役員借入金の返済に保険の解約返戻金を充てる際の注意点と実務ポイント

生命保険

中小企業の経営において、役員借入金の返済は資金繰りの一環としてよくある手段の一つです。特に、法人名義で加入していた生命保険の解約返戻金を充当するケースは、キャッシュを手元に戻す方法として注目されています。ただし、この対応には税務や会計の観点から注意が必要です。

解約返戻金を充当する仕組みとは?

法人で契約していた生命保険を解約すると、契約内容に応じて「解約返戻金」が戻ってきます。この資金を役員借入金の返済に充てることで、実質的に役員に対する債務を減らすことが可能となります。

例えば、役員が会社に貸し付けていた1,000万円を、保険解約によって戻ってきた800万円で部分返済するといった形です。

注意点① 解約返戻金の会計処理

まず、返戻金は基本的に法人の収益として計上される点に注意しましょう。特に、保険料の支払時に損金として処理していた場合、返戻金は益金として課税対象になります。

たとえば、保険料の半額を損金算入していた「半分損金タイプ」の保険では、返戻金の50%が課税対象となるため、事前に税金の見積りをしておかないと、資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。

注意点② 保険契約の名義と受取人

解約返戻金を受け取るのが法人であっても、契約者や受取人が役員本人の場合、みなし贈与や給与扱いになるリスクがあるため、契約形態の確認は必須です。

法人契約・法人受取であることを前提とした返戻金の使用でなければ、税務リスクが大きくなります。

注意点③ 返済時の資金使途と証憑の保管

返戻金で役員借入金を返済する場合は、社内での稟議書や取締役会議事録を残し、資金の流れを証明する書類を明確に保管しておくことが重要です。

税務調査で「役員賞与ではないか」と疑われた場合、これらの証憑が正当性を裏付ける材料になります。

注意点④ タイミングと返済金額のバランス

役員借入金の返済と同時に大きな返戻金が入金されると、利益が一時的に急増し、法人税額が大幅に上がる可能性があります。期末に一括で処理せず、分割返済や次年度への繰延も視野に入れましょう。

また、解約返戻率がピークになるタイミングを把握して、保険の解約時期も慎重に検討する必要があります。

事例紹介:A社のケース

ある中小企業(A社)では、社長が会社に2,000万円を貸付けていた状態で、法人契約の保険を解約し、返戻金1,200万円を得ました。経理部門ではこの金額を法人収益として計上し、税金を試算。税理士と相談のうえ、半期で役員借入金を分割返済することで、税負担とキャッシュフローのバランスを保ちました。

まとめ:税務・会計の視点を忘れずに

保険の解約返戻金を役員借入金の返済に充てることは、有効な資金活用の一手です。しかし、税務上の処理や契約名義、証憑管理を怠ると、思わぬ課税や指摘につながりかねません。事前に専門家と相談し、正確かつ適切な対応を心がけることが、企業運営の安定に繋がります。

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