2024年後半から注目を集めている「通勤手当課税」の見直し議論。正式な導入は未定ながら、社用車通勤をしている企業にとっても無関係ではありません。今回は、通勤用に社用車を貸与している場合の税務リスクと、税務署と税理士で見解が異なるケースについて整理していきます。
通勤手当と課税の基本的な仕組み
現在、通勤手当は一定金額まで非課税とされており、公共交通機関や自家用車による通勤でも、合理的な額であれば非課税扱いとなります。しかし、給与の一部として認識されうる場合や、合理性が認められない場合は課税対象になることもあります。
政府が検討している新たな方針では、「企業負担による通勤便益」も課税対象とする可能性があり、社用車やガソリン提供といった“現物支給型”の通勤支援にも税務の目が向けられつつあります。
社用車を通勤に使用した場合の税務判断
企業が社用車を貸与し、従業員が通勤にも使用している場合、その使用状況によっては「給与所得」として課税される可能性が生じます。特に以下のような条件が重なると、通勤便益とみなされやすくなります。
- ガソリン代が全額会社負担であり、私用にも使用可能
- 休日や業務外でも車の使用が許可されている
- 車両維持費(修理・保険・税金等)も全て会社負担
このような場合、通勤費用が「実費負担ではない=便益提供」と判断され、課税対象になる余地があるのです。
税理士と税務署の見解が異なる理由
今回のように、税理士が「通勤費用は実際に発生していないので課税対象外」と判断した背景には、ガソリン代や車両費が会社負担であり、通勤に関する明確な費用負担が社員に発生していないという事実があります。
一方で、地元税務署の見解は「現物支給であっても、通勤に便益がある以上は課税対象」としており、これは所得税法における『経済的利益の供与』に基づく解釈です。どちらも法律の枠内ではありますが、解釈の揺らぎがあるため、最終的には国税庁の通達や新制度の詳細を待つ必要があります。
将来の制度変更に備える実務的対応
現時点では制度は未確定ですが、以下のような備えが有効です。
- 通勤における社用車使用ルールを明文化し、業務用途との明確な線引きを行う
- 私用利用の有無を申告制にするなど、実態管理を強化する
- 従業員別のガソリン使用量の記録を取り、必要に応じて合理的に按分する
- 今後発表される通達や政省令の動向を注視する
特に税務署対応では「合理性のある管理体制」を整えているかが重要視されるため、記録や制度整備は早めに行っておくことが望ましいでしょう。
過去の類似事例と税務調査での対応
過去には、建設業や運送業などでも、社用車の私用利用が問題視され、通勤分の便益について課税がなされた事例があります。こうした事例では、ガソリン代の均等割りによる課税額算出が行われることもありました。
たとえば、社用車を5人に貸与し、年間の会社負担ガソリン代が60万円だった場合、均等割で12万円/人が課税対象とされるケースもあったと報告されています。これはあくまで推計ですが、税務署側が合理的と判断すれば適用される可能性があります。
まとめ:ルール未確定でも準備が鍵
「通勤手当課税見直し」はまだ確定していないものの、社用車通勤や現物支給の通勤便益についても税務上の論点になることは明らかです。現場では税理士の見解をベースに運用しつつ、税務署とのやり取りでは実態把握と合理的な説明体制を整えておくことが最善策です。今後の法改正を見据え、柔軟に備えておきましょう。
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