振り込め詐欺や特殊詐欺といった犯罪が依然として多発している背景には、犯人が金銭を受け取るために利用する「受け子口座」の存在があります。本来、銀行口座開設には厳格な本人確認が必要ですが、それでもなお不正利用が絶えないのはなぜなのでしょうか。本記事では、銀行口座開設時の本人確認制度の仕組みや現状、そして実際に起きている問題点について解説します。
銀行口座開設時の本人確認の流れとは
銀行で新規口座を開設する際には、犯罪収益移転防止法(通称:犯収法)に基づく「本人確認」が義務付けられています。主な確認手段は以下の通りです。
- ・運転免許証、マイナンバーカードなどの本人確認書類の提出
- ・申込者の住所確認(郵送やSMSなど)
- ・口座利用目的の確認(給与受取や生活費など)
- ・反社会的勢力との関係がないかの確認
さらに最近では、オンラインでの顔写真と本人確認書類の照合を行う「eKYC(電子的本人確認)」も広く導入されています。
それでも「ザル」と言われる理由とは?
形式的には厳格な制度が整っているものの、現場では申込者が提示した書類をそのまま受け入れてしまうケースもあり、本人確認が名義貸しや偽造書類で突破されることもあります。特に問題視されているのが以下のケースです。
- ・本人確認書類の偽造や盗用
- ・生活困窮者が報酬目的で口座を売却
- ・SNSでの口座売買・譲渡
このような方法で開設された口座は「犯罪収益移転防止法」では取り締まれないグレーな領域があり、抜け道として利用されやすいのです。
口座売買の実態とその対策
2020年代以降、Twitterや掲示板、暗号化されたメッセージアプリを使って「口座買います」などの取引が横行しています。報酬数千円〜数万円で、生活困窮者や若年層を中心に口座の売却が行われているケースも。
これに対して金融庁や警察庁は「口座売買の違法性」について積極的に啓発を行っており、口座が不正利用された場合、売った本人も犯罪収益移転防止法違反や詐欺幇助罪で処罰される可能性があります。
なぜ厳格化しても犯罪は減らないのか
制度をいくら強化しても、それを回避しようとする詐欺グループは常に手口を進化させています。たとえば。
- ・名義を偽装したバーチャル銀行口座の利用
- ・eKYCをすり抜けるAI生成顔画像や動画
- ・不正な中間業者を介した本人確認の代行
また、銀行側の対応にもバラつきがあり、申込時の審査が甘い金融機関では、形式的な確認だけで通ってしまう場合も。全体的な対策強化には、金融業界全体での統一的なセキュリティ基準と運用の徹底が必要です。
利用者ができること:口座の本人性を守る意識
一般利用者としても、自分の口座情報を軽率に他人に教えない、書類の管理を徹底する、SNSでの口座売買勧誘には一切応じないといった、基本的なリテラシーが重要です。
また、身に覚えのない口座利用や不正な動きがあった場合には、すぐに金融機関と警察に相談し、口座凍結などの措置を講じることが被害拡大を防ぐ鍵になります。
まとめ:制度と意識の両面から不正利用を防ぐ時代へ
銀行口座開設時の本人確認は制度上は強化されており、「ザル状態」とまでは言えませんが、依然として不正利用の余地が残っているのも事実です。特に他人による口座売買や名義貸しといった行為が一因となっています。
今後はテクノロジーによる本人確認の高度化に加え、個人の情報管理意識、そして銀行側の審査体制強化の3つが連携して初めて、振り込め詐欺の温床を断つことが可能になります。
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