年金受給のタイミングは、老後のライフプランに大きく影響します。特に「繰下げ受給」を利用することで年金額を増やすことができるため、多くの人が戦略的な受給時期を検討しています。この記事では、老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げが個別に可能であるか、またその順序を逆にすることができるのかについて、制度の仕組みと実際の活用方法を解説します。
老齢年金の基本構造:基礎年金と厚生年金の違い
日本の公的年金制度は2階建て構造になっており、1階部分が老齢基礎年金(国民年金)、2階部分が老齢厚生年金(厚生年金)です。老齢基礎年金は20歳から60歳までの国民年金加入期間をもとに支給され、老齢厚生年金は厚生年金保険に加入していた期間と報酬額に応じて計算されます。
それぞれ独立した制度として管理されているため、受給の開始時期を別々に設定できる仕組みが存在します。
繰下げ受給とは?仕組みと増額率
繰下げ受給とは、原則65歳からの年金受給開始を、最大75歳まで遅らせることで年金額を増やせる制度です。1か月繰り下げるごとに0.7%増額され、最大で84%の増額になります。
例:67歳で受給開始した場合、24か月×0.7%=16.8%増額されます。これは一生続くため、長生きするほど有利になる設計です。
基礎年金と厚生年金は別々に繰下げできる
実は、老齢基礎年金と老齢厚生年金は個別に繰下げ受給の選択が可能です。つまり、どちらか一方だけを先に受け取り、もう一方を繰り下げることが認められています。
多くの人が「老齢基礎年金を先に、厚生年金を繰り下げる」パターンを選択しますが、その逆——「厚生年金を先に、基礎年金を後に受け取る」——という選択も制度上は可能です。ただし注意点もあります。
厚生年金のみ先に受け取る場合の留意点
厚生年金だけを先に受け取る場合、実際には「基礎年金を繰下げ申出し、厚生年金は通常受給」という形式になります。このようにするには、年金請求書の記入でそれぞれに異なる受給開始時期を記載する必要があります。
また、繰下げる基礎年金については、事前に明確に意思表示をしておかないと、自動的に一括で支給されてしまうリスクがあります。受給開始の選択には注意が必要です。
実際の繰下げパターンの事例紹介
事例1:65歳で厚生年金のみ請求し、基礎年金は70歳で繰下げ受給。結果として、基礎年金部分が42%増額され、年額にして約30万円以上増加したというケースも。
事例2:66歳で両方を繰下げていたが、厚生年金だけを先に請求し、基礎年金はそのまま継続して繰下げ。これにより生活資金を補いつつ、最大限の増額を確保できた。
このように、ライフスタイルに応じた戦略的な組み合わせが可能です。
繰下げを活用する際の注意点と相談先
年金繰下げの選択は、生涯受給額に大きな影響を与えるため、慎重な判断が求められます。以下の点に注意しましょう。
- 健康状態:長生きリスクを前向きに捉えられるか
- 貯蓄状況:繰下げ期間中の生活費を自己資金で賄えるか
- 家族構成:配偶者加給年金や遺族年金への影響
迷ったときは、日本年金機構や年金事務所での無料相談も活用しましょう。具体的な数値シミュレーションをしてもらえるケースもあります。
まとめ:厚生年金を先に受け取り、基礎年金を繰下げることも可能
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰下げ受給の選択が可能です。そのため、厚生年金を先に受け取り、基礎年金のみを繰下げることも制度上認められています。
ただし、受給開始の手続きにあたっては明確な申出が必要で、制度理解と計画性が不可欠です。自分の健康・資産・生活設計にあわせた最適な選択を行うことで、老後の安心をより確かなものにできるでしょう。
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