日本の年金制度は、高齢化社会の進展にともない、継続的な見直しと改革が求められています。その中でも、1987年の年金制度改革は、制度設計上のターニングポイントとして歴史的意義が大きいといえるでしょう。本記事では、当時の改革がもたらした影響、特に第1号被保険者(自営業者・無職等)の立場への影響に焦点を当て、今後の年金制度の在り方について提言を行います。
1987年の年金制度改革とは何だったのか
1987年の年金制度改革では、厚生年金の充実を優先し、企業従業員を中心とした第2号被保険者に有利な制度拡充が図られました。一方で、国民年金(基礎年金)を担う第1号被保険者については、財源確保の観点から給付水準の引き下げが事実上容認されました。
この妥協は「制度の一体化」を名目に行われましたが、結果として職業による給付格差が広がる一因となり、現在もなおその影響が尾を引いています。
なぜ第1号被保険者が「不利」なのか
第1号被保険者は、厚生年金のような報酬比例部分を持たず、基礎年金のみで老後を支える構造です。これにより、保険料は同額であっても将来的な受給額は大きな差がつくという矛盾が発生しています。
一方、厚生年金加入者(第2号)は、企業と保険料を折半しながらも、基礎年金に加え、報酬比例部分を得られるため、明らかに有利な構造になっています。
この構造的格差は、保険料拠出の公平性や給付の正当性を問う議論の根拠ともなります。
「積立金繰り入れ」提案は妥当か
近年、年金積立金の一部を基礎年金の財源に繰り入れる案が話題にのぼっています。この案は、かつて不利な立場に置かれた第1号被保険者の「過去の譲歩に対する補正」として位置づけることが可能です。
例えば、厚生年金の積立金は2023年末時点で約200兆円とされるのに対し、基礎年金部分の財源は国庫負担や拠出金が中心で安定性に欠けます。ここに一部資金を再配分することは、制度全体のバランスを整える意義があるといえるでしょう。
制度改革における「歴史的貸し」の扱い
政策上の妥協は、その時々の政治的判断や経済状況に基づくものであり、永久に正当化されるとは限りません。1987年当時の譲歩もまた、現代における制度的修正の「理由付け」として十分機能し得るものです。
特に、基礎年金の支給水準や制度の持続性が危ぶまれる中で、制度間格差の是正は避けて通れない議題です。
過去の政策判断を反省材料として捉え、現行制度を再構築するための根拠として活用することは、むしろ責任ある政治の姿勢といえるでしょう。
まとめ
1987年の年金制度改革によって生じた第1号被保険者と第2号被保険者の待遇格差は、現代の制度議論にも影響を与え続けています。積立金の再配分や制度の統合を通じて、この「歴史的貸し」を補填する形で制度の再設計を進めることは、社会保障の公平性を担保する上でも十分に理にかなっています。
これからの制度改革では、過去の矛盾を見過ごすのではなく、透明性と公平性をもって向き合うことが、国民の信頼を得るために不可欠です。
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