家族の相続は感情と実務の両方を含み、長期にわたり手つかずのまま過ごしてしまうこともあります。とりあえず振り分けた名義が後になって問題となるケースも少なくありません。本記事では、兄弟間で名義分けした預金を改めて一方に集約したい場合、どのように贈与税を回避または最小化できるかについて解説します。
「とりあえず名義」でも名義人が保有者とみなされる
相続時に兄と弟それぞれの名義に「とりあえず」分けた預金は、名義を持つ人物の財産として課税対象とされます。形式的であっても、名義を移した時点で「所有者が変わった」と税務署は判断します。
そのため、のちに「実質的に私のものだった」と主張しても、証明が困難であり、原則として贈与扱いとなります。
贈与税がかからない方法はあるのか
もっともシンプルで合法的な方法は、毎年110万円以下の非課税枠を活用して数年かけて移すことです。しかし質問者のように金額が大きく、長期間をかけたくない場合は他の選択肢を検討する必要があります。
- ① 兄が名義を保ったまま使途を委ねる(贈与ではない)
- ② 相続時精算課税制度を活用する
- ③ 税理士に相談し、実質相続であったことを文書化する
ただし②と③は書面や手続きが煩雑なため、専門家の関与が不可欠です。
相続時精算課税制度の活用
この制度を使えば、贈与時には税金がかからず、最終的に相続時にまとめて課税されます。一人につき2,500万円まで非課税枠があり、超えた場合でも一律20%課税と比較的軽い負担で済みます。
ただし、この制度を選択すると、その後のすべての贈与が対象となる点や取り消しができない点に注意が必要です。
税務署が重視するのは「形式」ではなく「実質」
たとえば預金通帳の管理や引き出し履歴、印鑑の保管場所などが兄であれば、名義だけを弟に変更しても「実質贈与」と判断されます。一方で、弟が管理していた履歴や通帳を保有していた証拠があれば、実質所有の可能性も見えてきます。
そのため、税務リスクを避けるには、贈与の形を取るなら贈与契約書を作成し、通帳と印鑑の管理も明確にする必要があります。
トラブルを防ぐための兄弟間の合意と記録
今後のトラブル回避のためにも、兄弟間で正式な書面を交わすことをおすすめします。内容としては以下のようなものです。
- 兄弟双方の署名・捺印
- 対象の預金内容と金額
- 相続または贈与の目的
- 今後の管理責任と使途
将来の相続調査時にも安心できるよう、書面の保存と日付の記載は必須です。
まとめ:専門家の関与が円滑な解決の鍵
兄弟の合意があるとはいえ、相続と名義変更の問題は税法上慎重に扱うべき事項です。贈与税を回避するには「110万円の非課税枠」を使うほか、「相続時精算課税制度」や「実質所有の証明」などの手段が考えられます。
しかし最適解は個々のケースによって異なるため、税理士に相談して書類作成や届出のアドバイスを受けることが、安全かつ確実な道といえるでしょう。
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