現代の銀行制度を理解するうえで欠かせないのが「信用創造」という仕組みです。銀行がどのようにして実体のない「お金」を増やし、経済に供給しているのかは、多くの人にとって直感的に理解しづらいものです。この記事では、かつて教科書でよく使われていた信用創造の説明と、近年の実務的な理解との違いを交えながら、平易に解説します。
そもそも信用創造とは?
信用創造とは、銀行が預金をもとに貸出を行い、その貸出金が再び預金として銀行に戻ることで、世の中に存在する預金総額が増加する仕組みのことです。これは中央銀行が新たに紙幣を印刷するような行為とは異なり、民間銀行によって「信用」をベースにお金が循環する構造です。
古典的な信用創造モデル:預金・貸出連鎖
質問にあるようなモデルは、以下のように展開します。
- Aさんが100万円を銀行に預ける
- 銀行は支払準備金(仮に10%)=10万円を残し、残りの90万円をBさんに貸出
- Bさんはそのお金で買い物をし、売り手が再びその90万円を預金
- 今度はその90万円のうち81万円が貸出にまわる……
この連鎖が続くことで、理論的には最終的に元の預金の10倍に近い「預金貨幣」が作られることになります。
この説明は現在でも基本的なモデルとして使用されますが、実務上は次章のような考え方も重要視されています。
現代の理解:貸出が預金を生むという考え方
近年の中央銀行や経済学の実務的な視点では、「銀行が貸出をすると、それによって預金が新たに生まれる」とされます。これはつまり、貸出が先、預金が後という考え方です。
たとえば、銀行がXさんに住宅ローンを1,000万円貸し出すと、同時にXさんの口座に1,000万円が預金として計上されます。実際にはそのお金は不動産会社などに振り込まれますが、それもまたどこかの銀行の預金となります。この循環によってマネーサプライ(通貨供給量)が増えていくのです。
タンス預金では信用創造が起きない理由
「通帳の数字が増えるなら、タンス預金でも増えるのでは?」という疑問については、答えはノーです。なぜなら、タンス預金は金融機関に預けられていないため、貸出の原資とはならず、信用創造の連鎖にも入らないからです。
信用創造は「貸出→預金→貸出……」というサイクルを経てお金が増える構造なので、銀行を通らない現金保有はマネーサプライの増加に寄与しません。むしろ、タンス預金が多くなるほど経済全体に流れる資金は細り、信用創造の力は弱まります。
信用創造の限界とリスク
信用創造には無限の力があるわけではありません。以下のような制約があります。
- 銀行の自己資本比率規制
- 借り手の信用リスク
- 中央銀行による金利政策や資金供給の管理
また、過剰な信用創造はバブルを引き起こす原因にもなります。実際、2008年のリーマン・ショックは、住宅ローンを過剰に信用創造しすぎた結果ともいわれています。
まとめ:古典も現代も理解してこそ「信用創造」
信用創造は「預金が貸出を生む」だけでなく「貸出が預金を生む」という逆の視点でも語られるようになっています。どちらも貨幣の供給量を理解するうえで重要です。
銀行がどのようにお金を生み出しているのかを正しく知ることで、経済の仕組みがより深く見えてくるはずです。
コメント