個人事業主や中小企業の経営者が、家族を役員にするケースは少なくありません。中でも、高齢の親や配偶者を形式上だけの「名ばかり役員」として報酬を支払うケースはよく見られます。しかし、この行為が税務上どのような扱いになるのかを理解していないと、思わぬペナルティを受けるリスクもあるのです。この記事では、家族を実態のない役員にした場合の税務的な評価や、所得税との関係について詳しく解説します。
名ばかり役員とは何か?
名ばかり役員とは、実際には業務に関与していないにもかかわらず、形式上だけ役員として登記されており、報酬だけを受け取っている人物を指します。たとえば、事業に全く関与していない高齢の母親を取締役にして役員報酬を支払っていた場合、それが「名ばかり役員」に該当する可能性があります。
税務署は、報酬の実態が伴っているかどうかを厳しくチェックします。実態がなければ、経費として認められないばかりか、場合によっては贈与と判断されるリスクもあります。
役員報酬は経費として認められるのか?
法人税法上、役員報酬を損金(経費)として計上するには、いくつかの条件を満たす必要があります。
- 定期同額給与であること(毎月一定額の報酬)
- 役員として実態があること(業務に従事している)
- 事前に定められた範囲内であること
特に重要なのが実態の有無です。70代後半の母親が実際に会計業務や来客対応など何らかの業務を担っていた証拠がなければ、その報酬は否認される可能性が高いです。
名ばかり役員の報酬は贈与とみなされる可能性も
実態がないにもかかわらず支払われた役員報酬については、税務署から「贈与」とみなされるケースもあります。この場合、法人側は経費にできず、受け取った親側も贈与税の対象となる可能性があるため注意が必要です。
たとえば、10年間で300万円支払った場合、年間30万円。年間110万円までの贈与は非課税ですが、それを超える部分は申告対象です。しかも、「報酬」として受け取っていたのであれば所得税申告義務も発生します。
高齢の母親は所得税を支払っていたのか?
役員報酬を受け取っていたのであれば、その母親には所得税の申告義務が生じます。ただし、収入額が年間48万円以下であれば所得控除の範囲内で課税されない場合もあります。
しかし、申告自体は必要ですし、源泉徴収を受けていた場合には年末調整や確定申告も必要になります。無申告だった場合には、税務署の調査が入るリスクもあります。
個人事業主が役員報酬を出すことはできるのか?
そもそも個人事業主には「役員」という概念は存在しません。役員報酬という形で家族に給与を支払いたい場合は、「専従者給与」という制度を利用します。この制度では、生計を一にする家族が実際に事業に従事している場合のみ、給与を経費として認めてもらえる仕組みです。
従って、実態がない母親に専従者給与(=役員報酬に相当)を出していた場合、その費用は否認される可能性が高くなります。
まとめ:名ばかり役員と税務リスクを避けるには
家族を形式上の役員にして報酬を支払う場合、その行為が実態を伴わないと税務上の否認や贈与税課税の対象となる恐れがあります。個人事業主には役員の制度はないため、専従者給与として処理し、その実態を明確にしておくことが大切です。
家族を役員にしたい、あるいは報酬を支払いたい場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい手続きをしておけば、節税にもつながり、後のトラブルも回避できます。
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