年金制度は多くの人にとって複雑に感じられる制度のひとつです。特に60代前半で「特別支給の老齢厚生年金」を受け取っている方にとっては、老齢基礎年金の繰上げや老齢厚生年金の繰下げといった選択肢に迷うこともあるでしょう。本記事では、64歳時点でできる年金の受け取り方の選択肢や組み合わせについて、制度上のルールと具体例を交えて詳しく解説します。
特別支給の老齢厚生年金と老齢基礎年金の違い
まず前提として、特別支給の老齢厚生年金は、昭和36年4月1日以前に生まれた人など、一定の世代に限定して60歳から支給されるもので、原則65歳になると「通常の老齢厚生年金」に切り替わります。
一方で、老齢基礎年金は原則として65歳から支給されますが、希望すれば60歳から繰上げ受給が可能です。ただし、繰上げると年金額は永久的に減額されます。
64歳で老齢基礎年金のみ繰上げ受給は可能か?
結論から言えば可能です。64歳で老齢基礎年金のみを繰上げて受給することは制度上認められており、その場合「特別支給の老齢厚生年金+繰上げた老齢基礎年金」を同時に受け取ることができます。
ただし、老齢基礎年金は1か月繰上げるごとに0.4%ずつ減額されるため、64歳で繰上げると12か月×0.4%=4.8%の減額となり、65歳以降もその減額率が適用され続けます。
65歳になったら老齢厚生年金の繰下げはできるのか?
老齢基礎年金を繰上げた場合、原則として老齢厚生年金の繰下げはできません。繰下げの条件として「老齢基礎年金・老齢厚生年金の両方を未受給であること」が求められているため、片方でも繰上げ受給しているともう一方の繰下げは選べなくなります。
つまり、64歳で老齢基礎年金を繰上げてしまうと、65歳時点で老齢厚生年金の受給開始も自動的に行われ、繰下げは不可となります。
受給パターンの例と損得比較
以下に、特別支給の老齢厚生年金を受け取っている64歳女性の例を見てみましょう。
パターンA:64歳で老齢基礎年金を繰上げ受給(減額あり)
→ 月額:基礎年金約6.3万円×95.2%(0.952)=約6万円(永久減額)
パターンB:65歳まで基礎年金を待つ(減額なし)
→ 月額:基礎年金約6.3万円(満額)
※将来の生活水準や長生きリスクを考慮すると、減額なしの方がトータル受給額は増える傾向があります。
一方で、65歳時に老齢厚生年金の繰下げを希望するなら、老齢基礎年金を繰上げないことが前提条件です。
損をしないための注意点
年金の繰上げや繰下げは一度選択すると基本的に取り消せません。受給額だけでなく、健康状態・家族構成・働く予定の有無なども含めた総合的な判断が重要です。
また、64歳時点での決定が65歳以降の選択肢に制限を与えるため、「老齢基礎年金を繰上げるかどうか」は慎重に考えるべきポイントです。
まとめ:年金は一貫性のある戦略が重要
64歳で老齢基礎年金を繰上げることは可能であり、特別支給の老齢厚生年金との同時受給もできます。ただし、それにより65歳以降の厚生年金の繰下げはできなくなります。年金の選択は長期的な視点で損得を比較し、ご自身の生活設計に合わせた戦略を立てることが大切です。迷った場合は年金事務所や社会保険労務士への相談もおすすめです。
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