社会保険の手続きは慣れるまでやや複雑に感じるかもしれませんが、基本的なルールを押さえておけば、漏れなく対応できます。特に「月額変更届(随時改定)」と「算定基礎届」の違いを正しく理解しておくことが重要です。本記事では、賃金変更時に必要な届出と、万一提出漏れがあった場合の対処方法について、実務経験の浅い方にもわかりやすく解説します。
月額変更届(随時改定)とは?
「月額変更届」は、賃金が大きく変動した場合に提出が必要な届出です。これは毎年7月に提出する算定基礎届とは異なり、一定条件を満たしたときに“随時”提出するものです。
提出が必要な条件は以下の3つをすべて満たす場合です。
- 固定的賃金(基本給や手当等)に変動があった
- その後の3か月間の平均報酬が2等級以上変動
- その3か月間の勤務日数が各月とも17日以上
たとえば、8月に賃金が5万円増額され、その後の9月~11月の報酬平均が2等級以上アップしていれば、12月に月額変更届を提出する必要があります。
算定基礎届との違いとは?
一方、「算定基礎届」は毎年7月に提出し、4月・5月・6月の報酬をもとに標準報酬月額を決定する定時の手続きです。これは年間を通じての基準額を見直すためのもので、随時改定とは役割が異なります。
つまり、月額変更届を提出する機会があったにもかかわらず提出されておらず、翌年の算定基礎届でようやく反映されているというのは、本来の運用ルールに反しています。
提出漏れがあった場合のリスクと対応
月額変更届の提出が漏れていた場合、標準報酬月額が実態とずれたままになり、社会保険料が過少または過大となる可能性があります。これは企業・従業員双方に影響を及ぼします。
提出漏れに気づいた場合は、「遡及による月額変更届の提出」が可能か、まずは所轄の年金事務所に相談しましょう。過去の給与台帳や賃金変更通知書を添えて説明することで、訂正が認められるケースもあります。
実例:提出漏れのパターンと修正方法
例:令和3年8月に賃金が5万円増加し、9月〜11月の報酬平均が2等級以上上がったにもかかわらず、月額変更届が出されていなかった場合。
このケースでは、本来は12月に月額変更届を提出する必要がありました。放置してしまうと、保険料の不整合により、万が一の給付額(傷病手当金など)にも影響します。
対応手順としては。
- 対象者の給与明細・賃金台帳を確認
- 報酬平均を計算し、2等級以上変動していたか確認
- 該当するなら、年金事務所に連絡し遡及訂正の可否を相談
今後の漏れ防止のためにできること
このような提出漏れを防ぐためには、以下の点を習慣づけると良いでしょう。
- 賃金変更時にカレンダーへチェックを登録
- 変更後の3か月平均を都度計算して記録
- 社会保険手続きのフローチャートを作成しておく
また、複数人でチェックできる体制づくりや、クラウド型の給与・労務システムの活用も検討しましょう。
まとめ:提出のタイミングとルールを理解し、適正な手続きを
社会保険の「月額変更届」と「算定基礎届」は、それぞれの目的とタイミングが異なるため、区別して管理することが大切です。もし過去に提出漏れが疑われる場合でも、あきらめず年金事務所へ相談することで、必要な修正手続きが可能なこともあります。
事業主や労務担当者が正しく理解し、継続的に対応することで、従業員にも安心を提供できる環境が整います。
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