近年、年金制度改革の一環として「基礎年金の底上げ」が議論されています。これに伴い、厚生年金の積立金が基礎年金の財源として利用される案が浮上し、注目を集めています。本記事では、その背景や理由、影響について詳しく解説します。
基礎年金と厚生年金の仕組み
日本の公的年金制度は「2階建て構造」となっており、1階部分が全ての国民が対象となる「基礎年金(国民年金)」、2階部分が主に会社員や公務員が対象となる「厚生年金」です。基礎年金は老後の最低限の生活を支えるための制度であり、厚生年金はそれに上乗せされる形で、報酬比例の給付が行われます。
この構造により、厚生年金加入者は基礎年金と厚生年金の両方を受給できますが、自営業者や非正規労働者などは基礎年金のみの受給となり、老後の所得格差が生じています。
基礎年金の底上げが求められる背景
少子高齢化の進行や非正規雇用の増加により、基礎年金のみを受給する高齢者の生活が困窮するケースが増えています。特に、就職氷河期世代や非正規労働者は、厚生年金に加入できない期間が長く、将来的な年金受給額が少なくなる傾向があります。
このような状況を改善するため、基礎年金の給付水準を引き上げる「底上げ策」が検討されており、その財源として厚生年金の積立金を活用する案が浮上しています。
厚生年金の積立金が使われる理由
厚生年金の積立金は、主に会社員や公務員が支払った保険料を原資としています。これらの積立金を基礎年金の財源として活用する理由は、以下の通りです。
- 所得再分配機能の強化:厚生年金の積立金を基礎年金に充当することで、低所得者層の老後の生活を支援し、社会全体の安定を図る。
- 制度の持続可能性の確保:基礎年金の給付水準を維持・向上させることで、生活保護など他の社会保障制度への依存を減らし、全体の財政負担を軽減する。
- 公平性の確保:全ての国民が基礎年金を受給することから、その財源を広く分担することが求められる。
厚生年金加入者への影響と懸念
厚生年金の積立金を基礎年金に充当することに対して、厚生年金加入者からは以下のような懸念の声が上がっています。
- 自分たちの保険料が他人の給付に使われる:厚生年金加入者が支払った保険料が、自身の将来の給付ではなく、他人の基礎年金の底上げに使われることへの不満。
- 厚生年金の給付水準の低下:積立金の一部が基礎年金に充当されることで、将来的に厚生年金の給付水準が下がるのではないかという不安。
これらの懸念に対して、政府は「長期的には全体の年金制度の安定化につながる」と説明していますが、加入者の理解を得るためには、さらなる情報提供と議論が必要とされています。
今後の課題と展望
基礎年金の底上げと厚生年金の積立金の活用については、以下の課題が挙げられます。
- 財源の確保:厚生年金の積立金だけでなく、国庫負担の増加や他の財源の確保が必要。
- 制度の公平性:厚生年金加入者と非加入者との間での負担と給付のバランスをどう取るか。
- 国民の理解と合意形成:制度改革に対する国民の理解を深め、合意を形成するための取り組み。
これらの課題に対応しながら、持続可能で公平な年金制度の実現を目指すことが求められています。
まとめ
基礎年金の底上げに厚生年金の積立金が使われる理由は、所得再分配機能の強化や制度の持続可能性の確保といった社会全体の安定を図るためです。しかし、厚生年金加入者への影響や制度の公平性に対する懸念も存在します。今後の年金制度改革においては、これらの課題に対する丁寧な議論と国民の理解を得るための努力が重要となるでしょう。
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