日本の農業、特に稲作農家に関して「実は儲かっているのでは?」という声が一部で広がっています。2022年の農業法人白書では、稲作収入がこの10年で大幅に伸びたとされ、特に直近ではコメ価格の上昇も影響しています。しかし、それだけで「儲かっている」と断定するのは早計かもしれません。この記事では、最新データや構造的な課題をもとに、稲作農家の収益実態を解説します。
収入は本当に36倍に?農業法人白書の読み解き方
農業法人白書2022年版では、「稲作の収入が10年で36倍」との記述があります。これは主に大規模経営を行う法人農家の話であり、個人の兼業農家や中小規模農家には当てはまりにくいデータです。
また、36倍という数字は平均値ではなく、特定の条件(例えば農地の集約化、設備投資、大口取引先の確保など)を満たした場合の例も含まれています。
コメ価格の上昇と収益性の関係
2023年から2024年にかけて、コメの価格は前年比で1.5〜2倍に跳ね上がった地域もあります。背景にはウクライナ情勢による肥料コストの上昇、天候不順による供給減少、輸送コスト増などが挙げられます。
しかし、価格上昇の恩恵をすべて農家が受け取れているわけではなく、卸業者や流通段階の中間マージンが大きいため、販売価格と農家収入は必ずしも一致しません。
農業の利益構造と支出の実態
コメ農家の支出は多岐に渡り、以下のようなコストが利益を圧迫しています。
- 燃料・機械メンテナンス費
- 農薬・肥料などの資材費(近年は特に高騰)
- 土地の借地料や固定資産税
- 人件費(兼業化が進んでいるため外注する場合も)
これらを差し引くと、収入が増えても「純利益」が大きく伸びているとは言えないケースも少なくありません。
売上5,000万円以上の農業法人が70%?その内訳を検証
白書では農業法人の70%が売上5,000万円以上とされていますが、これはあくまで「法人」の話です。日本の農業従事者の多くは個人農家であり、特に高齢者による小規模経営が中心です。
農業法人は効率的な大規模経営と流通ルートを確保できる一部の層であり、全体の実情を反映しているとは言い切れません。
「農家は苦しい」という声の背景とは
農業は不安定な天候リスクや市場価格の変動と常に隣り合わせであり、先が読みにくい職種です。さらに、後継者不足や高齢化の進行、地方インフラの衰退も深刻です。
こうした背景があるため、国や自治体が「農家保護」政策を推進する必要性は現在も続いています。単に収入だけを見て判断するのではなく、構造的課題も理解すべきでしょう。
まとめ:儲かっているのは一部、全体像は慎重な分析が必要
コメ農家の中には儲かっているところも確かに存在しますが、それは大規模化や法人化を進めた一部に限られます。平均的な個人農家は依然として厳しい経営環境にあり、価格上昇の恩恵も限定的です。
農業全体の「儲かっている・いない」を議論するには、数値の背景や構造的要因を丁寧に見ることが不可欠です。
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