険会社間連絡制度」などで情報を共有しているため、重複契約や同一損害の二重請求は比較的簡単に発見されます。

複数の保険に加入している場合は、まず保険会社に重複契約があることを正直に申告しましょう。そのうえで、どちらに請求するか、または双方から按分（あんぶん）してもらうかを相談することが重要です。

火災保険の損害保険金は「被害者を救済するための制度」であり、補償を最大限活用するには正確な情報提供と誠実な対応が求められます。

賃貸物件の退去時に、壁紙やフローリングに破損があり、修繕費として12万円かかったケースでは、2社の火災保険（ともに汚損・破損特約付き）に加入していたため、6万円ずつを2社から支払ってもらった例があります。

この場合、一方にだけ請求しても満額が支払われなかった可能性があり、重複契約が結果的に補償の確実性を高めることに繋がっています。

火災保険に複数加入していても、損害額を超える保険金の受け取りはできませんが、適切な手続きを取れば2社から按分して受け取ることは可能です。トラブル回避のためには、正直な申告と丁寧な書類提出が何より重要です。