近年、60歳での年金繰上げ受給を選択しながら、引き続き働いて厚生年金に加入し続ける方が増えています。しかし、繰上げ受給と厚生年金の加入延長には、それぞれ特有の制度があり、誤解されやすいポイントも多くあります。この記事では、繰上げ受給後に加入した厚生年金の加算時期や、影響の有無、メリット・デメリットを具体的に解説します。
60歳からの繰上げ受給と年金減額の仕組み
老齢基礎年金および老齢厚生年金は、原則65歳から支給されますが、60歳から最大5年繰上げて受給することができます。繰上げ受給を選択すると、1ヶ月あたり0.4%(令和4年4月以降は0.4%)の割合で年金額が減額され、これは一生続きます。
たとえば60歳で繰上げると、65歳基準額の約24%減となります。つまり、本来年額100万円受給できるところが、76万円程度になります。
繰上げ受給中でも厚生年金に加入できる?
60歳で繰上げ受給を開始しても、企業等で働いて厚生年金の被保険者となれば、その期間中も厚生年金保険料が徴収されます。つまり、年金を受け取りながらも新たに厚生年金を積み立てることは可能です。
この仕組みは、特にパート勤務や再雇用で65歳前後まで働く方にとって現実的な選択肢となっています。
延長加入による年金加算「在職中加算」はいつから?
繰上げ受給後に働き、厚生年金に加入し続けた場合でも、その加入実績に応じた年金額の増額は即時には反映されません。増額分は、退職または70歳になったタイミングで「在職中加算」として加算されます。
たとえば、60歳から年金を繰上げ受給し、62歳まで働いて厚生年金に加入した場合、その期間分の加算は62歳の退職後(または70歳時点)から支給が開始されます。
なお、この加算は「在職定時改定」と呼ばれ、令和2年の法改正により、在職中でも毎年1回自動的に反映される仕組み(令和4年4月施行)が導入されています。ただし、繰上げ受給者はこの制度の対象外となります。
加算された金額は繰上げによる減額の影響を受ける?
重要な点として、繰上げ受給中に加入した厚生年金の分については、減額率の影響を受けず、満額で加算されます。つまり、年金本体は減額されたままですが、後から加算される分については、65歳基準のまま評価されます。
これは、働いて支払った保険料が無駄にならず、しっかりと年金額に反映されるという大きな利点です。
繰上げ受給+厚生年金加入のメリットとデメリット
このような選択をする場合のメリットとデメリットを整理しておきましょう。
メリット | デメリット |
---|---|
・60歳から年金受給できる ・働いた分は後で加算される ・保険料支払いが将来に反映される |
・年金額が一生減額される ・繰上げ後の在職中は在職定時改定の対象外 ・加算反映が即時ではない |
収入と支出のバランス、健康状態、就労意欲などを踏まえて慎重に判断する必要があります。
まとめ:繰上げ受給中の厚生年金加入は将来的な加算として有効
60歳で繰上げ受給を選択しても、その後に厚生年金に加入して働くことは可能であり、加入期間分の年金は将来に加算されます。しかも、その加算は繰上げによる減額の影響を受けない点が大きなポイントです。
ただし、在職定時改定の対象外であることや、減額が生涯続くことを考慮し、受給開始のタイミングと働き方はトータルで戦略的に考えることが重要です。将来の収支を見据えて、年金事務所での個別相談もぜひ活用しましょう。
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