親が亡くなった後、その名義の銀行口座を子どもが引き継ぐ場面は珍しくありません。しかし、銀行口座を単に「名義変更」しただけでも、実質的には「相続」とみなされることがあり、相続税の対象になることがあります。この記事では、銀行口座の名義変更における注意点と、相続税が発生するケースについて詳しく解説します。
銀行口座の「名義変更」はできない?
まず前提として、日本の金融機関では亡くなった人の名義の口座を、相続人名義に変更することはできません。正確には、死亡を届け出た後に口座は凍結され、相続手続き(遺産分割協議書や戸籍謄本などの提出)が行われてから、預金を「払い戻す」ことになります。
そのため、「名義を変える」という表現は、実際には預金を引き出し、別名義の口座に入金する(移し替える)ことを意味している場合が多く、このときに相続税の課税対象となり得ます。
相続税の発生要件と計算のポイント
相続税は、相続した財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた場合に課税されます。例えば、法定相続人が2人いれば基礎控除額は4,200万円となります。
つまり、銀行口座にある預金の額が仮に500万円であっても、全体の遺産がこの基礎控除額以下であれば相続税は発生しません。ただし、申告は必要になる場合があるため注意が必要です。
名義変更で起きやすいトラブルとリスク
親族間で「実家の自営業の口座が使えなくて困る」との理由で、十分な相続手続きを経ずに子の口座へ預金を移した場合、他の相続人との間でトラブルになる可能性があります。特に、あとで遺産分割協議をする際に「特別受益」や「勝手に使った」と指摘されるケースもあります。
また、相続税の申告義務があるにもかかわらず申告を怠った場合には、加算税や延滞税が課される可能性もあるため、適切な処理が求められます。
適切な手続きでトラブルを防ぐには?
名義変更や預金の引き出しを行う前に、以下の手続きを踏むことが大切です。
- 死亡届の提出と口座の凍結手続き
- 戸籍謄本、遺産分割協議書など必要書類の収集
- 銀行への相続手続きの申請
- 預金の分配と記録保管
この流れを経てから自営業用の口座を開設し、別名義の口座へ移行するのが安全です。
専門家に相談するのがベストな理由
税務上の判断は非常に複雑で、判断を誤ると後々トラブルになることもあります。税理士や司法書士、または遺産相続専門の弁護士に相談し、相続登記や口座の手続き、税務申告のすべてをプロに任せることで安心して対応できます。
特に相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)を過ぎないよう注意しましょう。
まとめ:口座名義の変更は実質的な相続と理解を
親の口座を「名義変更」するという行為は、税務上「相続」とみなされる可能性があります。遺産額によっては相続税の対象にもなるため、正式な相続手続きを踏んだうえで、税理士等の専門家に相談しながら進めるのがベストです。
判断に迷う場合は、国税庁:相続税の申告等の公式情報や、税務相談窓口の活用をおすすめします。
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