高額な買い物──たとえば自動車や住宅など──を購入した後、その維持に必要なランニングコストを甘く見積もってしまう人は少なくありません。この記事では、「なぜ人は壊れてから慌てるのか」「なぜ修理代を想定しておかないのか」といった素朴な疑問を出発点に、その背景や金銭感覚の構造について深掘りしていきます。
ランニングコストへの意識が薄い人はなぜ多い?
多くの人が購入時の「本体価格」には注目しても、購入後にかかる維持費(ランニングコスト)まで想定していないことが問題の根本にあります。車であれば車検・オイル・タイヤ・税金、住宅であれば修繕費・固定資産税・火災保険などがこれに当たります。
これは「目に見えるコスト」と「見えにくいコスト」の違いが生む心理的な落とし穴とも言えるでしょう。人間の脳は、未来の出費よりも今の出費に強く反応するため、どうしても将来の維持費は後回しにされがちです。
金銭教育の不足が招く無計画な支出
日本では義務教育の中で「お金の使い方」「ライフプランニング」「収入と支出の関係」などの金銭教育がほとんど行われていません。その結果、収入があっても「どう使い、どう残すか」の視点を持てない人が多いのが現状です。
たとえば、車検や修理に備えて毎月5,000円ずつ積立をしておけば、いざというときに困らずに済みますが、これを実践できている人はごくわずかです。これは知識不足というより、意識の問題といえます。
壊れてから慌てる心理:原因は「正常性バイアス」
「今は動いているから大丈夫」「うちのは壊れないだろう」と思ってしまうのは、いわゆる正常性バイアスによるものです。これは、「自分は例外」と思い込むことで不安を回避しようとする人間の本能的な反応です。
しかし、5年も経てばバッテリーやタイヤ、給湯器や配管など、あらゆる物に経年劣化が生じます。予測できることに対して「備えない」という姿勢こそが、実際にトラブルが起きたときの混乱を招いているのです。
実例紹介:備えがある人・ない人でこうも違う
30代の会社員Aさんは、車を購入したときに「10年で80万円程度の維持費がかかる」と試算し、月に7,000円を車用の別口座に積み立てるようにしました。結果として、バッテリー交換・車検・スタッドレスタイヤ交換なども全てこの口座からまかなえており、突発的な出費に困ったことはないそうです。
一方、同じ車を所有するBさんは、「壊れたときに考えればいい」と考えて備えず、7年目にエアコンが故障した際、修理代12万円に驚き「そんなにかかるとは思わなかった」と慌ててローンを組んだとのことです。
金銭感覚を養うにはどうすればいい?
金銭感覚を磨くには、「支出を予測する力」と「計画を立てる力」が必要です。以下のステップで意識改革を始めるのが効果的です。
- 所有するモノの維持費を年単位で試算してみる
- 年単位で「予測支出表」を作成し、定期的に見直す
- メンテナンス費や保険料を月々の積立で準備する
また、FP(ファイナンシャル・プランナー)によるライフプラン相談を受けるのも有効です。支出の可視化と優先順位づけを行うことで、無理のないお金の使い方が実現します。
まとめ:物を持つなら「買うまで」ではなく「持ち続けるまで」を意識しよう
物を所有するということは、維持する責任を伴います。にもかかわらず、買うときのことしか考えていない人が多いのは、教育や習慣、心理的なバイアスに起因しています。
ランニングコストを見越した備えこそが、将来の安心につながります。今後は「壊れてから慌てる」のではなく、「壊れる前に準備する」ことを前提にしたマネープランを意識していきましょう。
コメント