2024年に話題となっている「厚生年金の上限月収引き上げ」は、給与の高い層にとっての保険料負担増を意味します。社会保障制度の持続可能性という観点では自然な流れにも見えますが、当事者にとっては一筋縄では納得できない理由もあります。本記事では、厚生年金の仕組みや報酬月額上限の意味、なぜ反発があるのかをわかりやすく解説します。
■ そもそも厚生年金の標準報酬月額とは?
厚生年金保険料は「標準報酬月額」に基づいて計算され、報酬が高くなるほど保険料も高くなります。この報酬月額には上限が設けられており、2024年現在の上限は月65万円です。
つまり、月収が65万円を超えていても、保険料計算の対象となる金額は65万円で打ち止めとなっており、それ以上稼いでも保険料は一定でした。
■ 上限を65万円から75万円へ引き上げる方針の背景
近年のインフレと賃上げの影響で、65万円の上限に到達する人が増加。これにより、高所得者ほど保険料の負担が相対的に軽くなるという逆転現象が生まれていました。
そのため、制度の公平性と年金原資の確保を図るため、政府は上限額の見直しを検討し、75万円への引き上げを打ち出したのです。
■ なぜ引き上げに反発が出るのか?
一見すると当然の対応に見えますが、引き上げられることで影響を受ける層は以下のような点に不満を抱いています。
- 保険料が最大月9,150円程度(9.15%×10万円)増える
- 老齢年金としての将来の受給額はわずかな上昇にとどまる
- 受給時に所得制限や課税などがかかり、リターンが限定的
「払うばかりで見返りが少ない」と感じることが、多くの人の反発理由です。
■ 名目賃金と実質賃金の違いも論点
ご質問にあるように、物価上昇(インフレ)で名目賃金が上がるのは自然な流れですが、実質賃金が伴っていなければ、生活の余裕はむしろ減っているのが実態です。
つまり、名目賃金が65万円→70万円に増えても、それ以上に物価や生活コストが上昇していれば、「保険料負担の増加=生活の圧迫」につながります。これが「ただのインフレ対応では納得できない」理由です。
■ 他国との比較:日本の年金制度は高負担・中給付型
日本の厚生年金制度は、高い保険料を徴収する代わりに一定の年金給付を保証する「高負担・中給付」型。北欧などの高福祉国家と似た制度ですが、給付の実感が得にくいという声もあります。
また、企業負担も大きいため、経営者からは「人件費の圧迫」との反発もあります。
■ 将来の自分にとってどう考えるべきか
大学生のうちから年金制度に関心を持つのは非常に大切です。将来、自分が労働者として保険料を納める立場になったときに、制度への理解があると選択肢が広がります。
たとえば、企業選びの際に「報酬月額が上限を超えるかどうか」や「企業年金の有無」なども重要なチェックポイントになるでしょう。
■ まとめ:制度の公平性と納得感のバランスが課題
厚生年金の報酬月額上限引き上げは、財源確保と制度維持のためには必要な対応です。しかし、当事者にとっては負担感が先行しやすく、将来の見返りとのバランスに不満が生じるのも事実です。
インフレ対応や賃上げと並行して、年金制度の「納得感」を高める改革も求められています。このような視点を持つことが、制度に対する建設的な議論につながっていくでしょう。
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