組織再編に関連する税務処理の中でも、繰越欠損金の引継ぎ可否は、法人にとって大きな関心事です。特に法人税法57条および法人税法施行令113条に関連する『時価算定』という考え方は、実務担当者でも理解に苦しむことがあります。この記事では、法人税法施行令113条における時価算定の意義と実務への影響について、具体例を交えながら丁寧に解説します。
繰越欠損金の引継ぎに関する基本的なルール
法人税法57条では、一定の支配関係が生じた場合に、その支配関係発生前の繰越欠損金や、特定資産譲渡等損失相当額については引継ぎが制限されます。この制限により、租税回避的な欠損金利用が防止される仕組みとなっています。
たとえば、A社がB社を吸収合併した際、B社が支配関係発生前に抱えていた繰越欠損金については、原則としてA社での引継ぎは認められません。
法人税法施行令113条の『時価算定』とは?
施行令113条では、組織再編時に被合併法人の資産等を「時価」で評価することにより、57条の制限に該当しないとする道が用意されています。つまり、一定の時価評価を行うことで、引継ぎ要件の緩和が可能となる制度的仕組みです。
この時価算定とは、合併時点の資産や負債を、帳簿価額ではなく「市場価格または合理的な算定に基づいた価格」によって評価し直すことを意味します。
時価算定は義務?それとも任意?
この時価算定は任意であり、合併当事法人が選択できます。ただし、時価算定を採用することで欠損金の引継ぎが可能になる場合には、税務上のメリットがあります。逆に言えば、時価算定しても引継ぎが認められない場合は、わざわざ時価評価を行う必要性は乏しいとも言えます。
たとえば、評価損益が大きく繰越欠損金を圧縮してしまうような場合は、時価評価をしない方が実務上有利となる可能性があります。
時価算定の実務的な取り扱い
実務上、時価算定を行った場合でも、被合併法人の財務諸表(会計帳簿)は時価ベースに書き換わるわけではありません。あくまで税務上の評価に限定され、税務申告に際してのみ使用されます。
つまり、時価算定の適用は「税務上の調整処理」であり、会計処理や財務諸表の開示上に影響を及ぼすものではないのが通常です。ただし、税効果会計の適用がある場合には、一時差異として取り扱う必要があります。
時価算定と法人税法57条の適用判断
時価算定をした場合、欠損金の引継ぎ可否は57条の制限にかからなくなる可能性がありますが、結果として同じ判断に至ることもあります。その場合、57条を根拠として判断しても実務上は問題ありません。
したがって、時価算定を行うかどうかは、税務メリットと事務負担のバランスを慎重に評価して選択する必要があります。無条件に時価評価すべきではなく、シミュレーションや顧問税理士との協議を通じて判断すべきです。
まとめ:組織再編税制における時価算定の位置づけ
法人税法施行令113条における時価算定は、繰越欠損金の引継ぎに関して柔軟な対応を可能にする重要な選択肢です。ただし、その適用は任意であり、実務的には税務申告のみに影響するものである点に注意が必要です。
最終的な判断においては、税務上の影響額を定量的に検討し、顧問税理士や専門家のアドバイスを踏まえて進めることが望ましいでしょう。
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