「生活習慣病の人の医療費まで負担したくない」「医療費は自己責任でいいのでは?」という声は一定数あります。確かに、健康に気をつけている人からすれば、不公平だと感じる側面もあるかもしれません。しかし、国民健康保険の仕組みは単に“助け合い”という理念だけでなく、社会経済全体の安定にも深く関わっています。この記事では、国民健康保険を仮に廃止した場合に何が起こるのか、そして「完全自己負担」にした際の具体的な影響について解説します。
国民健康保険の役割と仕組みとは?
国民健康保険(以下、国保)は、日本における公的医療保険制度の一つで、主に自営業者や無職の人、フリーランスなどが加入対象です。加入者は毎月保険料を支払い、医療機関を利用する際には原則3割負担で済みます。
この制度の最大の特徴は、全国民が等しく医療サービスを受けられる「国民皆保険」を支える柱であるということです。国保の財源は保険料に加え、国や地方自治体からの税金(公費)で補填されています。
もし国民健康保険が廃止されたら起こること
仮に国保が廃止され、医療費がすべて自己負担となった場合、次のような深刻な社会問題が発生する可能性があります。
- 軽症でも病院に行けず、重症化・死亡が増加
- 医療機関の経営が不安定になり、地方の医療崩壊が進行
- 感染症など公衆衛生面のリスクが拡大
- 収入による「健康格差」が極端に広がる
例えば、糖尿病や高血圧などは初期で治療すれば安く済みますが、放置すると人工透析などに進み、月数十万円単位の自己負担が生じます。結果的に、支払えない人が医療を放棄し、社会全体にリスクが波及することになります。
「健康な人が損する」わけではない理由
「摂生している人が他人の医療費を払うのは不公平」という意見も理解できますが、保険制度は「いつか自分も病気になるかもしれない」というリスクに備える仕組みでもあります。
実際に、健康で若い人ほど保険の恩恵は少ないように見えますが、事故や突然の病気で高額な医療費が必要になった時、保険制度がなければ数百万円単位の請求が発生します。
また、感染症や予防接種、精神疾患、がん検診などの公的支援にも保険制度の財源が活用されており、間接的に多くの人がその恩恵を受けています。
医療費完全自己負担にした場合のシミュレーション
たとえば、風邪で1回の診察と薬代にかかる費用は、保険適用で1,500円前後ですが、保険がなければ5,000〜8,000円が自己負担になります。入院や手術となると、100万円以上が必要になるケースもあります。
こうした負担増は、受診控えを引き起こし、最終的には病気の重症化・長期化を招くことになり、労働力の低下、生活保護の増加、ひいては社会保障費の増大につながる可能性があります。
平均寿命が短くなることの“本当のコスト”
「寿命が短くなれば年金財源の圧迫が減る」といった意見もありますが、倫理的・法的・国際的観点からもこの発想には限界があります。
また、高齢者の医療・介護費用が下がったとしても、労働者や若年層の死亡・病気による経済損失の方が社会的コストとして深刻です。人命や健康を守るための制度が弱体化すれば、結果的に医療費ではなく「生活保護」や「労災補償」に跳ね返ることになり、財政負担の総量は減らないどころか増える可能性もあります。
まとめ:保険制度は公平性とリスク分散のバランス
国民健康保険は、たしかに一部の人にとっては「払うだけ」と感じられるかもしれません。しかし、それは社会全体のリスクを分散させ、予測不能な医療リスクからすべての人を守るための仕組みです。
不公平感を解消するには、制度の持続可能性や予防医療の強化、保険料算定の見直しなどが必要です。単純な「自己負担100%」への転換は、目先の公平性を追求するあまり、より大きな不公平と社会不安を招く可能性があることを忘れてはなりません。
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